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真栄城 潤一

真栄城 潤一

生産者と消費者でこれからの沖縄の「食」を考える「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄」

食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄

この世界に生きる全ての人たちが無関係ではいられない「食」。どこでどんな風に暮らしていようと、人は食べ物を食べなければ生きてはいけない。とてもシンプルだけれど、この事実に向き合ってじっくり考える時間は、毎日食事をしているにも関わらずあまり多くはない。
これからの日本の「食」のあり方を考えるため、全国各地の消費者、生産者、食品関連事業者で様々な取り組みを行うムーブメント「ニッポンフードシフト」の一環として「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄」が11月26、27の両日、沖縄市のプラザハウスショッピングセンターで開催された。

食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄
会場にはステージが設置され、マーケットにはこだわりの県産アイテムが並んだ

主催したのは、その土地の地域らしさを伝えるコミュニティショップで、全国各地をつなぐネットワークとしても展開している「D&DEPARTMENT PROJET」と農林水産省。イベントでは「日本の未来をつくる食の生産者たち」として、沖縄で農畜産業に携わる生産者によるトークショーが行われたほか、食をテーマにしたワークショップやD&DEPARTMENTがセレクトした沖縄県産のアイテムを販売するマーケットも開かれた。

「沖縄で小麦を作れるのか?」がスタートだった

イベント2日目の27日には3つのトークセッションが行われた。「『島麦かなさん』が仕掛ける国産小麦の復活」では、県産小麦の普及に尽力している「金月そば」代表で沖縄県麦生産組合の副会長でもある金城太生郎さんが登壇。県産小麦を取り巻く現状や、沖縄での麦生産の歴史などについて話を展開した。

食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄
沖縄県内の小麦生産の現状について話す金城太生郎さん

県産小麦の生産は「『沖縄で小麦を作れるのか?』という問いがスタートラインだったんです」と金城さんは語る。
金月そばの麺は95%が熊本産、残りの5%が県産の小麦を使用している。「かなさん」は現在県内40社に流通しており、天ぷらやサーターアンダギー、ポーポー、クラフトビールなどにも幅広く使われている。「麦って、日常で目にするあらゆるものに使われているんですよ」。

麦の生産地といえば北海道やウクライナなど寒い地域をイメージしてしまうが、原産地をたどってみると実はエチオピアやエジプトなどの暑く乾いた場所だという。しかも、沖縄でも戦前までは各地で収穫されていた。「いくつかの場所で、おじぃやおばぁに『昔は作っていたよ』ということを直接聞いたこともありますよ」

しかし戦後になると、麦の生産だけでは生産者として食べることが難しくなったため、イモやサトウキビに転向する農家が増えて、麦生産者は姿を消していったという。金城さんは現在の日本、そして沖縄が置かれた状況を踏まえて「自分たちの土地でちゃんと作物を作らなければならないという危機感を感じています」と強調する。

「例えば『沖縄そば1杯にどれだけの県産品が入ってるのか?』ということを考えると、自分たちが変わらなければならないということに気づきます。麺ももちろんですし、外国産だった豚肉を県産にするなど、少しずつでもシフトしていくことで沖縄に恩返しできることがあると思うんです」

食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄

金城さんは小麦生産の安定化のために必要なこととして、栽培面積を広げるために40代前後の中堅農家の数を増やして「世代交代を考えることが最優先」だと訴え、加えて耕作放棄地への対応が急務であることにも言及した。その上で、これからの麦産業の展望と取り組みについて、以下のように述べた。

「県産100%のそばを出したいというのは大きな目標で、そのためには30tは必要なんです。ちなみに去年の収穫は5tです。そうした現状ではありますが、麦は農産物への興味を持つことで、足元に生えているものがどれだけの経済効果を生むのか、ということ考えるための“ソフトウェア”のようなものだとも感じています。麦をきっかけに農業についての議論が広がることで、しっかりと根をはるような産業にしていかなければならない。
これからを担う若い人たちには、農業分野についても視野を広げてもらって、可能性のあるビジネスにしていきませんか?ということを伝えたいですね」

「沖縄のあぐーを残したい」という思いに駆られて

食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄
喜納農場で育てている「あぐー」について説明する喜納忍さん

続いてのトークセッションで登壇したのは、沖縄ブランド豚の「あぐー」を独自配合の飼料で育成する喜納農場代表の喜納忍さん。「進化する琉球在来豚 あぐー豚の飼育と未来の畜産」と題して、あぐーの飼育に関しての基礎的な説明や自身と畜産業との関わりの経緯、創業者である父親のエピソードなどについて語った。

