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真境名 育恵

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沖縄の旧暦行事「浜下り(ハマウリ)」 ~仏壇持ち家庭の窓から~

「浜下り」シーズンの泡瀬干潟。遠浅の干潟では二枚貝が採れます。
「浜下り(ハマウリ)」シーズンの泡瀬干潟。遠浅の干潟では二枚貝が採れます。

読者のみなさん、こんにちは!ライターの真境名育恵(マジキナイクエ)です。
個人的なご報告ですが、この4月からライター業に加えて11年ぶりのフルタイム勤務がスタートしました。子どもたちも小学生となり、これから何かと教育費のかかる生活となりそうです。ゴールデンウィークの旅行情報に誘惑される日々ですが、今年は沖縄県内の行楽地満喫コースをキメたいと思っております!(押忍)

さて、沖縄の旧暦行事について、「仏壇もちの家」に生まれた筆者自身の経験も交えながら綴っていきます。どうぞよろしくお付き合いください。
今回は、沖縄の年中行事「浜下り(ハマウリ)」をご紹介いたします。

目次

「浜下り(ハマウリ)」とは?

浜下り(ハマウリ)は、沖縄県や鹿児島県の奄美群島で旧暦3月3日に行われる伝統行事です。
地域によって呼ばれ方が異なり、沖縄本島では「ハマウリ、ハマオリ」、宮古諸島では「サニツ」、八重山諸島では「サニズ」とされています。

3月3日といえば「ひな祭り」にあたる女性の節句ですが、旧暦3月3日は干満の差が一年でもっとも大きい大潮の干潮時にあたります。この日は海浜や干瀬がふだん以上に広がるため、海岸に出かけて潮干狩りし、海草を採る風習があります。
地域によってはご馳走(三月菓子)を持って海に出かけ、女性が手足を海水に浸して身を清めます。これが浜下り(ハマウリ)です。

いつやるのか?(旧暦3月3日)

浜下り(ハマウリ)は毎年、旧暦3月3日の行事です。2023年は新暦4月22日に行われます。

近年の浜下り(ハマウリ)は行楽行事としての潮干狩りのイメージが強いのですが、一昔前は男子禁制で、女性だけのお祭りだったといわれています。

この日に食べるものとは?

浜下り(ハマウリ)には、「三月菓子(サンガツグァーシ)」と呼ばれるお菓子を食べる風習があります。三月菓子は長方形のサーターアンダギーのようなお菓子で、材料もほとんど一緒。ご家庭によっては手作りの三月菓子を楽しむようです。
宮古島など一部の沖縄の浜下り(ハマウリ)では、潮干狩りで獲れた貝や魚を海の神々にお供えして、拝みを捧げるのが風習とされています。

私自身は残念ながら「三月菓子」を浜下りで食べた経験がありません。
実家母に確認すると母自身の経験として浜下りをした経験がなく、理由としては「那覇出身なので海遊びをする風習がなかった」と話していました。

私は大人になってから潮干狩りとしての浜下りを楽しむようになり、一年のはじめに海の豊穣の恵みを受け取る季節として捉えてきた部分があります。
我が家に双子が生まれたのをきっかけに「女の子の年中行事といえば浜下り!」と喜び勇んで、実家の母や妹に連絡をして、南城市の奥武島に出かけて海水を双子の額に刷り込んで無病息災を願いました。

その際、新暦3月3日(女の節句)の定番料理ともいえる「ちらし寿司」を作って、家族にふるまいました。
今回、あらためて「浜下り」について調べてみたところ、三月菓子の存在を知ったので、今年は双子と一緒に食べてみたいと思っています。

