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楽しむなら全員で!嚥下障害があっても楽しい旅と食事を。沖縄で始まった新たな取り組み
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食べ物を噛む力や飲み込む力が落ち、食べる動作がうまくできない「摂食嚥下(えんげ)障害」。加齢に伴う高齢者のイメージがあるが、先天性の病気などで摂食嚥下障害を抱える子どもたちがいる。
そんな子どもたちにも家族と一緒に外食や旅行を楽しんでもらおうと、沖縄県内で新しい取り組みが始まっている。
旅先で一緒のものを食べたい
2024年11月、那覇市のホテルを訪れたのは、4人の子どもたちとその家族である。
実はこの子どもたちにはある共通点がある。その共通点とは、食べ物をうまく噛めない、飲み込めないなど何らかの問題で口からの食事がうまくできない「摂食嚥下障害」がある。
今回、千葉県から沖縄を訪れた加藤さくらさん。娘の真心(まこ)さんは先天性の病気で、摂食嚥下障害がある。
加藤さくらさん
「旅行先で私たちだけおいしい・温かいものを食べて、この子だけレトルトなのは罪悪感しかないです。だったら一緒のものを食べ、あの土地のあの食べ物がおいしかったねという思い出も一緒に共有したいので、それはもう当たり前のように(同じ食材を)食べたいですよね」
摂食嚥下障害の子どもたちが外食や旅行をする際には、食べ物を細かくする道具を持ち歩き、食事の際にはペースト状にする作業が欠かせない。そのため外食や旅行を控えてしまうことも少なくないという。
そんな現状を打開しようと、那覇市のホテルが新たな取り組みに挑戦している。
食を理由に外出が難しい人を減らしたい
2024年11月4日、那覇市のホテルパームロイヤルNAHA国際通りで行われたイベント。
摂食嚥下障害を持つ子どもとその家族が同じ食材を食べられるように、子どもたちにはホテル側がペースト状にした食事が振る舞われた。
この日のメニューは、あぐーやゴーヤーなど沖縄県産食材を使ったバーベキュー。
口からペースト状にした食べ物を食べたり、胃ろうなどの経管栄養で食事をする子など、それぞれの「食べ方」で県産食材を堪能した。
比嘉絵里さん
「ミキサー食をやってほしいとお話ししても、『対応できません』と断られることが多いため、なかなか外に食べに連れていくということがあまりなくて。匂いや味とかにも、この子たちはけっこう敏感で、横で食べていると、食べ終わっていても『同じものを食べたい』と意思表示するので、一緒に同じものが食べられるということがありがたいですね」
今回のイベントを主催した加藤さんは、食を理由に外出が難しいと感じる人を減らし、誰でも気軽に外出できる環境を目指して活動している。
加藤さくらさん
「別にお口から食べられなくなっても、胃ろうでもみんなで食事を一緒に楽しめるというのが当たり前になったら、いくつになってもどんな状態でも旅行できるし、本当にすごく希望だなと思います」
高倉総支配人は、どのような人が訪れても滞在を楽しめるように、観光立県・沖縄のホテルとして力を尽くしていきたいと意気込んでいる。
ホテルパームロイヤルNAHA国際通り 高倉直久 総支配人
「食物アレルギーや障害をお持ちの方など、すべての方が沖縄に来ても、それぞれ対応できるような施設がたくさんある。嚥下障害の方々の対応ができる優しい島になっていけるきっかけになればと感じています」
体だけじゃなく心の栄養にもつながる
旅先でサポートする新たな取り組みを沖縄県内で、摂食嚥下障害を持つ患者や家族に食支援を行う看護師の大城清貴さんは、1つ階段をのぼったと話す。
合同会社Comer 大城清貴さん
「嚥下障害の方が外に出にくい大きな原因は、困っている方たちと、その困っていることを解決してくれる店や会社があまりないということかなと思います。家族で同じものを食べるということが家族との繋がりや絆も強くなりますし、体の栄養だけじゃなくて心の栄養にも繋がってくるので、食べる楽しみは生きる楽しみです」
摂食嚥下障害は加齢に伴って噛む力が衰えたり、脳梗塞などの病気や時には薬の副作用が原因で、誰もがなってしまう可能性があり、実は幅広い世代に関わることである。
大城さんは、摂食嚥下障害の子どもや大人が多くなってきている中で、専門職だけで関わっていくのは非常に難しいため、社会全体で摂食嚥下障害というのをもっと知ってもらえたらうれしいと語る。
摂食嚥下障害がある子どもやその家族にも、楽しい旅行と食事の思い出を共有してほしいという思いが込められた今回のイベント。
障害や病気があっても、いくつになっても楽しい旅行や食事を諦めることなく、その人らしく生きられる社会を目指して、摂食嚥下障害に対する取り組みはまだ始まったばかりである。
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