コラム,沖縄経済
沖縄パーソナルジムのパイオニア的存在! A-DREAM平田歩さん
沖縄県が掲げる「稼ぐ力」キーテーマとしている本コラム。これまで沖縄のスタートアップ企業にスポットライトを当て、ご活躍の方々にお話をうかがってきた。今回はスタートアップやテック業界からは少し離れ、他分野で活躍する沖縄の起業家にスポットライトを当てる。
沖縄にいち早くパーソナルジムという形態のフィットネスジムを開業し、スポーツインストラクターやフィットネストレーナーとして活躍しながら、講師としても教え子が1,000名超という、起業家と指導者両方の側面を持つA-DREAM代表の平田歩さん。時代を先取りし、最新の機能解剖学メソッドを沖縄に持ち込むも、受け入れられずに苦悩した日々のこと。アンチエイジングやカラダ作りを成功させるヒントや、ジュニア世代の競技力向上についてインタビューを申し込んだ。
目次
男の子にも勝る身体能力!ニックネームは○○
――まずは平田さんの人となりを理解するためにも、幼少期から学生時代をどのように過ごしてきたか教えてください。
平田さん
「いまの私に直結していますが、小さなころからスポーツが得意でした。走る・飛ぶ・投げるはもちろん機械運動も得意で、小学生から中学生までは男の子よりも足が速く、運動会のリレーはいつもアンカーでした。島尻地区陸上大会でも短距離は1、2番を争うほど。その結果、ついたニックネームが”ジョイナー”と呼ばれることもありました(笑)」
――そのニックネームからもシンプルに運動能力の高さがうかがえます。
平田さん
「練習中なので非公式となりましたが、沖縄県小学生女子の棒高跳び記録を何度か超えたことがあるので、身体能力は優れていたと思います。
小学生・中学生ではバレーボール部に所属しながら陸上もやって、並行して吹奏楽もやっていたので、かなりアクティブでした。中学、高校と進級するにつれてバレーボール一本に絞りました。」
――高校卒業までバレーボールは継続したのですか?
平田さん
「そうです。私の母校である知念高校は、当時、バレーボール部の強化中で、後輩たちが見事に優勝してくれました。卒業後、日本体育大学へ進学して、他のスポーツをやりました。ひとつの競技に集中するのではなく、沖縄では経験できないスキーやスノーボードなどのウィンタースポーツ、カヌーやスキューバなどのマリンスポーツなど、季節に応じていろいろなスポーツに触れました。カヌーは大学1年生の頃にインカレに出て、ジュニアの部でいきなり優勝しました。だけど、この頃からは優勝するとか勝ち負けを優先するのではなく、スポーツを楽しみたいという意識になっていましたね。」
20年前からすでにパーソナルジムがサービスとして広がる可能性を感じていた?
――幼少期から大学までスポーツにかかわって、その後の進路をどのように切り開こうと考えていましたか?
平田さん
「当時は大学卒業後に教師になる流れがありました。私は高校体育の教員免許を取りましたが、その道には進みませんでした。卒業後、東京都内にある超高級ホテルの会員制フィットネスジムにインストラクターとして勤めました。まだ、パーソナルジムという店舗形態が流行る前で、パーソナルトレーニングは高級ホテルが会員向けに提供するサービスの位置づけでした。入会費が数百万円で、月会費が別途数十万円の世界です。」
――こんなに高い会費を支払うお客さんとは、どういった方が多いのでしょうか。
平田さん
「やはり企業の会長さんや社長さん、あとは誰もが知っている歌手や芸能人も通っていました。年齢的には50代~60代前半の方々です。いまから20年ほど前ですが、当時はジムで身体を鍛える=一種のステータスというイメージが強かった気がします。なかでもパーソナルトレーニングはまだまだ少なく値段も高額で、余計にステータス的なイメージが強かったと思います。」
――当時、まだ珍しかったパーソナルトレーニングを提供することへのやりがいは、どのように感じていましたか?
平田さん
「やりがいは、かなり感じていました。マンツーマン指導をさせていただいた方から、”身体が軽くなった”とか、”痛みが軽減された”、”ありがとう” という声をいろいろといただけたので、私のモチベーションになりました。自分の運動指導で機能改善につながる部分に奥深さや面白さを感じていました。
一方で、当時のフィットネス業界は運動をサポートするものだったので、テクニカルな指導をすることには課題があると感じていました。そこで、運動生理学や、リハビリテーションの現場で行われている運動メソッド、メンタル面からのアプローチなども含めてお客さんに提供できるようになりたいと理論と技術を学び直しました。」
――学び直しの結果、平田さん自身はどう変わりましたか?
