有事の時に住民の命は守られるのか 山積する課題
今月17日、沖縄県内で初めて海外の武力攻撃から県民の避難手段などを議論する図上訓練が行われました。これまで議論されることが少なかった住民保護を巡って様々な課題が浮き彫りとなりました。
国や県、そして先島諸島の市町村から民間の航空、船舶会社などが集まって行われたのは有事の際に住民の避難をシミュレーションする図上訓練です。
▽県の担当者
「いわゆる武力攻撃予測事態を想定した緊迫期という形で」
国民保護法では海外からの武力攻撃が迫っている場合やその予測がされる場合など政府は国民へ避難を指示します。
今回の訓練はこれらの事態が認定される前に先島諸島の住民を九州へ避難させるという想定で実施されました。
▽与那国町役場総務課・田島政之課長補佐
「事態認定がいつ行われて避難開始までの期間がどのくらいあるのか」
訓練に参加した与那国町の田島政之さんです。
▽与那国町役場・田島政之さん
「避難要領は作っているんですが、作って精査すればするほど色んな課題が出てくるのでこれは底をつくまで分からないですね」
住民の避難指示は国が出しますが、具体的な実行計画は自治体に委ねられています。
与那国町では島民を1日で島の外に避難させるために与那国空港から発つ通常1日4便の航空便を11便に増便し、フェリーの車を載せるスペースにも住民を搭乗させるとしています。
一方、航空機をどのように確保するか目途は立っておらず、飛行機やフェリーが運航できない荒天時の対応など課題は山積みです。
▽与那国町役場・田島政之さん
「与那国は冬は北風が多くて飛行機も船も欠航した場合の別のプランを検討しているので、パターンは限りなく」
与那国や竹富町にとって九州に避難する上で中継地点となるのが八重山地域の要衝・石垣市です。
▽石垣市役所・真栄田義史さん
「石垣市は竹富町とか与那国町とかからの避難住民の受け入れもありますし、避難に関わる航空機や船舶の避難資機材の調達の部分っていうのは迅速やっていただけたらなと感じています」
県は八重山地域の約12万人について、航空機や船舶を2倍に増やせば6日間で避難が完了出来るとしています。
石垣市の計画でも県の試算に準じていますが、避難の際に手助けを要する人への対応など煮詰まっていないことがまだまだたくさんあります。
▽石垣市役所・真栄田義史さん
「石垣市は竹富町や与那国町の避難住民の受け入れもありますし石垣で言うと県立病院の入院されている方が265床くらいありまして、その方々が避難の準備にかかる時間とかを今後抽出していかないと実際に避難にかかる日数の計算が出来ないので」
こうした懸念を抱えるのは自治体だけではありません。
石垣市の船舶会社福山海運は国民保護法に基づいて住民の避難に協力する指定地方公共機関に定められています。
国から避難指示が出た場合住民や物資を与那国町から石垣市などへと輸送します。
▽福山海運・譜久山哲也さん
「〈石垣-与那国間の〉片道の所要時間が2時間になりますので往復だと8時間1日の輸送で2航海と。県からの指示ですので有事になった際に冷静にスピーディーに対応できるのか懸念もありますね」
今回の訓練にも参加した国民保護法の専門家、国士舘大学の中林啓修准教授は「県や市町村の現在の避難計画はまだ初期段階」としています。
▽国士舘大学・中林啓修准教授
「指定公共機関と言われるような民間で実際に輸送を担っている方たちとの議論がまだ十分入れ込めていないんですよね。避難の次のことをちゃんと考えていないと現場では回らないんだ」
「避難先での生活をどう補償するのか」など避難したあとの事も考える必要性を指摘します。
ところで住民の避難に自衛隊はどのような役割を担うのでしょうか。
国際人道法では軍事行動から生じる危険から人々を守るため、軍事と民間を区別して対処することを義務付ける「軍民分離」が謳われていて、県や市町村の計画でも輸送はすべて民間が担うことになっています。
▽国士舘大学・中林啓修准教授
「自衛隊の輸送機で民間人を、あるいは自衛隊の艦船で民間人を運ぶこと自体が民間人にとって(攻撃される)リスクになる可能性がどこかでやっぱり出てきてしまうだろうと」
一方、こうした訓練によって住民の緊張を高めたり戦争を肯定することにならないかという懸念には「訓練を重ねることで戦争を起こさないという認識を共有できる」としています。
▽国士舘大学・中林啓修准教授
「安易な戦争観を防ぐ意味でも国民保護をしっかり詰めていく上で課題の大きさとかやらなければいけない。事の重みとかをみんなで共有していく事が大事なのではないかな」
多くの課題が浮き彫りとなった住民の避難計画。
南西諸島の自衛隊をはじめ県内で軍備増強が急速に進む一方、こうした議論はまだ始まったばかりで県民の安心・安全の確保にはほど遠い現状があります。
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