先島諸島,暮らし
沖縄で初めての図上訓練 軍備増強が進む一方で県民の安全確保はほど遠く
2023年3月17日、県内で初めて海外の武力攻撃から県民の避難手段などを議論する図上訓練が行われた。
これまで議論されることが少なかった住民保護を巡って、さまざまな課題が浮き彫りとなった。
先島諸島の住民を九州へ避難させる想定で訓練
2023年3月17日、国や県、そして先島諸島の市町村から、民間の航空、船舶会社などが集まって行われたのは、有事の際に住民の避難をシミュレーションする図上訓練。
沖縄県防災危機管理課 池原課長
「いわゆる武力攻撃予測事態を想定した緊迫期という形で」
国民保護法では、海外からの武力攻撃が迫っている場合や、その予測がされる場合など、政府は国民へ避難を指示する。
今回の訓練はこれらの事態が認定される前に、先島諸島の住民を九州へ避難させるという想定で実施された。
精査すればするほど課題が出てくる
与那国町役場総務課課長補佐 田島政之さん
「事態認定がいつ行われて、避難開始までの期間がどのくらいあるのか 。避難要領は作っているんですが、作って精査すればするほど色んな課題が出てくるので、これは底をつくまで分からないですね」
住民の避難指示は国が出すが、具体的な実行計画は自治体に委ねられている。
与那国町では島民を1日で島の外に避難させるために、与那国空港から発つ通常1日4便の航空便を11便に増便し、フェリーの車を載せるスペースにも住民を搭乗させるとしている。
一方、航空機をどのように確保するか目途は立っておらず、飛行機やフェリーが運航できない荒天時の対応など課題は山積みだ。
与那国町役場総務課課長補佐 田島政之さん
「与那国は冬は北風が多くて飛行機も船も欠航した場合の別のプランを検討しているので、パターンは限りなく」
中継地点の石垣市 煮詰まっていないことがたくさんある
与那国町や竹富町にとって、九州に避難する上で中継地点となるのが八重山地域の要衝・石垣市だ。
石垣市 防災危機管理課 真栄田義史さん
「石垣市は竹富町とか与那国町とかからの避難住民の受け入れもありますし、避難に関わる航空機や船舶の避難資機材の調達の部分っていうのは、迅速やっていただけたらなと感じています」
県は、八重山地域の約12万人について、航空機や船舶を約2倍に増やせば6日間で避難が完了できるとしている。
石垣市の計画でも県の試算に準じているが、避難の際に手助けを要する人への対応など煮詰まっていないことがまだまだたくさんある。
石垣市 防災危機管理課 真栄田義史さん
「石垣で言うと県立病院の入院されている方が265床くらいありまして、その方々が避難の準備にかかる時間とかを今後抽出していかないと、実際に避難にかかる日数の計算ができないので」
指定地方公共機関の懸念 「有事の際に冷静に対応できるか」
こうした懸念を抱えるのは自治体だけではない。
石垣市の船舶会社 福山海運は国民保護法に基づいて、住民の避難に協力する指定地方公共機関に定められている。
国から避難指示が出た場合住民や物資を与那国町から石垣市などへと輸送する。
福山海運 譜久山哲也さん
「〈石垣-与那国間の〉片道の所要時間が4時間になりますので、往復だと8時間、1日の輸送で2航海と県からの指示ですので、有事になった際に冷静にスピーディーに対応できるのか懸念もありますね」
国家保護法の専門家 「避難の次のことを考えていないと現場は回らない」
今回の訓練にも参加した国民保護法の専門家、国士舘大学の中林啓修准教授は 、「県や市町村の現在の避難計画はまだ初期段階」としている
国士舘大学中林啓修 准教授
「指定公共機関と言われるような民間で、実際に輸送を担っている方たちとの議論がまだ十分入れ込めていないんですよね。避難の次のことをちゃんと考えていないと、現場では回らないんだ」
「避難先での生活をどう補償するのか」など避難したあとの事も考える必要性を指摘する。
住民の輸送はすべて民間が担う
ところで住民の避難に自衛隊はどのような役割を担うのだろうか。
国際人道法では軍事行動から生じる危険から人々を守るため、軍事と民間を区別して対処することを義務付ける軍民分離が謳われていて、県や市町村の計画でも輸送はすべて民間が担うことになっている。
国士舘大学中林啓修 准教授
「自衛隊の輸送機で民間人を、あるいは自衛隊の艦船で民間人を運ぶこと自体が、民間人にとって(攻撃される)リスクになる可能性がどこかでやっぱり出てきてしまうだろうと」
「安易な戦争観を防ぐ意味でも 国民保護を共有していくことが大事」
一方、こうした訓練によって住民の緊張を高めたり、戦争を肯定することにならないかという懸念には 「訓練を重ねることで、戦争を起こさないという認識を共有できる」としている。
国士舘大学中林啓修 准教授
「安易な戦争観を防ぐ意味でも、国民保護をしっかり詰めていく上で課題の大きさとか、やらなければいけない事の重みとかを、みんなで共有していく事が大事なのではないかなと」
多くの課題が浮き彫りとなった住民の避難計画。
南西諸島の自衛隊をはじめ、県内で軍備増強が急速に進む一方で、こうした議論はまだ始まったばかりで、県民の安心・安全の確保にはほど遠い現状がある。
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