コラム
キングス 桶谷大HCが語る激動の2023-24シーズン 「バスケの文化を繋いでいきたい」【植草凜の なんでもかんでも日記】
目次
広島ドラゴンフライズとのチャンピオンシップファイナルを戦い抜いて5日後の6月2日。
琉球ゴールデンキングスの桶谷大ヘッドコーチに植草凜アナウンサーが単独インタビュー。
激動の1年を振り返るとともに、指揮官としての信念、名将が見据える未来を聞いた。
全77試合 B.LEAGUEのチームで一番長かったシーズン
2023-24シーズンは、EASL(東アジアスーパーリーグ)、天皇杯もあり全77試合、キングスはリーグの中で最も多くの試合数をこなした。
桶谷HC「例年以上に負けが込んだ、苦しんだシーズンではあったと思います。
その分、長かったという想いもあって。改めて感じることは、人として成長できたシーズンだったかなと思いますね。」
植草「これほどタフなシーズンは過去のヘッドコーチ人生でありましたか?」
桶谷HC「優勝した後というのもあったんですよね。自分たちが思っているようなバスケットは本当にさせてもらえない。相手も王者との試合ということでモチベーションも上げてそれなりの対策をしてくる。EASLもあって、かたや準備できるチームと準備できないチームみたいな構図もありながら、結果が残らないと、「なんでこんな風になる…」と。本来であれば練習してある程度その部分を修正できるはずなんですけど、また次試合が来て。うまくいかないジレンマをすごく今シーズンは感じていましたね。それでも戦い続けないといけなかったし、何かを捨てながら、でも何かを掴みにいかないといけない。そういう日々を送っていたなと感じますね」
そして、人知れず重圧とも戦っていた。
桶谷HC「優勝しないといけない。連覇しないといけない。自分自身では感じないようにしていたんですが、プレッシャーがかかる中でのシーズンだったので。常に命を削られているなというのは感じていましたね。」
連覇というプレッシャーとも戦っていた桶谷ヘッドコーチ。“連覇”という言葉に対して桶谷ヘッドコーチは特別な意識を持っていた。
植草「セミファイナル沖縄アリーナの最終戦のインタビューで、アナウンサーが「次は連覇ですね」と話して、桶谷さんが「もう言っていいかな」と漏らす一幕がありましたよね。
練習を取材した際、「今年は今年のチームだから連覇という言葉は使わない」というお話をしていましたが、どんな心境の変化があったんですか?」
桶谷HC「僕が良くなってきたなと思ったのが、去年居なかったメンバーから「連覇しようぜ」という声を聞いたんですよ。その時にそういう気持ちでいてくれるならそろそろ連覇という言葉を言ってもいいのかなという気持が少なからずできて。去年一緒にプレーしていないメンバーに連覇という言葉を使うのは本当は良くないじゃないですか。今年は今年のチームだから。そういう意味もあってプレイヤーやスタッフみんなが連覇という言葉を使えるようになった時に使えたらいいなと思っていたので。あのタイミングで連覇できるタイミング、チャンスが来たのであのタイミングになったかなと思います。」
天皇杯決勝の大敗から這い上がってきた終盤戦
植草「今年は長くていろいろな波があったので思い出すのも難しいかもしれませんが、今年一年で一番チームが上向きだった試合。逆によくここから這い上がってこれたなと思うくらい沈んでいた時期はありましたか?」
桶谷HC「勢いがあったのは天皇杯前ですね。一番負けないチームになるなと思ったのがCSに入ってからですね。一番強い時期がCSだったと思います。チームが一致団結して戦うぞと、みんな同じベクトルで戦えていたので。勢いがあった時期は天皇杯前の連勝の時が勢いは一番あったと思いますね。」
桶谷HC「しんどくなってきたのは天皇杯の千葉戦に負けてからですよね。チームも雰囲気が暗くなってしまいましたし、僕たちがああいった自分達らしくない試合をしてしまって、取り戻すのは簡単なことではなかったというのは正直ありましたね。1試合で自分達を取り戻すことはできないし、自信を取り戻すこともできないし、強いキングスを見せる、応援してもらえるキングスを見せるという意味でも、あの時間はしんどい時期やったなと思いますし。ただああいうことがあったからこそ、自分たちも強くなれたとは思います。」
3年連続でたどり着いたファイナルの舞台
天皇杯の大敗を乗り越え、CSでも試合を重ねるごとに成長した姿を見せてくれたキングス。しかし激闘を勝ち抜き辿り着いたファイナルの舞台では、準優勝を告げる試合終了のブザーを聞くことになった。
