コラム
コロナ禍と日常の狭間で【金城わか菜のカフを下げて―】
目次
2023年を振り返る
乾いた大地にじんわりと水がしみてくる。
そんな2023年だった。
「あ、ここに泉があったんだよ」と思い出した感覚もあった。
コロナ禍に見舞われた3年半。
あちこちに「日常」が戻ってきた。
気になる子どものマスク
3月、新型コロナが感染症法上の5類に移行するのを前に、子どもたちの「マスク」が気になった。
体も心も成長する時期に、顔の半分を隠さなくてはならなくなった子たちは「マスク着用は任意」という生活の変化をどう感じているのか。
早く外したい?それとも外したくない?
児童の本音を聞きたくて、学校現場に取材に出向いた。
もうすぐ小学校を卒業する6年生の女子二人は、目をキラキラさせながら、こう答えてくれた。
女子
「中学校に行ったら、他の小学校出身の子もいるから」
私
(うんうん)
女子
「外したくない。」
私
(えーーー?)
精神科医が語る「コロナ禍がもたらしたメリット」
コロナの流行をきっかけに、学校やお出かけ先でもマスクを強いられた子たちにとって、もはやマスクは顔の一部となっているのか…。
児童精神医学が専門の石橋孝勇医師にインタビューをした。
「思春期特有の顔を見られると恥ずかしいという気持ち」のほか「家族に基礎疾患がある」「親が医療従事者だから気を付けている」など子どもそれぞれに事情がある。
いまこそ大人が余裕を持って接してあげることが大事だと助言してくれた。
そして興味深いことを教えてくれた。
臨時休校の際、学習のオンライン化が急速に進んだ。
これまで不登校だった患者から「オンラインなら授業に参加できる」という声があがったそうだ。
さらに石橋医師は、コロナ禍で発展したオンラインゲームも、恩恵の一つだと付け加えた。
オンラインゲームで友達と交流することで、不登校・引きこもりが解消したケースもある。
いつでもどこでも商機がある―。
そういうと、したたかに聞こえるが、ゲーム業界にとっては格好のビジネスチャンスとなったのであろう。
コロナ禍を追い風に、誰かが懸命に開発したオンラインゲームは、それを手にした誰かが一歩を踏み出すきっかけになっていた。
たくさん負の部分を残した3年半だが、そればかりではない。
それを実感したインタビューだった。
卒業の日に語った夢は…
卒業を間近にした小学6年生の教室。
休み時間、静かに手話の本を読んでいた女子児童に話しかけると「silentで興味を持って…」と答えてくれた。
コロナ禍真っ只中にヒットしたドラマ「silent」のことだ。
主人公が聴力を失った恋人と再開し、愛を紡いでいくストーリーで、まだ見ていない私も、タイトルと主題歌ぐらいはわかる。
そして小学校卒業の日。
将来の夢について、その女の子はしっかりとした声で「コミュニケーションがとれる手話通訳士になりたいです」と発表していた。
「多感な時期をコロナで過ごして、かわいそうに…。」
なんて思っていたが、少し子どもを見くびっていたかもしれない。
大人の私が想像していたよりも、子どもは強く明るい。
卒業式で、「プロゲーマーになりたいです」と宣言する児童もいた。
子どもはどんな社会だって、好きなこと、夢中になれるものを探す。
彼らのたくましさを知ると同時に、ドラマやゲームといった「娯楽」が果たすものの大きさを感じた。
▽放送内容はこちら
がんばる大人の姿が子どもの光になる
コロナの風が吹き始めた3年前。
「私たちは無くてもいい仕事なんで…」
エンターテインメントを生業とする人々から、こうぼやく声がちらほらと聞こえた。
たしかに芸能や娯楽は、命や生活を支えることに直接結びつくわけではない。
私も「自粛」に同調する波にのまれていたこともある。
でも私たちが今を豊かに生きるため、明日への希望を見出すためエンタメは必要なのだ。
このコロナ禍でさまざまな業種が痛手を被り、多くの人が自分の仕事の価値を問う日々だっただろう。
パンデミックがもたらした新たな価値観の中で、私たちはどういう社会を築いていけるか。
大人が自分に誇りを持ちながら働き生きることは、子どもや若者の光になる。
そう思えた2023年だった。
中学生になったあの女の子たちは、今頃どうしているだろうか。
もはやマスクなんて忘れちゃって、新しい友達と好きなアーティストの歌でも口ずさんでいるかもしれない。
今年の師走は沖縄も寒く、冷たい空気を吸って鼻や喉がヒヤっとする感じが、なんだかうれしい。
私も何か歌おうかな。
マスクはポケットの中だ。
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