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陸自石垣駐屯地開設へ ”意思を示す機会”求めて

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シリーズ「大国の狭間で」

南西地域の防衛体制の強化が進められる中陸上自衛隊の石垣駐屯地が16日に開設します。

石垣島への自衛隊の配備をめぐっては2015年に計画が明らかになり、翌2016年に中山市長が受け入れを表明しましたが、賛否をめぐって市民が二分されました。

こうした中市民の意思を示す機会が必要だとして2018年に「住民投票を求める会」が発足。

必要な署名を集めて住民投票の条例案を請求しましたが市議会がこれを否決し実現しませんでした。

駐屯地開設を前に、住民投票に向けて奔走した男性に今の思いを聞きました。

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石垣市で農業を営む金城龍太郎(32)さんです。

陸上自衛隊の石垣島への配備を巡り市民が計画への賛否を示す機会を設けようと2018年から住民投票の実施に向けて奔走し続けています。

▽金城龍太郎さん
「住む人とか作業する人駐屯地に配属される人とか、そういった方は本当に末端同士で関係がぎくしゃくしてしまうというか」

石垣島の高校を卒業後、大学進学のためにアメリカに渡った金城さん。

故郷への思いが強くなり家業の農業を継ごうと石垣島に戻りましたが、自衛隊の配備計画を巡って対立する住民同士の光景に違和感を感じたと振り返ります。

▽金城龍太郎さん
「これから島で生きていく中で島の先輩方もそうですし、みんながちょっといがみ合っている状態だと暮らしづらいなっていうのは感じていました」

石垣島に自衛隊を配備する目的について、当初政府は周辺諸国の情勢などを説明しつつ災害が発生した際の自衛隊の実績を強調していました。

▽中山石垣市長
「防衛省に対し、配備に向けた諸手続きを開始することを了承する旨伝達することをご報告させていただきます」

中山市長は受け入れを表明しましたが、住民からは頭ごなしの決定だと反発する声も上がり、その賛否をめぐって島が二分されました。

こうした中、市民の意思を明確に示す必要があると考えた金城さんは住民投票の実現に向けて活動を始めます。

▽金城龍太郎さん
「島外で安全な場所にいる方がこの計画を進めたりするので。住民投票をしてお互いの意見を尊重しあいながら、島内での正解っていうのを探るきっかけを作りたかった」

地方自治法で住民投票条例の請求に必要な署名は有権者の50分の1。

金城さんたちは精力的に署名活動し、およそ1か月で有権者の4割近い1万4263人分の署名が集まりました。

▽金城龍太郎さん
「反対だから書くよ、賛成だけど書くよ、みんなの意見を意思表示する機会っていうのをどっちみち大事だはずだから、という言葉にはすごく背中を押されました」

石垣市は請求に基づいて市議会に条例案を提案しましたが議会がこれを否決。

市民から託された思いをどうにか結実させたい金城さんは、有権者の4分の1を超えた場合市長へ住民投票の実施を請求できるとした石垣市の条例を根拠に市を相手取る裁判を起こしました。

▽金城龍太郎さん
「実施しなくてもいいという前例が出来ちゃうと今後も何でもありな市政運営になってしまうんじゃないかっていう懸念があるので」

裁判は最高裁まで続き、2021年8月に住民の訴えは退けられ、敗訴が確定しました。

駐屯地の開設まで1週間を切った今月10日、沖縄テレビのインタビューに対し中山市長は安全保障にかかわる政策に住民投票で賛否を示すことはふさわしくないと述べました。

▽中山石垣市長
「これは国の安全保障全体を危機にさらすことになりますので。一地域の住民投票だけでやるやらないを決定するのは難しいのかなと。住民投票は基本的に意見をだすところであってその後に法的拘束力は無いと言いますけど、私はそれはもう必要ないのかな」

2021年、市長を支える与党は市の自治基本条例から住民投票を定めた条項を削除する改正案を提案し、議会で可決されました。

こうした市民の声を奪うような動きに金城さんは懸念を強めています。

▽金城龍太郎さん金城さん
「国防の中に僕たち周辺住民も入っているのかすごく疑問に感じます。切り捨てられたっていうか、すごく残念な思いです」

政府は去年12月に安保3文書を改定し、敵基地攻撃能力、いわゆる反撃能力の保有を明記しました。

今年1月、沖縄防衛局は石垣駐屯地に反撃能力を持つミサイル部隊の配備予定はないと説明していましたが、浜田防衛大臣は国会で含みを持たせる答弁をしました。

▽浜田防衛相
「(石垣市に)配備しないと説明していたが、我々とすればいろいろな能力を考えれば今後どうなるか分からない」

金城さんは現在、別の裁判を起こして住民投票の実施を求めて再び市と法廷で争っています。

▽金城龍太郎さん
「行政の計画を支持する人だけが住民ではないので、住民の中でも様々な意見があって計画に反対する人もいるし、可能性がある限りは続けていきたいと思います」

安全保障の名の下に当事者であるはずの住民が議論から置き去りにされ、意思を示す機会も与えられない現状がそこにあります。

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