平田さん
「パーソナルジムやフィットネスジムに通う方は、基本的には健康意識が高かったり身体課題を抱えていたりします。目的はそれぞれで、たとえば見た目の印象がお仕事に直結する方もいらっしゃいますし、健康を維持することで事業拡大の原動力になる会社役員の方もいらっしゃいます。
お客さんが置かれている立場や目的がそれぞれあるなかで、私の経験やマニュアルだけで指導するよりも、しっかりとした裏付けやエビデンスに基づくメソッドやアプローチを学び、お客さんの目的や状況に応じて、指導できる範囲が広がりました。なぜこの動きが重要なのか、なぜこれ以上やらない方がよいのか。感覚だけに頼るのではなく、理論を学んで現場で活かす。これが重要だと思い、仕事が休みの日を利用して、技術と理論が習得できる専門学校に通い詰めました。」
経験を積み、理論を学んだ平田さんに帰郷後の沖縄で待ち受けていたものは?
――東京でトレーニングインストラクターとして実務を積み、最新の技術や知識を学び直した後、どのような経緯で沖縄で起業されたのでしょう?
平田さん
「私が学んだ運動メソッドは、筋肥大とかダイエットにフォーカスしたものではなく、どちらかというと機能改善でした。日常生活や競技におけるしなやかな動きを、運動によっていかに維持・改善するかですとか、運動を通して痛みをケアし改善していくことに重点を置いていました。器具を持ち上げるという直線的なものではなく、可動域を広げ、体幹の部分や姿勢を鍛える要素が強いメソッドです。当時はまだ沖縄に浸透していなかったので、スポーツが盛んな沖縄ではじめればジュニアの競技力向上や沖縄の健康問題に貢献できるかもしれないと思いました。ところが、落とし穴がありました。」
――それはどんなことですか?
平田さん
「県内の大手フィットネスジムを回り、私が学んで実践してきたコンディショニングプログラムを沖縄県民のために提案して回りましたが、理解されず受け入れられませんでした。器具全盛の時代でしたので、トレーニングで機能改善されるという認識があまりなかったのかもしれません。
どうしようかと思っていたときに、沖縄のとある専門学校の講師から『機能改善トレーニング、コンディショニングできるの?』と声をかけてもらって。それが縁で沖縄のスポーツ系専門学校の講師になりました。専門学校には10年ほど在籍し、学科長も経験して、教え子も1,000名を超えるまでになりました。」
――現在経営されているパーソナルジム「A-DREAM」を立ち上げたのは、いつ頃ですか?
平田さん
「2013年なので、ちょうど10年前になります。まだ沖縄ではパーソナルジムは少なく、機能改善(コンディショニング)を提供できるジムはさらに少数だったので、自分で起業することにしました。専門学校に勤めていた頃から、『どこに行けばこのプログラムが受けられますか?』と結構問い合わせをいただいていたので、ニーズは確認できていましたし、開業直後にもお客さんを紹介していただけました。その数年後は大手パーソナルジムが沖縄にも入ってきて、一気に認知度が上がり、その影響でお客さんがどんどん増えました。」
――いまのように、パーソナルジムが身近なサービスになると予測していたのでしょうか?
