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長嶺 真輝

長嶺 真輝

沖縄バスケの熱狂劇に「終わり」と「始まり」を告げたBリーグオールスター “MVP”岸本隆一が示した未来への決意

Bリーグオールスター “MVP”岸本隆一が示した未来への決意
BリーグオールスターでMVPを受賞した琉球ゴールデンキングスの岸本隆一。元キングスの並里成とマッチアップ=14日、沖縄アリーナ©琉球ゴールデンキングス

この1年強の間、日本バスケットボールの盛り上がりの中心地は間違いなく沖縄だった。

2022年12月に公開された映画「THE FIRST SLAM DUNK」は登場人物である宮城リョータの出身地として沖縄が描かれ、23年5月にはプロバスケットボールBリーグの琉球ゴールデンキングスが初優勝を達成した。同年8〜9月にはFIBA男子ワールドカップ(W杯)の予選ラウンドが沖縄アリーナで開催。日本代表が48年ぶりに自力でオリンピックの出場権を獲得し、沖縄県で起きた“南の島で起きた奇跡”は列島を熱狂の渦に巻き込んだ。

そして、2024年1月12〜14日、この間に沖縄バスケが紡いできた熱狂ストーリーのフィナーレとも言える「B.LEAGUE ALL-STAR GAME WEEKEND 2024 IN OKINAWA」が沖縄アリーナと沖縄市陸上競技場で開催された。

最終日に行われたメーンのオールスターゲームには、茨城県のアダストリアみとアリーナで行われた昨シーズンの2倍超となる7,357人の観客が来場。今シーズンはBリーグの各チームで観客動員数が増加傾向にあるなど、上り調子にある日本バスケの現在地を象徴するように沖縄アリーナが熱気に包まれた。

沖縄市出身の“お祭り男”山内盛久 入場演出に「全集中」

Bリーグオールスター “MVP”岸本隆一が示した未来への決意
プライベートでも仲の良い岸本隆一(左)と山内盛久。度々1対1をして会場を沸かせた©琉球ゴールデンキングス

試合は開始前の選手入場から見どころ満載となった。

「B.BLACK」ではキングスの岸本隆一、今村佳太、ジャック・クーリーの入場時に観客がどっと沸き、「B.WHITE」では富樫勇樹(千葉ジェッツ)や河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)といったW杯日本代表組、元キングスで沖縄市出身の並里成(群馬クレインサンダーズ)らが大歓声で迎えられた。

なかでも会場のボルテージを一気に上げたのは、元キングスで沖縄市出身の山内盛久(三遠ネオフェニックス)、前回大会MVPの篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)、藤井祐眞(同)、辻直人(群馬クレインサンダーズ)というリーグの“お祭り男”4人衆である。沖縄の伝統芸能である獅子舞や大太鼓と共にコートに現れ、カチャーシーを舞いながら登場。客席も指笛や拍手で応え、一体感を演出した。

沖縄アリーナの近隣にある山内中学校出身で、「自分の庭にアリーナが建った感じ」と言う山内。それだけに地元でオールスターを盛り上げたい気持ちは人一倍強く、「今回選ばれて、盛り上げるためにそこ(入場)に全集中しようと思ってました」と振り返る。“沖縄感”満載の入場演出は自らの提案だったことを明かし、「最初は一人で目立とうと思ってましたけど、4人でできて本当に心強かったです。楽しくできました」と頬を緩ませた。

クーリー3P3連発 岸本は“沖縄出身対決”で沸かす

Bリーグオールスター “MVP”岸本隆一が示した未来への決意
試合中は笑顔が絶えず、祭典を心から楽しんでいる様子だったジャック・クーリー(右)©琉球ゴールデンキングス

試合でもキングス、沖縄関係選手の活躍が光った。

これまで3度リバウンド王に輝いているクーリーが見せたスリーポイント(3P)ショーは圧巻だった。今季のレギュラーシーズンではこれまで6本中1本の成功と3Pを打つことすら稀だが、この試合では第2クオーター(Q)の終了と同時に右コーナーから決め、感触を掴んだ。第3Q開始早々には3連続で長距離砲を沈め、観客を驚かせた。

岸本は「WHITE」の並里、山内と度々、沖縄出身プレーヤー同士のマッチアップで沸かせた。前日に岸本に対するダブルチームを公約していた並里と山内は有言実行し、ポストアップして岸本を背中でごりごり押す場面も。並里は「3人で沖縄を盛り上げて、それが皆さんの心に届いていたたいいなと思います」と笑顔で振り返った。

