公開日
真栄城 潤一

真栄城 潤一

世界の見方をちょっと変える入口としての「BANKSY(バンクシー)」

世界の見方をちょっと変える入口としての「BANKSY(バンクシー)」

アート・テロリスト、ストリート・アーティスト、覆面アーティスト、グラフィティ・ライター、ヴァンダリスト(公共物破壊者)、政治活動家……。
これらの肩書は全て、イギリスを拠点にしつつ世界各地でゲリラ的に芸術活動をしているアーティスト「BANKSY(バンクシー)」を形容する時に使われているものだ。バンクシーの名前を知らなくても、黒色を基調にした写実的なタッチで、宙に浮く赤い風船を見つめる少女の絵や、顔の半分をバンダナで隠して一部だけカラフルな花束を投げようとしている青年の絵を見かけたことがあるかもしれない。

日本での知名度を“爆上げ”した2つの出来事

2018年10月、ロンドンで行われたオークションでバンクシーの絵画作品「風船と少女」が競売にかけられ、約1億5,000万円での落札が決定した瞬間に額縁の中に仕掛けられていたシュレッダーによって裁断されるという“事件”が起こった。この出来事が世界中でセンセーショナルに報道され、日本でもワイドショーが話題する程の騒ぎになり、現代アート好き以外の人たちにもバンクシーの名前が広く知れ渡った。

さらに日本国内で言うと、上記の「シュレッダー事件」の熱が冷め始める頃(?)の2019年1月に小池百合子東京都知事が「あのバンクシーの作品かもしれないカワイイねずみの絵が都内にありました!東京への贈り物かも?」とTwitterに投稿した。これを多くのメディアが大々的に取り上げたことで、日本のお茶の間でバンクシーの知名度は爆上がりすることとなった。

このくだりの作品は東京都港区のゆりかもめの日の出駅付近の防潮扉に描かれたネズミ。トランク片手に傘を差し、旅に出かけるのかその道中にあるのか、可愛らしい雰囲気の絵だ。この絵は20年近く前にバンクシーが来日した際に描いたものだとされている。

正体不明でなければならない意味

肩書の中に「覆面アーティスト」とあるように、バンクシーが誰なのかというのは現在分かっていないし、バンクシー側も意図的に明らかにしていない。正体を巡っては、いくつかの具体的な人名も挙げられて世界中で議論されるほど注目の的になっているが、確定情報は無く不明のままだ。
 
「バンクシー」をググってみると、候補には「バンクシーとは」「バンクシー 誰」といったフレーズも出てくるし、「正体は?」「何者か?」という記事も多く表示される。近年は作品やプロジェクトの規模が大きくなってきていることもあり、「バンクシーは複数いる」という説もあるが、バンクシーは1人だけで、作品制作に関わる複数のメンバーを含めたチームで動いているという見方が一般的になってきているようだ。

そもそもバンクシーがなぜ匿名でアーティスト活動をしているのかというと、その表現活動が違法・非合法だからということが大きな理由の1つになるだろう。
バンクシーの表現は公共施設などの壁面に文字や絵を描く「グラフィティ」というストリート・アートで、基本的に所有者や管理者の許可を得ずに行う。つまり、グラフィティは端的に言ってしまえば違法な“落書き”。それゆえ、常に逮捕や取り締まりによって活動が制限される可能性があるので、正体を明かさないのはそのリスクを回避するという側面がある。

ストリート・アートが投げかけるもの

ただ、グラフィティがニューヨークの貧しい黒人コミュニティからヒップホップの流れで生まれてきたものだという成り立ちや経緯を踏まえると、話は少し違ってくる。逮捕のリスク回避以上に「公共的な空間が誰のものなのか?」という問いを投げかけるため、という意味も帯びてくるからだ。

長いのか短いのかはさておき、人類の歴史に目をやれば本来人間は公共の空間で自由に表現することで多くの人々とその楽しみや喜びを共有してきたはずだけれど、近代化を経ていつの間にかそうした空間は国や自治体などが“独占的”に管理するようになった。そして市民である我々も、いつの間にかそれを受け入れてしまったように思える。「公」の場は、国や自治体“だけ”のものではなく“みんなのもの”なのに。
そんな現状の中で、公共空間から排除された無名の人々、無数の人々の声や抵抗を表現するため、バンクシーは敢えて匿名というスタンスを通しているのではないか、なんて考えると、その作品の数々やパフォーマンスに込められたメッセージに幾重もの意味を読み取ることができる。

そして、そんな無名の無数の人々を象徴しているのが、バンクシー作品に頻繁に登場するネズミたちだ。都市の生活から排された困窮した人々やホームレス、移民・難民など、近代的なまちづくりの景観を作り上げる過程で不可視化された様々なマイノリティの人たちを、ともすれば害獣とされるネズミに重ねることが何を意味するのか。

こんなことをぐるぐると思考する/させられることも、バンクシーの作品やアート・プロジェクトを味わう楽しみの1つだ。

捕まらないようにサッと描くための「ステンシル」

世界の見方をちょっと変える入口としての「BANKSY(バンクシー)」

バンクシー作品のトレードマークとも言える代表的な手法は「ステンシル」と呼ばれるもので、事前に段ボールなどの厚紙を切り抜いて描きたいモチーフの紙型を作っておき、壁面にその紙型の上からスプレーで塗料を吹きかけて絵を完成させる。
描く場所や位置さえ決まっていれば、スプレーをシューっと吹いてサクッと完成させることが出来るため、制作現場での滞在時間が短くなるという意味で(違法行為としての)落書きには非常に実践的な手法だと言える。