平田さん
「すでに東京で広がっているのを目の当たりにしていましたし、県内外で活躍する教え子たちからの情報もあったので、ある程度は予測できました。大手が沖縄進出すると聞いたときは、不安もありましたが、冷静に競合分析してみると、『意外とこの辺は弱いな』とか『サービスとして手薄だな』と感じる部分もたくさん見つかって。大手ジムが沖縄進出したことでパーソナルジムの知名度が上がり、その恩恵を受けました(笑)」
平田さん
「私はダイエットや筋肥大プログラムも、お客さんのニーズに合わせて提供しますが、それよりも機能改善のプログラム、パフォーマンス向上を提供するのが強みです。競技者であればパフォーマンスやコンディションの維持・向上、一般生活者であれば若々しさを保つ目的やQOLの向上といったところに主眼に置いています。
併せてメンタル面のアプローチも重視しています。特に感情のマネジメントは重要です。エビデンスも多くありますが、実は感情が筋におよぼす影響って大きいんですよ。アスリートやジュニアアスリートの指導の際は、パフォーマンスを出すためにポジティブな感情だけでなくネガティブなところも受け入れようと話します。」
――ネガティブな感情もですか。もう少し具体的に教えてください。
平田さん
「たとえば、私がサポートしているお客さんが人間関係で悩んでいたとします。トレーニングのときは、その人間関係の出来事を一旦、感情の外に置いてポジティブな感情に切り替えなければいけないと考えている人が意外と多いんですが、そういう人には、まずトレーニングに入る前の数分間で本音を全部吐き出してもらうようにしています。この自分の感情に素直になることは、個人のトレーニングでも団体競技でもかなり重要なのです。本音を言い出せないチームほど脆いというのを何度も見てきました。団体競技のなかには、そのチームで勝ちたい人もいれば、勝ち負けよりも自分自身の楽しさを重視したり、自分の競技力を向上させたいと感じる人もいます。この本音の感情をどこまでさらけ出せるかでチーム力が変わります。
逆にいうと、指導者はこの本音をいかに引き出し、否定せずに聞いてあげられるかが重要です。基本的にダイエットも同じで、『甘いものが食べたい』『今日はビールを飲みたい』っていう自分の感情に素直になれないと失敗したりリバウンドの原因になります。勿論、食事の管理は必要なですが、そこで如何に許容範囲を決めるか、飲酒していい日を設けるかが長く体型を維持したり、ダイエットを成功させるたりする秘訣になります。」
ジュニア世代のトレーニングと競技力向上のために必要なこと
――最近はジュニアアスリートへのトレーニング指導も積極的に行っているそうですね。ジュニア世代にはどのようなアプローチが有効だと考えますか?
平田さん
「アプローチの方法はさまざまですが、現場で指導するコーチや親御さんには『ジュニア世代は技の習得やひとつの動きだけを反復させるだけでなく、他の競技に触れさせたり、違った運動の要素も取り入れたりすると、中学、高校、大学とその後の伸び幅が変わってくる』とよくお話します。
日本のスポーツ界を見ると、ジュニア世代で世界トップを張れる競技者が多くいるのに、その後は伸び悩むというケースが散見されます。反復的な練習で技術力はすでにジュニア世代で完成していても、その後、身体能力が伸び悩んだり、怪我なども起こしやすくなって世界から遠ざかると考えられています。目の前の大会や勝ちにこだわる気持ちも理解できますが、選手寿命を延ばしたり、より上のステージで活躍を望むのであれば、ジュニア世代にはなるべく多くの動きを遊び感覚で取り入れるとよいと思います。
たとえば、家に帰っても同じトレーニングをするのではなく、縄跳びやお手玉、けん玉もよいと思いますし、ダンスなどのリズム体操もよいでしょう。トレーニングの内容も右手で100回素振りをしたら、次は逆の左手で100回素振りをする、右足で100回蹴ったら、左足でも100回蹴る、といった一方向ではなく左右対称の動きを意識するとよいでしょう。勝ち負けだけがスポーツではなく、楽しむ、工夫することが重要です。」
――最後に、起業家で指導者の平田さんが大切にしている信念を教えてください。
平田さん
「私が経営するジム『A-DREAM』のAはActive(積極性)の頭文字です。積極的にアクションすることが自己実現につながるという私の考えと、アクティブな挑戦者をサポートしたいという意味が込められています。自分の可能性を広げるのも、逆に閉じ込めてしまうのも、結局は自分の意識次第だと思います。私は、可能性を広げる方のお手伝いをしたいと考えています。運動を指導し、その人の持つ可能性を広げる。つまり、私たちのジムは”人生のパフォーマンス”を高めるコーディネーターとして存在していると信念を持っています。」
インタビュー後記
インタビュー以前から、平田さんの運動セッションは、”圧巻の一言だ”と評判を耳にしていた。私自身、まだセッションを受けたことはないが、お話を伺った様子から、そのポジティブな考え方と行動力をまじまじと感じられ、その評判に違わぬ方だと感じた。
インタビュー中、平田さんは「日本人のフィットネス利用人口は3%程度で、運動習慣も低い。運動習慣を高めるためにどうすべきかが、健康の受け皿として私たちの使命である」と語っていた。追って調べてみると、イギリスのフィットネス人口は日本の5倍、アメリカは13倍と大きな開きがあると分かった。健康や若さをいかに維持するかは、QOLを高めるだけでなく、稼ぐ力への源泉となる。そんな中、平田さんは顧客の身体課題に直に向き合いつつ、今よりもっと明日は良くなると信じて全身全霊でサポートしている。これが平田さんの印象だ。
次回は、独自の世界観で店舗装飾や雑誌、CMといったクリエイティブに華を添え、見るものを魅了しているフローリストの仲地朱美(通称:ケミー)さんにお話をうかがう。花一本で沖縄から世界進出を目指す仲地さんの生き方を追う。
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