コラム
「戦争から隠れたい」と言った君へ【金城わか菜のカフを下げて】
台風が過ぎ去り、外の空気に少し秋の気配を感じるようになりました。
マイクのオン/オフを切り替えるカフスイッチ。
カフを下げて、アナウンサーのよもやま話をお伝えします。
私が勝手に「先生」と慕う作家とは・・・
第一子を授かったときのこと。
久しぶりに児童文学作家・松谷みよこ氏の代表作「モモちゃん」を手に取りました。
これは幼少期の私の愛読書。
何を隠そう、私の子どもの頃の夢は童話作家。
小1の時、学校に来たテレビ局のインタビューで私は「松谷みよこ先生のような童話作家になりたいです!」と答え、放送を見た両親は吹き出したといいます。
作家になりたいというのは親も初耳で、さらには松谷さんを図々しくも「先生」と慕っているのですから!
「モモちゃん」シリーズは松谷先生の愛娘を主人公にした物語。
登場「人物」は多くいませんが、飼い猫のプーや、カレーの材料となる野菜たち、夜空に瞬くお星さまが優しく語りかけ、それらはみんなモモちゃんの友達です。
現実と非現実のはざまで紡がれる不思議な物語、きっとモモちゃんだけでなく、すべての子どもたちの目の前で繰り広げられているのでしょう。
松谷さんからママたちへのメッセージ
ママになる準備をしていた5年前、改めてこの本を読み返すと、「あとがき」に松谷先生の興味深い言葉がありました。
「いろいろな子どもにエピソードがあるので書き留めておくとよいですよ。それぞれのうちの本が生まれるのだから。」という母親たちへのメッセージです。
「はい先生!私も坊やとの出来事を記録して、我が家の物語を作ります!」と日に日に大きくなるお腹をさすりながら、当時の私は誓ったのでした。
ところが!先生すみません、育児ナメてました・・・
いざ、子どもが産まれてみると、記録うんぬんという場合ではありません。
昔から日記をつける習慣があり、文章を書くことも好きなのですが、母親になって綱渡りのような毎日の中、ペンを執る余裕なんてありません。(風呂あがり濡れたままの子どもを、バスタオルを広げて追いかける日々に、そんな時間があろうか、いやない。)
母子手帳も生後3か月健診を過ぎた頃から空白が目立ち、保育園の連絡帳も「げんきです(=異常なし!の意)」と殴り書きをするだけのことも。
嗚呼、モモちゃんのような野菜とのおしゃべりは?星の世界への旅は?
我が家の物語はいまだ白紙のままです。
こうした中でも、どうしても書き留めなくてはならない出来事がありました。
「おきなわ」ではないどこかへ行きたいワケ
ある夜のこと。夕飯もシャワーも済ませ、子ども達とのんびりと過ごしていた時。
いつもは騒がしい長男(5歳)が、その時は珍しくひとり物思いにふけるように静かにソファに横たわっていました。
そしてふとつぶやいたのです。
「マーマー、とうきょうにいきたい」
「行きたいねぇ~。ヒーローショー観たい?東京に行って何がしたい?」と軽く聞き返すと、彼は少し黙って小さな声でこう続けました。
「・・・れたい」
「ん?なに?」
「とうきょうにいって、せんそうから、かくれたい・・・」
まるい瞳からこぼれ落ちた涙。
あわてて腕で顔をぬぐう息子。
私は言葉を失ってしまって「大丈夫、戦争があってもママが絶対守るから」と伝えるのがやっとでした。
本当は「大丈夫、戦争は起きないよ」と言いたかった。
でも言えなかった。
口惜しさと悲しさが混じった感情のまま、この夜を終えました。
隣の国の軍事演習で、弾道ミサイルが与那国島沖に落下したというニュースを報じた翌日のできことでした。
沖縄で生まれ育った使命と、戦争を伝える難しさ
77年前、戦場となった沖縄。
鉄の暴風の中を命からがら逃げまどい、戦後も苦難の連続だったうちなーんちゅの記憶をどう継承していくかが問われています。
戦の恐ろしさ愚かさを体験者のみなさんが教わったからこそ、平和を希求する灯火は決して絶やしてはならない。
沖縄に暮らす私たちは皆、なにか共通の「使命感」を抱いているのではないでしょうか。
報道に携わる私もこれまで戦争体験者から話を聞いたり、慰霊の日に執り行われる全戦没者追悼式の取材を通して、微力ながら次世代に繋ぐ火をくべる方法を探ってきました。
放送内容はコチラ
「戦争とは」「平和とは」少し鼻息荒かったかも・・・
母親になった今、世界で起きていることと同時に沖縄戦のことも伝えなくてはならないと強く感じています。
また私はアメリカ軍基地に囲まれた街で育ち、今もそこで子育てしています。
お空を飛ぶ飛行機は戦争のためのものだと、繰り返し長男に話してきました。
幼子が理解できただろうか、いまいち手ごたえが掴めず、少し意気込みすぎていたのかもしれません。
でもこの前の出来事で、息子は幼いながらにしっかり受け止めていたんだと感じました。
沖縄の昔と今、国際情勢のニュースが重なり、怖くて怖くてたまらなくなって「せんそうからかくれる」ためにここではないどこかに行きたいと涙を流した彼。
その姿に、ハッとさせられました。
私たちは戦争の怖さはもちろん、未来への希望も伝えなくてはならないんだと。
未来に希望をもつためには― 模索は続く
松谷みよこ先生なら、子どもたちにどう伝えるだろうと思います。
「モモちゃん」や妹の「アカネちゃん」シリーズには、親の離婚、戦争といった描写もあり、大人の不条理を子どもの目の高さから捉えています。
松谷先生、今の世の中に必要な物語はなんですか。
この瞬間も音や光や熱に怯えながら「かくれたい」と思っている子たちに、どうすれば希望が届けられますか。
我が子を抱きながら、心の師に問いかけています。
んで?我が家の物語、次章はどうなる?
というわけで・・・なんだか重い気持ちになってしまいました。
ところで・・・松谷先生のアドバイス通り、私が子育てエピソードを継続してメモる日はくるのでしょうか?いや、ない。
童話作家の夢はやはり叶いそうにありません。
おまけ~今月のお仕事~
不登校や引きこもりの居場所kukuluを取材しました。
ここは何年も前から継続して取材を続けている場所で、いつも私に気づきを与えてくれます。
この日は選挙権を持つ若者たちに、知事選挙に託す思いを聞きました。
これまでのように個別インタビューではなく、座談会にしたので緊張がほぐれたのか、前回より彼・彼女らしい素顔が引き出せたと思います。
放送内容はコチラ
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