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元ピアノ講師が1000坪のガーデンレストラン 花さんごを開いた理由
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木々のトンネル、優雅に舞うチョウ、滝が流れる心地よい音、色とりどりの花が咲く庭に洋風の建物。「あれ、今どこにいるんだっけ?」と思わず声が出そうになりました。沖縄本島南部の南城市玉城(たまぐすく)に、隠れ家のようにひっそり看板を出している「ガーデンレストラン 花さんご」。足を踏み入れてみると、ゆったりとした時間が流れる、究極の癒やし空間が広がっています。社長の小波津(こはつ)和子さんにガーデンレストランに込めた思いをうかがってきました!
お店の構想は子育てを終えてから
——「花さんご」を開く前は何をされていたんですか。
「25歳のころにエレクトーン講師の資格を取って、それから30年間、ピアノ講師をしていました。音楽教室に勤めたり、自宅でピアノ教室を開いたり、私の子どもが通っていた沖縄カトリック小学校で、放課後、児童にピアノを教えたりしていました。楽しかったですよ、とっても。30年の間に全部で300人ぐらいに教えましたかね。今も元生徒がレストランに来てくれるんです、『和子先生〜』って」
——いつごろからガーデンレストランの構想を持っていたんですか。
「結婚した後に浦添市に自宅を建てたんです。花が好きなので、その家の庭にいろんな花を植えていました。でも、その家は庭が狭くて。子どもが大きくなって手が離れて、50歳過ぎたころから『やっぱり花をたくさん植えられる広い庭が欲しい。ニワトリを飼いたい。池も作りたいし、そこでアヒルも飼いたい』と考えるようになって(笑)」
——そのイメージの元になる場所があったんですか。
「私、出身が国頭村辺土名なんです。辺土名に住んでいたころは庭にみかんの木が100本以上ありました。マンゴーにバナナ、ナシ、デーツやビワ、本当にたくさん果物がなっていていました。毎日、学校から帰ってきてランドセルを置いたら、木に登って、そこでみかんを食べて。居眠りしては木からポトンと落ちて(笑)。『広い庭が欲しい』と思うときはいつも、小さいころに住んでいた辺土名の風景が頭に浮かんでいました」
5年がかりで見つけた原野の土地
——その思いがガーデンレストランにつながっていったんですか?
「最初はガーデンレストランまでは考えていなくて、300〜500坪ぐらいのコーヒーがおいしいカフェができればと思っていました。55歳でピアノ講師をやめて。いい土地を探して本部町や恩納村も見て回ったし、慶良間や座間味など離島まで行きましたよ。この土地にたどり着くまで4、5年かかりましたね」
——整地前の写真では原野にしか見えませんが、何か感じるものがあったんですか?
「私はピン!と来ました。お店用の土地には五つぐらいの条件を満たす必要がありました。見晴らしがいい高台で、南東向きで、日当たりが良くて、風通しが良くてと。この土地は全部そろっていてお花を育てやすそうでした。何より、岩がゴロゴロたくさんあったことが一番良かったんです(笑)」
——えっ!岩がたくさん出てきたら撤去費用がかさむので、皆さん、普通は嫌がりますよね?
「琉球石灰岩って沖縄県外には無い、沖縄だけの岩ですよね。この岩を使って、沖縄らしい立体的な庭が作れるなと思ったんですよ。自然の岩に水を流すだけで、滝も池もそこまで苦労なく作れました。レストランの真ん中にも大きな石灰岩を残していて、お店のシンボルになっています。ただ、そうは言ってもやはり、岩、多すぎでした(笑)。使う分だけ残して、トラック40台分ぐらいは運び出しました」
——その岩ゴロゴロの土地から、こんなにきれいな庭やレストランができるとは想像つきません。どなたかにお願いされたんですか。
「『庭のデザイン、どうしようかな』と思っていたときに、長崎県のハウステンボスのフラワーショーを見に行く機会があって。そこに印象的なお庭があったので、誰が手掛けたのかなと見てみたら、世界的に有名な庭園デザイナーの石原和幸さんでした。石原先生に電話して『個人の庭なんですけど、お願いできますか』って頼んでみたら『小波津さん、花、好きですか』って聞かれました。私が『先生が花、好きなのと同じくらい好きです』って答えたら、OKしてもらえました(笑)。石原先生もこの土地に来るのが楽しかったみたいで、庭を駆け巡って、石灰岩のてっぺんに登っては『はっ!』と声を出していましたね(笑)。『ここに来ると元気が出る』と言ってくれて」
「レストランの方は日本で有数の飲食店専門のデザイナー、神谷利幸さんに作ってもらいました。庭を石原先生が作るので『自分も負けられない、いい店を作らなくちゃいけない』と頑張ってくれて。天井も高く、日が入るようにしてくれて。おかげでお店の中でもヘゴがちゃんと育っています。予算は当初想定していた分よりかかりましたけど(笑)、いいお店を作っていただきました」
こだわりと至福のひととき
——どういう庭、店を目指したんですか?