桶谷HC「(ブザーを聞いたときは)終わったなーという感じでした。感情が本当に分からなくて、正直今でも分からないんですよ。どういう顔をして沖縄を歩いていいのか分からないし。かたやおめでとうありがとうという声も聞こえるし。でも自分たちの中では優勝できたのにというのもあるし、もう少し良いオフェンスできたなとか、そういうのもあるし。いろんな感情が自分の中にありすぎて割り切れない。今もずっとそれを消化するために過ごしている日々ですね」
植草「ゲーム3の会見で、広島のDFに対しての策を出してあげられなかった悔しさを語られていましたが、ヘッドコーチ対ヘッドコーチという部分でも感じる悔しさもありますか?」
桶谷HC「そこは負けているつもりもないし、ただ一本のシュートさえ入ればという試合だったんですよ正直。最後は15点差がつきましたけど、やっている時は一本入ったら一気に自分達のペースになるというプレーを作れなかったというところですよね。相手に負けた、相手のヘッドコーチに負けたということはなくて、戦術で負けたというのもない、彼らも僕たちの戦術に対して良いシュートを決められたかというと数多くは決めていないし。でもここ一本のシュートを決めてきたというのは、このゲームのあやだったと思うんですよね。
僕の職業としてはあと1点決めさせてあげられたら流れは変わったなというのはあったと思います。」
植草「コート上でプレーするのは選手で、ヘッドコーチとして選手にシュートを決めさせてあげたい、その時に桶谷さんがコントロールできる部分はどういったところですか?」
桶谷HC「プレーを作るとかどういうオフェンスを心がけるとか、プレーセット一個だけでは無理なんですよね。でもそこから流れが変わることもあるし、スイッチディフェンスに対して何個か策はあったんですよ。ただシュートが入らなかったり、ターンオーバーしたり。それでリズムがつかめなかった。ひとつのパスが一瞬遅れたり、状況判断が遅れたりしてうまくいかなかった。用意したものでポイントを作っていけなかったところ。いま思い浮かぶところでも、もっとやり続けたらいいこともあったのか~とか。いろいろ考えて消化しきれない部分がずっとあります」
「同じ方向を向いたときにチームは強くなる」
ヘッドコーチ就任後3年連続でキングスをファイナルの舞台へと導いた桶谷大ヘッドコーチ。リーグのレベル自体も年々上がってきていると言われるなかで、頂点を争う舞台へとチームを常に引き上げることができるのはなぜなのか。
桶谷HC「これだけ強豪チームがたくさん増えてきているなかで、ファイナルへ進出することは簡単なことでは絶対にない。ただそれを成し遂げているのは誰かひとりの力ではなくて。結局はチームの総合力、球団の総合力というところなので。それぞれが自分たちの場所で役割をまっとうした結果がファイナル進出だと思っていて。そして応援してくれている人たち、応援してくれている力が、頑張れる源に間違いなくなっているので、本当に感謝したいなと思います」
桶谷HC「僕はずっと思うのが生産性だと思っているんですよね。結局はどれだけ良い選手がいても、どれだけ良いコーチがいても、どれだけ良いスタッフがいても、みんなが同じ方向でやり続けること。相手がいるスポーツなので、自分たちでずっと思い通りにいく訳ではないですよね。自分達の思っていないことも起きるし、運もなかったらいけないという時もあるなかで、常に同じベクトルで誰かを批判することなく、チームとしてずっと勝ちも負けも経験していくこと、共有していくことが重要だと思っています。そこで初めてチームの生産性が出てくる。高い生産性が出てくると思っていて。5人タレントプレーヤーがいたとしても、同じ方向を向いてプレーしないと、ちゃんと役割をまっとうしているチームの生産性には絶対叶わないというのは間違いなくあると思っていますね。」
植草「特にチャンピオンシップに入ってから、ベクトルが同じになって東京戦・千葉戦を勝ち抜きました。あそこまで持ってこられた要因、あのチャンピオンシップを勝ち抜けた強さの要因についてどう感じますか?」
桶谷HC「キングスのブースターの力ですよ。ここで負けてくれるなよ!という(笑)。 そして総合力だと思います。結局はチームの、球団の総合力だと思っているので。チームだけではなくて、選手だけではなくて、コーチ・スタッフも含めて、関係者、ファンのみなさんもそうですし、それがマッチしたときに前に進める、高いところに登れるんじゃないかなと思いますね」
植草「千葉戦は初戦で大差をつけられました。そこからもう一回巻き返せた。波があるのは精神的にもしんどそうですが、千葉戦の2戦目3戦目を取り返すことができた要因はありますか?」
