沖縄名物のシラヒゲウニ復活へ 陸上養殖の最前線
度重なる乱獲で数が激減した県産のシラヒゲウニを復活させようと陸上養殖の取り組みが進められています。
新たな技術を導入し注目が高まる陸上養殖の最前線を取材しました。
最盛期の1975年には年間2200トンの水揚げがあった県産のシラヒゲウニ。
乱獲や海への赤土流入などにより漁獲量は減少の一途をたどり2014年以降は1トン未満が続いています。
この状態を改善しようと稚ウニの放流が行われたり、ウニ漁がさかんだった本島中北部の海域を禁漁とするなど対策が講じられてきましたが、生息数は増加せず十分な成果が得られていないのが実情です。
そんな中、シラヒゲウニの復活に向けて注目されているのが陸上養殖です。
▽永田裕介記者
「こちらが養殖されているシラヒゲウニです、このコンテナではおよそ1万匹のウニが飼育されています」
うるま市にあるIT事業支援センター。海に面していないこの場所でシラヒゲウニの陸上養殖を始めたのは、自動車の開発を本業としているエイムです。
▽エイム・大金良彦取締役
「自動車開発の力を他の分野に生かせればと、そしてたどり着いたのがこの陸上養殖施設『エイム人工海水ファーム』です」
県の栽培漁業センターから仕入れた稚ウニ3万匹を飼育していて、自動車開発で培った熱を管理する技術を応用し、シラヒゲウニが好む26度以上の水温や室温を保つなど生育に最適な環境を作り出しています。
▽エイム・佐々木秀和顧問
「コンテナ1個で、エアコン一つで空調管理をしています。(その他にも)自動車のエンジンの熱回収および水の周りとか、そういうところの技術をふんだんに織り込んで設計しています」
この養殖場は8つの養殖水槽と人工で作った海水を循環させる設備を備えています。
一般的なウニの養殖場は海沿いに整備され、海水を給水・排水しながら水質を維持します。
エイムの陸上養殖にはどのような仕組みがあるのでしょうか。
▽エイム・佐々木秀和顧問
「私どもの設備は閉鎖循環式と言いまして、同じ水に人工海水の素を混ぜて1年2年、同じ水をぐるぐるぐるぐる回しながらウニを育てるシステムとなっています」
ウニの糞などから発生する毒素・アンモニアをバクテリアなどの微生物を使って浄化。
これにより海が近くになくても人工海水の水質を維持することができるのです。
シラヒゲウニを養殖する上で、長年課題となっていたのが良質なエサの確保です。
天然の海藻を与えることで身入りがよくなることがわかっていますが、大量の海藻を確保することは自然の藻場の破壊に繋がります。
また、市販の配合飼料で育成はできるものの、苦み出たり色が真っ白になるなど、商品価値を生み出せませんでした。
そこで独自でエサ作りに取り組んだのが、県水産海洋技術センターの玉城英信主任研究員です。
▽県水産海洋技術センター玉城英信主任研究員
「身入りの良くなる配合飼料を開発する必要があるというのが一番のポイントでしたね」
玉城さんはクルマエビの養殖過程で廃棄される海藻などを活用し、環境への負荷を抑え、生産コストの削減にも繋がるよう工夫を凝らしました。
さらに規格外で廃棄されるニンジンやカボチャなども加え、シラヒゲウニの生育を促す良質なエサづくりに成功しました。
▽県水産海洋技術センター玉城英信主任研究員
「海藻や陸草に比べてタンパク量が多いんで成長が早くなると思います」
陸上養殖に取り組むエイムでは、玉城さんが開発したエサにバナナの葉のエキスを入れるなど独自の配合を加え、夏場までにシラヒゲウニを出荷することを目指しています。
シラヒゲウニの復活に向け県も取り組みを進めていて、県栽培漁業センターが陸上養殖の事業を後押ししています。
▽県栽培漁業センター・中村勇次副所長
「まだ養殖技術に関してはちょっと手探りだったり、データがきちんと取れてないような状況がありますので、この陸上養殖技術を確立する」
県栽培漁業センターでは漁業関係者や民間の事業者への稚ウニの販売も手掛けています。
県内では陸上養殖に取り組む事業者が増えていて、今年度の稚ウニの出荷数は前の年度の倍となる20万匹となる見込みです。
▽県栽培漁業センター・中村勇次副所長
「この陸上養殖で海の事業が復活、ウニが生産できるようになった暁には、雇用の創出、観光産業の振興に繋がるのではないかと考えています」
エイムの大金良彦さんは沖縄で開発した陸上養殖の技術を県内で広め、産業として盛り上げていきたいと意気込んでいます。
▽エイム・大金良彦取締役
「シラヒゲウニというものを一つのきっかけにして、そういった一次産業に対して二次産業との組み合わせによる新たな価値創造ができればと考えています」
新たな技術と知見で目指すシラヒゲウニの復活。
雇用の創出や観光振興にも繋がる可能性を秘めた取り組みに期待が高まっています。
あわせて読みたい記事