「やーさん（ひもじい）」「ひーさん（寒い）」沖縄の小学生が学童疎開を追体験

太平洋戦争末期、アメリカ軍の攻撃を受けて多くの命とともに海に沈んだ「対馬丸」に乗っていたのは疎開のため九州に向かっていた子どもたちでした。

先月、県内の小学生が疎開先だった宮崎県を訪ね学童疎開を追体験しました。

現代の小学生たちはそこで何を学び感じたのでしょうか。

年の瀬も押し迫る先月２７日、那覇空港に集まったのは県内の小学５・６年生１０人です。

これから１９４５年に沖縄戦が起きる前、疎開先の一つだった宮崎県を訪ねます。

天妃小・仲宗根愛美さん（５年）
「疎開を体験した人の衣食住や、過ごし方。どれだけ悲しい思いをしたのかを体験できたらと思っています」

当山小・眞榮城百恵さん（５年）
「おばあちゃんが疎開先でお世話になっていた学校を見学するのがとても楽しみです」

学童疎開を追体験する３日間の旅です。

太平洋戦争末期の１９４４年、沖縄に戦争の足音が近づく中、国は沖縄から子どもや女性など１０万人の疎開を決定。

子どもたちは学校単位で親元を離れ九州各県へと向かいました。

しかし、子どもたちを待ち受けていたのは過酷な疎開生活だったのです。

鹿児島空港に到着した一行は宮崎県を目指しました。

学童疎開の記憶を若い世代につなぎ平和の礎にしたいと対馬丸記念会が企画した「学童疎開体験事業」。

３日間を通して戦争と平和について考えます。

修学旅行ではなく今回は戦時中の疎開体験。食事も当時と同じものをいただきます。

対馬丸記念館・堀切香鈴学芸員
「きょうのごはんのメニューが、大根のごはん、みそ汁と梅干し、お漬物です」

量は少なく、味付けも最小限です。

当山小・眞榮城百恵さん（５年）
「腹八分にもなっていない。全然足りない気がします。（疎開していた）子どもたちはこれすら食べられなかったかもしれないから、大変だったしひもじかっただろうなと思います」

子どもたちは研修中、質素な食事が続きます。

研修２日目、一行が訪れたのは８０年前、浦添国民学校から１３０人の疎開を受け入れた宮崎県日向市。

迎え入れたのは当時国民学校１年生だった甲斐誠二さん（８６）。

浦添から来た疎開学童の過酷な生活を鮮明に記憶していました。

子どもたちは疎開にゆかりのある地を見学

甲斐誠二さん（８６）
「疎開生は。薄着で来ていました。とても寒い冬でしたので、子どもさんは大変寒かっただろうと思います。”ひーさん、ひーさん”ということでしょうか」

二度と子どもたちに同じような体験をさせてはならないという思いで語り部として活動しています。

甲斐誠二さん（８６）
「私、（国民学校の）１年生で見たあの印象が目に映っています。まだ目から離れません。涙が出ます」

戦後、日向の人々は平和の誓いを込めて市内随所に記念碑を建立。「物言わぬ語り部」として学童疎開の過酷な記憶を伝え続けています。

日が沈みかけているこの時間、子どもたちが訪れたのは港。

この研修の重要な企画、船に乗って暗い夜の海に出るためです。

疎開する学童たちは船に乗せられて九州へ向かっていました。

３日３晩かかったといわれています。

１９４４年８月、学童を含む１７００人あまりを乗せ九州に向かっていた疎開船・対馬丸はアメリカ軍の攻撃を受けて沈没。

分かっているだけでも７８４人の学童が犠牲となりました。

暗い海に投げ出されるとはどういうことなのか。わずかでも感じ取ってほしいと考案された企画です。

天妃小・仲宗根愛美さん（５年）
「投げ飛ばされるって考えたらとにかく怖いし、緊張したし怖かったし、何よりも海風が寒かった」

真地小学校・大濱梨乃さん（６年）
「（周りが）見える暗さだったけど、多分当時はもっと見えなくて何もできない状況だったと思う。もう怖くて仕方がないです」

研修３日目の研修最後の食事
「少ないよ、量」「最後のやーさん飯です」「手を合わせていただきます」食事の様子

真地小・大濱梨乃さん（６年）
Ｑ「今食べたいものは何ですか？」
「沖縄の料理。沖縄そば。食べたい」

大謝名小・與那覇朝惟さん（５年）
「今まで普通に食べていたものは、当たり前のことではないということが分かりました」

宮崎で過ごした３日間、戦時中の学童たちの貧しさや過酷な生活環境に思いを馳せた子どもたち。

事前学習で当時の状況を勉強してきましたが、実際に体験することでどのようなことを学び感じたのでしょうか。

当山小・眞榮城百恵さん（５年）
「家族と離れ離れになるってあんまりないことだから、疎開中の子どもたちも周りに知っている人たちがいなくて、寂しい思いをしたと思います」

北谷小・上間叶葵さん（５年）
「一番は家族に会いたいっていう寂しさが出てきちゃうかな。（寂しさは）疎開した子たちが感じたことと一緒なのかなと思っていて、この気持ちを大切にしたいなって思います」

１９４４年８月の対馬丸事件の悲劇からまもなく８０年が経過しようとしています。

疎開とは何だったのか、戦争が遺したものは何なのか。記憶をどう繋ぎ伝えていくか、これからを生きる若い世代へバトンが渡されようとしています。