旧暦3月3日。我が家の料理は新暦のひな祭りと同じ「ちらし寿司」を準備します。
旧暦3月3日。我が家の料理は新暦のひな祭りと同じ「ちらし寿司」を準備します。

浜下り(ハマウリ)の由来となった昔話

そもそも「男子禁制」とされる浜下り(ハマウリ)には、由来となった伝説があるのをご存知でしょうか。簡単にご紹介します。

むかし、アカマタという大蛇が見目麗しい青年に化けて、村の美しい娘のもとに毎夜訪ねて来るようになりました。はじめは困惑していた娘ですが、毎晩のように訪ねてくる青年の熱意に負けて、青年を受け入れてしまいます。正体を知らずに青年と恋仲になった娘は、いつしかアカマタの赤子を身ごもってしまうのです。
一方で、娘の様子がおかしいと気づいた母親が、娘のもとに通う青年の正体を探ったところ、なんとアカマタ(大蛇)が人間に化けていたことが判明!
驚いた母娘がユタに相談したところ、旧暦3月3日に海水に身を浸して「穢れ」を落とすことで、身ごもったアカマタの赤子を海に流した(流産した)という昔話です。

言い伝えによってあらすじが異なる場合もありますが、女の子が海水で身を清めて穢れを落とす展開はおおよそ同じ。今でこそ行楽感が強い行事ですが、物語のあらすじから男子禁制の儀式だったというのも理解できますよね。

私が経験した浜下り(ハマウリ)

私が5年間の妊活の末にやっと授かった双子が女の子でした。そのため我が家にとっての浜下り(ハマウリ)は、私自身の娘に対する行事になっています。
この日は弁当を作り、久高島が見える南部の海辺に出かけて、双子と一緒に海水に手足を浸して「穢れや不浄」を流して身を清め、一年の無病息災を願います。

また、個人的には本来の浜下り(ハマウリ)とは趣の違う楽しみ方も。日常的につけている「金細工またよし」のアクセサリーを、毎年この日に琉球開闢の地・ヤハラヅカサの海で清めています。このアクセサリーは私が双子を出産した記念に金細工またよしで作ってもらい、自分が母親になった記念として身に着けています。

数年前のヤハラヅカサと筆者。琉球開闢の聖域として有名です。市指定文化財:有形民俗(平成6年指定)
数年前のヤハラヅカサと筆者。琉球開闢の聖域として有名です。市指定文化財:有形民俗(平成6年指定)

最後に。

私にとっての浜下り(ハマウリ)は、娘たちの無病息災を願うイベントとなっています。

沖縄本島北部出身の父に昭和30年頃の話を聞いたところ、「公民館などに部落の女性たちだけが集まって、男子禁制のお祭りをしていた」と教えてくれました。その秘祭の詳細を父に尋ねてみましたが、残念ながら「男子禁制のイベントなので内容まではわからない」とのことで、相当厳重な男子禁制だったことがうかがえました。当時、幼く無邪気な子どもだった父としては、「お祭りのおすそ分けとしていただく重箱料理や三月菓子が楽しみだった」と話していました。

年中行事のなかでも「女性だけの行事」という位置づけの浜下り(ハマウリ)ですが、現在では海遊びを楽しむイベントとなっており、遠浅が広がる沖縄市の泡瀬干潟などでは、毎年たくさんの家族連れが潮干狩りを楽しんでいます。

潮干狩りで収穫した二枚貝。琉球アサリや赤貝をボンゴレビアンコにしていただきました(まいうー)。
潮干狩りで収穫した二枚貝。琉球アサリや赤貝をボンゴレビアンコにしていただきました(まいうー)。

未だ家父長制や長男至上主義が根強く残る沖縄で、形骸化されているとはいえ古来より続いている女性だけの行事という点も非常に興味深いです。「海で穢れを清める」行事の由来となっている“アカマタが美男子に化けて人間の女性を身ごもらせる”という話は、沖縄各地に残る伝説のようなので、機会があれば個人的に深堀りしてみたいと思っています。
(なぜ、化けるのはハブではなくアカマタなのか?殺傷力のある毒をもってないからなのでしょうか!?それとも昔の沖縄では「大蛇が寝所に入ってくることがあった」みたいなことなのか!?)

今回は、沖縄の年中行事から、「浜下り(ハマウリ)」を紹介しました。
次回も、沖縄ならではの年中行事「ユッカヌヒー」についてお伝えしたいと考えています。

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