日本トップ級の選手たちによる卓越した技術とエンターテインメント性を織り交ぜた1年に一度の祭典を締めくくったのは、生え抜き12シーズン目の“ミスターキングス”岸本だった。

第3Qまでは7得点と平凡なスタッツだったが、第4Qに入ってからは「みんなが空気を読んで僕にボールを回してくれた」とチームメートの後押しもあり、このクオーターだけで5本の3Pを含む17得点。特に試合時間残り2分を切り、8点差を追いかける場面で2本連続の長距離3Pを沈めた場面では、アリーナがこの日一番の大歓声に包まれた。

結果、岸本は試合を通して両軍トップの24得点を記録。自身のほかに河村、ペリン・ビュフォード(島根スサノオマジック)、ジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)の4人がノミネートされたMVPのSNS投票で85%という圧倒的な支持を得て、MVPに輝いた。

岸本は前日に行われた3Pコンテストでも初優勝し、2冠を達成。「最後はレギュラーシーズンのような集中を感じていました。自分もシュートを決めたいという気持ちはあったし、会場の声援、気持ちがボールに乗り移ったと思います」と笑みを浮かべた。公式戦ではない“お祭り”とはいえ、地元の期待を一身に背負う中で結果を出したことは、見事と言う他にない。

10-FEET「聖地にしていこう!」 沖縄バスケが向かう先は…

Bリーグオールスター “MVP”岸本隆一が示した未来への決意
来シーズンの開催地は千葉県。試合後には、岸本隆一(右)から千葉ジェッツの富樫勇樹にボールの引き継ぎが行われた©琉球ゴールデンキングス

映画SLAM DUNK、キングス優勝、W杯、オールスターという沖縄バスケの熱狂劇は、地元を代表するプレーヤーのMVP受賞という最高の形で幕を閉じた。一方で、インタビューでマイクの前に立った岸本は最後にこう語った。

「今日という日をすごく楽しみにしていましたし、こうやって素晴らしい時間をたくさんの人と一緒に過ごすことができてすごく光栄に思っています。ここをきっかけに、バスケットの魅力を沖縄から発信していけたらいいなと思います」

試合開始前にあったサプライズ演出のライブパフォーマンスで、映画SLAM DUNKの主題歌であり、W杯では日本代表が五輪切符を手にした際に場内BGMとして流れて会場中が大合唱した「第ゼロ感」を披露したバンド「10-FEET」のボーカルTAKUMAさんは「サッカーは国立競技場。相撲は国技館。野球は甲子園。バスケットボールは?!」と観客に問い掛け、会場は「沖縄アリーナ!」と応じた。「伝説にしていこう!奇跡が生まれる聖地にしていこう!」。TAKUMAさんはそう続けた。

いずれも未来志向だった2人の言葉。確かに、この1年強の期間に限って言えばオールスターは物語のひとまずの「終わり」を告げたが、沖縄バスケにとっては、それは同時に次なる章への「始まり」でもある。

沖縄において、バスケットボールは戦前に学校の授業に導入された。戦後も教育現場での指導が綿々と続き、米国統治下では米軍との交流試合も行われた。本土復帰から間もない1978年には「辺土名旋風」で辺土名高校がインターハイ3位に入り、87年に県内で開催された海邦国体で少年男子が優勝。90年代には全国の強豪にのし上がった北谷高校と北中城高校が切磋琢磨し、県内のバスケ人気を醸成した。2007年に旧bjリーグに参入したキングスは県民が誇る球団に成長し、沖縄のバスケ熱をさらに高め、可視化する存在となった。

キングスは今、「沖縄を世界へ」という新たな挑戦を掲げ、アジアNo.1球団になることや、世界最高峰リーグである米NBAのチームを沖縄アリーナに招くことなどを構想する。学生カテゴリーに目を向けても、昨年末の高校全国大会「ウインターカップ」で優勝した福岡第一のエースで、沖縄出身の崎濱秀斗が、SLAM DUNKの作者である井上雄彦さんが創設したバスケ留学のための「スラムダンク奨学金」で今年4月から米国に留学を予定するなど有望な選手が育っている。

国内外で存在感を高めた「沖縄バスケ」はこの先、どこへ向かい、どう発展していくのか。世紀を越えた歴史の歩みは、これからも続いていく。

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