「バリアフリーにはかなりこだわりました。沖縄は長寿の方がたくさんいるのに、車椅子の方が行ける店が少ないんですよね。だから、車椅子の方が一人で来られるように、庭も店も段差が無いように作ってもらいました」
「普段、足が痛くて車椅子に乗っている方がうちに来たとき、『この庭は歩きたい』と言って杖を使ってゆっくり歩いていて。その姿を見たときはとってもうれしかったです。月に1度、ネックレスやストールを身に着けて、ここでの食事を楽しんでくださる高齢の方が結構いますよ」
——庭には何種類ぐらい花があるんでしょうか?
「380種類以上あります。いつも2カ月先に庭に飾る花を準備しています。今は6月なので、8月に咲く花を考えて。そうしておくと、お客さまは来るたびに、四季折々の違う花が咲いているのを見ることができますから」
——日々、小波津さんが花の水やりや手入れをしているんですよね。大変じゃないですか?
「私、花を触っているのが好きなんです。好きなことしているときってストレス感じないでしょ。あれもこれもたくさんやらないといけないとなったとき、『これは夜、考えよう』って切り替えて。日が出ているうちは花を触るようにしています。音楽を聴きながら、誰とも話をしないでひたすら花を触っている。それはもう至福のひとときです。マネージャーがよくお客さんに説明しているみたいですよ。『庭で青い服を着て、ハサミを持っているのが社長です』って(笑)」
「花が好きなのはDNAなんだと思います。母が花を触るのが好きでしたから。その母も、私の祖父から習ったと思いますし。親戚もみんな花が好きなんです」
——「花さんご」をやっていてよかったなと思うときはどんなときですか?
「庭に私の休憩スペースがあって、そこで休んでいると、食事を終えたお客さんがわざわざお礼を言いに来てくれることがあるんですよ。レストランの各テーブルに、お客さんに感想を書いてもらう『花さんご日記帳』を置いていて。『やっと来ることができた!』というメッセージを見ると、うれしくなります」
「50代、60代までは自分のことや子どものことで大変でしたけど。この年になると、人が喜んでくれることができてよかったなと思います。自然の中で食事を取っていただいて『命の洗濯ができた』と言ってもらえる。おばあちゃんたちが『あんたの顔、見に来たよ』って言ってくれるとき『あぁ作ってよかったな』って思いますね」
くぇーぶータイム
イチオシの特製フィレステーキ150グラム&ロブスターって。お皿の中に主役が2人いるじゃないですか。
肉好きなのでまずはフィレからいただきます。ん〜柔らかくて、ほっぺ落ちそうです〜。ロブスターも歯ごたえ抜群。色とりどりのお花も飾られて…。え、サラダのお花も食べられるんですか? 主役、3人いた〜!
ランチはこだわりハーブチキン(1,800円・税込)、南城市板馬養殖場直送車海老と白身魚ソテー(2,700円・税込)、南城市板馬養殖場直送ワタリガニと車海老ブイヤベース(5,000円・税込)、特選フィレステーキ150グラム&ロブスター(5,000円・税込)など、いずれもサラダ・ライス・スープなどがついたセットメニュー。食後のデザート&ドリンクセット(1,000円・税込)も評判です。
編注:「くぇーぶー」は沖縄の言葉で「食べ物にありつく運」を意味します。
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