桶谷HC「少なからず天皇杯を引きずっている感じはあったんですよね。レギュラーシーズン(4月)で2つ千葉に勝った時もクリストファースミス選手とジョンムーニー選手が居なかったので、2人がいる状態で本当に自分たちが勝てるのか、天皇杯の二の舞になるのではないかという風に、第六感みたいなものを感じていて。だからこそ、その雰囲気を変えたかったというのはありましたね」
植草「千葉戦第3戦の前のミーティングを客席を見下ろすアリーナの5階でやっていましたよね。あのタイミングでミーティングをあの場所でやったのはどんな意図がありましたか?」
桶谷HC「もともとのアイデアはアシスタントコーチの幸地渉と穂坂健祐と、そういうのも面白いですよねという話をしていて、3戦目に行くタイミングで僕もやろうかと思ったときに、幸地渉が用意しましょうかと言ってくれたので、「おうやろうぜ」となって。
話をした内容は僕も以前、木村達郎元社長によく話をしてもらっていたんですけど、上の客席のほうの人たちにも、どこから見てもインテンシティがあるような価値のある試合を見せてほしいと言っていたので、そういう内容の話をしましたね。」
「勝つだけではない。カルチャーを作るのがキングス」
植草「今シーズンはリーグ全体でも観客動員数が増加していて、その中でもキングスはホームゲームの平均観客数が7746人でトップですよね。取材をしている私も1プレーに1プレーにアリーナが熱狂する光景がスタンダードに見えてしまう時があります。桶谷さんも改めてファンの熱や、アリーナの熱狂について思い返すときはありますか?」
桶谷HC「ありますね。結局、目の前の試合に勝ちたいけど、僕らがやっている仕事ってカルチャーを作っているという事のほうが大きくて。前提にそれがないとこの仕事はやり続けてはいけないと思っているんですよ。僕じゃなかったら他の人が来て、目の前の試合を勝つだけでいいと思うんですけど、僕の役割はキングスのカルチャーを繋げていくのが一番のフィロソフィー(哲学)みたいなところなんで。それだけは間違わないようにというのは、いつも思っています」
桶谷HC「西地区で1位になれなくて、もちろんそれはショックな出来事でもあったし、一つの成果として受け入れがたいところもあったんですけど、それよりも一番は自分たちの文化って何やろうっていうところですよね。キングスカルチャーって何なのっていうところ。そこを見失ってずっとバスケットをすることはできない。もう一度そこやろうぜっていうところですね。自分が今ここにいる価値ってそれなんじゃないかなと思っていますね」
植草「選手やヘッドコーチのみなさんはファンを感動させる側ですよね。キングスが負けて涙する人がたくさんいる。勝ったら喜ぶ人がたくさんいる。ワンプレーワンプレーで心が動く。取材をしていてスポーツってすごいなと改めて思うんですが、プレーしている側もスポーツってすごいなと思う瞬間ってありますか?」
桶谷HC「ありますね。隆一がCSアルバルク東京戦1戦の逆転の3ポイント決めた瞬間は、「これはすごいわ」と思いました。あっちがタイムアウトをとってコートに出てきたときにすごいわこれはと思いましたね。鳥肌一気に立ちましたね。隆一にも「それ決めるか~すごいわ~」と言ったのを覚えていますね。笑」
植草「また来季、Bリーグに渡邉雄太選手が来たり、Bプレミア始動を前に、Bリーグがより一層盛り上がりそうですよね。今は休みたいという気持ちもあると思うんですが、来季楽しみな気持ちは今どれくらいですか…?笑」
桶谷HC「まだ今は全然考えられないですよ(笑)。 まず今は嫌なことを忘れたい(笑)。 でも次に進むために一回清算してもう一回リセットして無垢の状態で次に行きたいと思っています。ただ来季のことも考えないといけないこともあるので、そこもしっかり整頓して次を迎えられたらいいなと思っています」
植草「来季の目標は気が早いと思うので…笑 最後にプロスポーツチームとしてファン・ブースターにこれからもキングスを見せていきたいか聞かせて下さい」
桶谷HC「キングスはもちろん勝つことでエネルギーを皆さんに伝えられることもあると思うんですが、それだけではなくて。どんな試合を見ても、キングスから活力を貰ったと言ってもらえるような、そういうチームでありたいというのが大前提なので。もっと沖縄を元気にというのを胸に常に、全力疾走していきたいなと思っています」
名将は来年も沖縄の地で、キングスというカルチャーを築き上げ、未来へと繋いでいく。
植草凜
※インタビュー・執筆を担当した植草アナウンサーの最新アナコラムも 公開中!
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