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急速に変容する安全保障 ”最前線”沖縄の1年

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安保関連三文書の改定以降、南西諸島を中心に私たちの安全保障環境は目まぐるしく変わる一年となりました。

5月2日
「今まさに機体が船上へと置かれようとしています」

今年4月、陸上自衛隊のヘリコプターが宮古島沖に墜落し搭乗していた10人全員が死亡する事故が起きました。

墜落したのは熊本県に拠点を置く第8師団のヘリで当時のトップ坂本雄一師団長や宮古島警備隊の伊與田雅一隊長も搭乗していました。

なぜ第8師団の幹部らが宮古島まで来ていたのか?

安全保障が専門の沖縄国際大学・野添文彬准教授は事故の背景には「南西諸島」を自衛隊が重要視していることが挙げられると指摘します。

沖縄国際大学・野添文彬准教授
「いざという時〈有事〉には沖縄以外の場所から、輸送・援軍としての部隊を次々持ってくるっていうことが非常に大事なんだと思いますね」

機動的な役割を持つ第8師団は有事の際には南西諸島方面に展開することが想定されています。

事故のおよそ一ヵ月前に着任した坂本師団長は緊急時を見据え視察に訪れていた事がこの事故から浮かび上がってきました。

〈石垣駐屯地開設〉
2023年は県内でも自衛隊の動きが活発化した一年でした。

今年3月、与那国島、宮古島に続いて石垣島に陸上自衛隊の駐屯地が開設されました。

また、与那国駐屯地へのミサイル部隊の配備計画も公となりました。

これに先立ち政府は昨年末敵基地攻撃能力いわゆる「反撃能力」の保有や日米同盟の強化を明記した安保関連三文書の改定を閣議決定。

戦後の日本の安全保障政策の根幹だった「専守防衛」が大きく転換されたことを踏まえ、地元の住民からは不安の声が上がりました。

石垣住民説明会3月23日
「もう本当に脅威なんですよ、専守防衛じゃないそばに住んでいる人は」「どうしてもう少し外交に努力してもらえないんですか」

与那国説明会
「この説明会が終わったらなし崩し的に敵基地攻撃能力があるミサイルを配備することにならないように、この場でそれは無いですよと約束していただきたいと思います」

地元の頭越しで進む自衛隊の増強の背景について野添さんはアメリカ軍の戦略の見直しが関係していると見ています。

沖縄国際大学・野添文彬准教授
「背景として中国の軍事力増強と中国の海洋進出ということが大きいと思います。その中でアメリカとしては一国だけでもはや中国に対抗できなくなっているという中で統合抑止という形で同盟国の力を借りながら中国に対抗する」

【23年3月9日アイアンフィスト】
「オスプレイとホバークラフトが陸に近づいています」

県内では日米の合同訓練が活発に行われ訓練では自衛隊のオスプレイが初めて石垣空港に飛来したほか、アメリカ軍のオスプレイも久米島空港に初めて飛来するなどこれまで使用のなかった空港や港が使われ始めました。

沖縄国際大学・野添文彬准教授
「ミサイル攻撃をされた時に米軍基地とか自衛隊基地が容易に攻撃されてしまうわけですね。できるだけ拠点とするような空港であったりとか港湾などのインフラを使いたいってことなので」

〈11月15日MLR発足式典〉
アメリカ軍と自衛隊は部隊を分散して戦力を維持するEABOと呼ばれる作戦を進めていて、民間施設の使用はこうした作戦を念頭に置いたものと見られます。

今年11月には、EABOの中核を担うと言われるMLR・海兵沿岸連隊を発足させました。

また、第18航空団が駐屯する嘉手納基地でも民間の施設に戦力を分散させるACE(迅速な戦力展開)と呼ばれる作戦に取り組み、自衛隊と合同で訓練を実施しています。

沖縄国際大学・野添文彬准教授
「中国のミサイル能力の増強の中で米軍基地というのがますます脆弱となっていると。特に嘉手納基地って言うのはアメリカ軍にとって非常に重要な基地である一方で、真っ先に有事において狙われる危険性があるわけですね」

一方、F15戦闘機の退役が決まった後も常駐する機体が決まらず、外来機の暫定配備が続く嘉手納基地。

〈10月16日〉
「アメリカ空軍の無人偵察機MQ9がいま嘉手納基地に着陸しました」

鹿児島県の自衛隊基地で運用されていた無人偵察機のMQ-9の県内配備が唐突には発表されました。

こうした動きは極東最大の機能を持つ嘉手納基地も役割見直しの待ったただなかにあることを物語っています。

沖縄国際大学・野添文彬准教授
「嘉手納のような最前線に有力の戦闘機を置くことは危険であるという考え方がアメリカにはあるわけですよね。嘉手納基地はF15の撤退それからMQ9といった無人機の配備といった形で、大きな運用の見直しって言うのが今行われている最中なんだと思います」

暫定配備が続くことで騒音被害は増加傾向にあり、嘉手納基地周辺に暮らす人々の生活を直撃しています。

急速に進められる日米の一体化と軍備増強の最前線といえる沖縄。

有事への懸念が煽られる一方で民間施設が軍事利用された場合住民の避難はどのようにすべきか、国民保護の議論が遅れていると野添さんは指摘します。

沖縄国際大学・野添文彬准教授
「有事の際にそういう公共のインフラを使うっていうことと、民間人がそういう空港とか港湾などを使って脱出する避難していくっていう所の整合性っていうのは、いま全くまとまっていない状況だと思うんですね」

県が、今年3月に実施した国民保護計画に基づく図上訓練では民間の空港や港から住民を避難させることが議論されましたが、この時アメリカ軍や自衛隊が施設を使用することは想定されていません。

また、国際人道法で住民の避難は軍事活動と区別して対処することが義務付けられているため、自衛隊は関われず民間で担う事となっています。

沖縄国際大学・野添文彬准教授
「今の政府の方向性っていうのは軍と民が混在するっていう方向になりかねないので、そこはやはりもっと考える必要がありますし、地方自治体などを中心に声を上げていくってことが大事なんじゃないかなと思いますね」

急激な変化を遂げた沖縄の安全保障環境。

国際情勢や国防の名の下に一方的に沖縄の基地負担がさらに増すことがあってはならず、沖縄を二度と戦場にしないためにも政府には対話による地域の安定に取り組む必要があります。

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