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OTV報道部

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「家族のために強くならないといけない」30代で若年性認知症と診断された男性の決意

若年性認知症は、アルツハイマーなどといった脳の疾患により64歳以下で発症する認知症を指し、国内では10万人に50.9人の当事者がいるといわれているが、支援体制には課題もある。

こうした中、認知症について正しく知ってほしいと、2016年に顔と名前を公表して自らの体験を語った大城勝史(かつし)さんの行動が多くの人に勇気を与え、認知症になっても安心して暮らせる社会を目指して「希望のリレー」をつないでいる。

殻に閉じこもって暗いトンネルを歩いている感じだったが心境に変化が

このほど沖縄県が創設した認知症希望大使に任命された大城勝史さん(48)

2023年9月14日に開催された県民フォーラムの中で、「殻に閉じこもって暗いトンネルを歩いている感じだったが、たくさんの人に支えてもらい、心境に変化が出てきた。当事者・家族・地域の人が安心して暮らせる社会になるため、皆さんも一緒に考えてもらえたら」と語った。

30代のころから人の顔や時間、場所などが判別できなくなる症状が表れ、アルツハイマー型の若年性認知症と診断された。

大城さんは2016年、沖縄県内で若年性認知症の当事者として初めて名前を公表。
記憶が消えていくため、毎日の出来事や感じたことをノートやブログに欠かさず記録し、自身の半生や思いをつづった自著が県産本大賞に輝いた。

家族がいるから強くならないといけないという思いは強い

大城さんは家族との時間を大切にしたいと、自らの体験を語る活動をしばらく休止していた。

Q.この7年間で体調に変化は?

若年性認知症の当事者 大城勝史さん
「(脳が)疲れやすくなったと感じるため、仮眠の時間が多くなっています。私は覚えることはできないが、子どもの記憶に残っていたらいいなと思って、子どもと過ごす時間をつくっていました」

大城さんは「1人だったら仕事を辞めていた可能性もあるが、家族がいるから強くならないといけないという思いは強い」と話し、父親としての責任感と、3人の子どもたちに対する愛情は何ら変わることはなく、症状の進行を薬で抑えながら、自動車販売店で仕事を続けている。

空白の期間を短くするかが一番の課題

大城さんが認知症と向き合いながら生活していく上で大きな役割を果たしたのが、若年性認知症支援コーディネーターだ。

若年性認知症支援コーディネーター 安次富麻紀さん
「若年性認知症の当事者を取り巻く環境は一人ひとり違い、高齢者にはない支援が3つあります。仕事の関係者、生活を立て直す人、子どもがいれば児童家庭課。それらをつなげていくネットワークづくりが求められています」

国内で若年性認知症の当事者は人口10万人あたりおよそ51人いるとされている。

個別の状況やそれぞれのニーズに沿った支援が必要となるが、沖縄県内の支援拠点は宜野湾市に1カ所しかなく、コーディネーターを委嘱する県はサポート体制を拡充するため、拠点や人員を増やすことも検討している。

認知症と診断されたあと、いかに早く支援に繋げることができるかがその後の生活に大きく影響する。

安次富さんは、「診断を受けたら落ち込み、閉じこもりの状態が続くと社会から分断された生活を長く続けることになる。そうすると本人の認知機能が働いている期間があるが、それも過ぎ去ってしまうため、 “空白の期間”を短くすることが一番の課題だ」と話す。

認知症に対する偏見は自分がいちばん持っていた

物忘れや難聴の症状が表れても更年期障害などいった別の病気や疾患を疑い、認知症の専門医につながるまでに数年を要するケースもある。

若年性認知症支援コーディネーター 安次富麻紀さん
「大城さんも偏見の壁があったと言っていたが、本人も家族も全ての人が認知症を正しく理解することが一番の近道。全ての方に学びの場や情報が取れる場を提供したいです」

大城さんは早い段階からコーディネーターのサポートを受けたことで、職場への理解につながった。

若年性認知症と診断されてから8年。
大城さんは「みんなやりたいことやチャレンジしたいことは違う。私がやりたいことは、家族のために少しでも長く働きたい。働くために会社や同僚が心くばりしてくれた」と語り、周囲の人たちに支えてもらいながら、自分らしく人生を歩んでいる。

若年性認知症の当事者 大城勝史さん
「“認知症に対する偏見”は、自分が一番持っていました。診断されてから数年経っていく中で、今の自分なら『いや違う』『認知症だから寝たきりになるのではない』と言えます」

大城さんのニュースを見なければ引きこもっていたかもしれない

「認知症への誤解や偏見を無くしたい」という大城さんの思いは、他の当事者も突き動かした。

大城さんとともに希望大使に就任した新里勝則さん(64)
認知症と告げられた時には「人生終わりだ」と感じ、家から出なく引きこもっていたが、大城さんの講演をテレビで見て「自分も公表しよう」と思い、「大城勝史さんのニュースを見なければ引きこもっていたかもしれない」と話す。

同じく希望大使に任命された喜屋武(きゃん)直子さん(62)は、新里さんの姿に感化され、県からの打診を引き受けた。

認知症になっても前向きに生き生きと暮らせる社会をつくるため、当事者たちが「希望のリレー」で思いをつなぐ。

大城さんはフォーラムの中で、「今でもたくさんの人に支えてもらい、私らしい人生を送ることができているので、誰もが安心して笑って暮らせる社会になるよう、微力ながらお手伝いしたい」と胸の内を明かした。

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