バンクシーの作風は、黒色が中心で知的な雰囲気をまとっており、絵自体は写真的・劇画的なタッチのものや、小池都知事がツイートしたバンクシーのモチーフであるネズミ、さらに超有名なキャラクターやロゴのパロディだったりと、かなりのバリエーションがある。

バンクシーなら沖縄をどう描くか(という妄想)

バンクシー作品の大きな特徴は、グローバルな現代世界で共有された社会的・政治的な問題をテーマにしていることだ。それも、多くの人たちに届くように図像化し、風刺し、おちょくり、面白がる形で。

ロケット・ランチャーを肩に構えたモナ・リザや、爆弾を抱きしめる少女、防弾チョッキを着用した平和の象徴である鳩を描いた作品には、分かりやすく「反戦」という強いメッセージが込められている。これらの作品の背景には、イラク戦争やパレスチナ問題、シリア内戦など世界各地で起きた/起きている戦争がある。

国外の、遠い世界の話のように感じるかもしれないが、沖縄にも広大な軍事基地があることを忘れてはいけない。アメリカ、日本、沖縄の関係性や歴史は、バンクシー作品になり得るような“ネタ”で溢れているように思うのは筆者だけだろうか?
米軍絡みの事件や事故、あるいは日本政府の沖縄に対する理不尽な態度や姿勢が露見する度に「バンクシーならどんな作品にするんだろう」という妄想をついついしてしまう。もしかしたら、既に県内のどこかに作品があるかもしれない…。

世界の見方をちょっと変える入口としての「BANKSY(バンクシー)」

茶化せる程度には、政治に関心持っても良くない?

そのほかにも、ベトナム戦争時の米軍の空爆から逃げ惑う少女の手を引くマクドナルドのドナルドやディズニーのミッキーマウス、格差や貧困、大量消費社会、軍需産業など様々な政治問題をアトラクションや有名作家たちの作品で提示した反テーマパーク「ディズマランド(DISMALAND、dismalは「憂鬱な」という意味)」では、資本主義への疑問を盛大にブチかましている。

冒頭で触れたシュレッダー事件も、商業主義的なアート市場のあり方や資本主義を批判するパフォーマンスだと言えるだろう。ただし、その後シュレッダーで裁断された作品は“オークションの最中に裁断された珍しい作品”として落札者がそのまま買い取り、展示公開されたことで価値が倍増したという顛末は皮肉と言わざるを得ない。

日本では、アートやエンターテインメント作品に政治的な要素が入り込むことに対して拒否感を示す人が少なくない。数年前のフジロックフェスティバルの際に「音楽に政治を持ち込むな」とツイートする人がいたり、政治的なことに言及した芸能人に対して「政治的な発言をしたことに幻滅しました」と言い放つ人もいる。

だが、そんな風に政治的な物事に対して拒否感や忌避感を表明すること自体が、むしろ強い政治的な意味を持つことにもなる。「政治的な主張を全くしない」ということも1つの立派な政治的判断だと言えるし、「音楽から政治を切り離すべきだ」ということもまた、政治的な主張にほかならないからだ。

この世界で人間と生きている以上、絶対に政治と無関係ではいられない。それならせめて、政治的な話題や物事について思考を止めてただただ突っぱねるのではなく、笑って面白がれるくらい、ふざけて茶化せるくらいの関心を持ってみてはどうだろう。

バンクシーの一連の作品やパフォーマンスは、その入口としてうってつけだと言える。ポップでクールだけれど、同時にうっかりしてるとケガをするような鋭い棘もある。そんな作品を目にした時に、ププッと吹き出しながら思ったこと、よくこんなこと思いつくよなあと感心した感覚、あるいは腑に落ちないモヤモヤについてきちんと向き合って考えたら、これまで見えてなかったものが見えてくるかもしれない。例えば、ネズミとか。

<参考文献>
・毛利嘉孝『バンクシー アート・テロリスト』(光文社新書)
・毛利嘉孝監修『覆面アーティスト バンクシーの正体』(宝島社)
・パトリック・ポッター著、毛利嘉孝・鈴木沓子訳『BANKSY:YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT』(PARCO出版)
・大山エンリコイサム『ストリートの美術 トゥオンブリからバンクシーまで』(講談社選書メチエ)

Information

沖縄_バンクシー展
バンクシー&ストリートアーティスト展ペアチケットプレゼント!!

//
📢バンクシー&ストリートアーティスト展ペアチケットプレゼント🎁
\\

人気イベントのペアチケットが貰える‼

▼クイズ
シュレッダーで裁断されたバンクシーの絵画作品とは?

①@okitiveをフォロー
②引用RTで回答& #バンクシーokitive をつけて投稿
③後日当選者にDM📩

https://twitter.com/okitive/

あわせて読みたい記事

HY 366日が月9ドラマに…

あなたへおすすめ!