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OTV報道部

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「夜討ち朝駆け」 時代遅れ…と言われても

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俗に「夜回り」とも称される取材手法は若手記者にとって避けては通れない登竜門です。
とりわけ警察担当記者は日々、「守秘義務」という鉄壁の防御線を張る刑事を相手に
捜査情報を聴きだすことを仕事にしています。
警察組織では、メディア対応を担う役職が存在していて、
それ以外の捜査員と日中にアポを取って面会することなどほぼ不可能です。
そこで、「夜討ち朝駆け」を黙々とこなすことになります。
文字通り、取材対象者が仕事を終えて帰宅するのを待ちかまえたり
朝の出勤時に狙いを定めて接触を図り、少しでも情報を聴きだそうとするのです。
ただ…
捜査員の自宅住所は「機密」扱いです。
犯罪者からの御礼参りで家族に危険が及ぶ恐れがあることを考えたら当然です。
住所が分からなければ「夜討ち朝駆け」もできません。
記者はあの手この手でヤサ(自宅)を割り出そうと涙ぐましい努力をします。
時には、本職の警察官を相手に尾行まで…

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県警本部

路線バスの運転手に「尾行」を気づかれた

「那覇から一台のタクシーがずっと尾行しています。降りる際にはお気をつけください」

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沖縄本島北部方面に向かう路線バスの車内で運転手からのアナウンスが流れました。
この1時間ほど前、記者たちは那覇の中心地に立つ県警本部の玄関脇に身を潜め、
取材対象者が姿を見せるのをじっと待っていました。
帰宅時に同じバスに乗り込み、降車するバス停を確認してから、
後ろを走るタクシーに乗った同僚に伝えるのです。

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バス停がわかれば、住所を割り出すまでそう時間はかかりません。
この日は取材対象者ではなくバスの運転手に尾行を気づかれるというハプニングもありましたが、その後の「夜討ち朝駆け」に続く端緒を手にすることができました。

「近所迷惑だ!二度と来るな」 そう怒鳴られた女性記者

「夜討ち朝駆け」を通して記者は悲哀を味わいます。相手の都合など考えずに自宅周辺をうろつくわけですから、取材対象者やその家族からしたら迷惑な存在でしかありません。
こんなこともありました…

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静まり返った夜の住宅街で対象者の帰宅を待ち、立ち尽くす一人の女性記者。その光景を想像するだけで背筋に冷たいものが走ります。相手がミニバイクで帰宅するのを確認した女性記者は慌てて玄関前まで走りました。
「少しお時間をください」「話を聞いて下さい」「待ってください」
こんな言葉を投げかければ、ご近所さんからあらぬ「誤解」を招いてしまいます。
「二度と来るな!」、対象者の表情は鬼気迫るものだったといいます。この日以降、この対象者への夜回りは断念しました。
地域社会にとっては時に「不審者」のような存在に映る記者…何軒かの住宅の番犬が何かに呼応したかのように一斉に吠え出したり、実際に警察に通報されてしまったり…そんなエピソードは枚挙に暇がありません。

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ただ、こんな心温まる出来事もありました。
2月、沖縄でも夜間は冷え込みます。
女性記者は殺人事件の取材で連日、夜回りを続けていました。
取材対象者が警察幹部であることは近隣住民に知られているようで警戒される事もありません。
何日か経ったころ、その記者の母親ほどの年齢の女性がやってきて
「こんな寒いのに。お腹すいているでしょう。これを食べなさい」と言って
アツアツの肉まんを手渡してくれたというのです。
彼女からの報告を受け、夜回りでは何の成果がなくても、なぜか心が和んだことを思い出します。

「夜討ち朝駆け」の進化系

最後に私自身の体験談を。
深夜まで取材対象者を待ち続けても「空振り」に終わることは日常茶飯事です。
連日の夜回りで運よく相手をつかまえても会話できるのは数分だけという世界です。
とある取材対象者は私を諭すように、こう口にしました。
「携帯番号を教えるから、これからは電話でかまわない」と。
おそらく、『夜回りで「浪費」する時間を、もっと大切な何かに使え…』
『「記者とは何か」を自分に問うてみろ』彼は私にそう伝えたかったのだと思います。
守秘義務が課せられた捜査員から、「情報」を電話一本で聴きだすまでには
「時間」を要します。そして最も不可欠なのが「時間」よりも、「信頼」です。
立場を越えて「信頼」関係を築き、そして仕事を越えて「関係」が続く…
今も携帯電話のメモリに残る、そんな方々との「関係」が私の財産です。

執筆:末吉 教彦
略歴
沖縄県出身 沖縄尚学高校卒業後、早稲田大学へ進学 1998年にOTV入社
県警、県政取材キャップ、報道デスク、編集長を経て現在、報道部長

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