「小さな頃から農場で過ごしてきたので、畜産業は私のアイデンティティそのものだと感じていますね」と切り出した喜納さん。水、空気、そして飼料の状態を確認することが1日の始まりだという。もともとは出荷までに240日程度の日数を必要としていたが、喜納さんの父親が研究を重ねて独自配合した飼料で育成することで、出荷時期を1ヶ月近く短縮した。飼料研究が生産の効率化・安定化につながっている。

畜産業のやりがいについて喜納さんは「豚たちは手をかけた分だけちゃんと応えてくれるんですよ。元気で健康な状態に保つことができれば、こんなに楽しいことはないです」と笑顔で語る。そこに重ねて、原動力の1つになっているのは「沖縄のあぐーをこれから先も残していきたい」という強い決意だ。

純粋種に近いあぐーはそもそも頭数が少ないことに加え、他の品種に比べて子育てが難しいという。一方で、肉質は旨味成分が多く脂は甘い。「種の保存ということと、美味しさと性質を広く知ってもらうこととを明確に分けて考えていかなければならないという課題があると感じています」と喜納さんは指摘する。

食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄

畜産業の現状と今後について喜納さんは「事業承継の時期に差し掛かっています。畜産を守ることと、畜産がたくさんの人に喜ばれるということを知ってもらうために何ができるのかを日々考えています」と話す。また、昨今の社会情勢の影響でエサの価格が高騰しており「この2〜3年を乗り切れるかどうか」という厳しい局面を迎えている状況についても触れた。

その上で、若年層へのメッセージとして「どこの地域にも歴史があって、それを受け継ぐ子どもたちがいます。そこに流れてきた時間や文脈や環境、そして人とのつながりなどの全部を大切にして、食と農業に関わってほしいと思います」と未来を見つめた。

食の消費者として考えていくこと

ステージの最後を締めくくったのは、沖縄を拠点にして農業や食品加工などに関わる生産者たちの活動を、東京と沖縄の学生が取材して記事にしたタブロイド紙『d design travel ニッポンフードシフト特別編集号』を巡って、企画に参加した学生たち。それぞれが取材・執筆した記事や、現地で感じたことなどを発表した。

食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄
記事を執筆した学生と取材された県内の生産者たち

本部町で持続可能な循環型農業を実践する「山パ農園」を取材した名桜大学の比嘉愛実さんは、生産者と消費者との間にある「認識の違い」に気づいたという。「普段の買い物できれいな商品を選んでいる人が多いと思いますが、必ずしも『綺麗だから美味しい』というわけではないんですよね。傷があるものも、いびつな形のものも、ちゃんと同じ手間で作られた美味しい作物なんです」。
市場からいわゆる“規格外品”が弾かれれば、フードロスにつながってしまうということにも触れつつ、食の持続性を担保していくためにも「私たち消費者側の意識を変えていく必要があると思います」と述べた。

今帰仁村で「今帰仁アグー」を育てる「高田農場」を取材した沖縄県立芸術大学の上原伶菜さんは「アグーの育成は文化的な取り組みだと思いました」と話した。アグーを残していくことや、その取り組みに携わる農家の存在について「消費者として考えた上で何かアクションを起こすことの必要性を感じました」として、自身でもまず自炊を実践し始めたことを告げた。
買い物をする時には「少し値段が高くても国産のものを買おう、という“主体的な選択”をするようになった」と言い、「自分の選択が食文化を形作っているんだという自覚を持つことができました」と総括した。

「d MARKET」には県内生産者こだわりの商品が並んだ

食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄
食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄
食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄
食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES. 沖縄

学生たちが取材して執筆した記事がまとめたタブロイド紙は、全国のD&DEPARTMENTで配布されている。
このほか、イベント1日目(26日)のトークセッションでは、県内のサトウキビと黒糖、循環型農業などのテーマで話が展開されたほか、ワークショップでは琉球薬膳ミックススパイス作りが行われた。県内の食の生産者たちの商品を揃えた「d MARKET」には、「うるマルシェ」や「やんばる畑人プロジェクト」などが出店し、新鮮な野菜や黒糖、小麦や卵などが並んだ。

▼ニッポンフードシフト公式サイト
URL:https://nippon-food-shift.maff.go.jp/

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