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オーダーの「優位性」が落とし穴に? 2連覇を逃した琉球アスティーダ、張本智和ら“三本柱”がシングルス全敗
団体戦で戦う卓球Tリーグは3月22、23の両日、東京の代々木第二体育館で2023-24シーズンの男子プレーオフを行った。クラブ初の2連覇が懸かる琉球アスティーダ(レギュラーシーズン2位)は初日にあったセミファイナルで岡山リベッツ(同3位)に1ー3で敗れ、ファイナルを前に姿を消した。
世界ランキング9位(3月22日時点)でパリ五輪代表の張本智和や、リオデジャネイロ五輪団体銀メダリストのベテラン吉村真晴、元中国代表のジョ・シンコウらタレントを揃え、下馬評では優勢だったアスティーダ。しかし第2マッチからのシングルス3試合でこの“三本柱”がいずれも黒星を喫し、相手の勢いに呑み込まれるように敗れた。
この日の選手たちの調子や相手との相性など、敗因はさまざまだ。1,225人の観客が来場したが、岡山は大応援団が駆け付け、声援の量で明らかに劣勢だったこともその一つだろう。ただ、それらとは別に、アスティーダにとっては意外なところに“落とし穴”があった。
11通りのペア試した“鬼門”のダブルスで快勝
試合はアスティーダにとって理想的な展開で幕を開けた。
試合の流れを左右しかねない第1マッチダブルスには、RS終盤で定着したシンコウ、シュウ・ユウの元中国代表ペアが登場。シュウの厳しいコースを突いたフォアやシンコウの強烈なバックが決まり、ほぼ流れを渡すことなく2ー0で快勝した。
ダブルスは今季なかなかペアが固定できず、RSで試した組み合わせは11通り。チームの通算成績は15勝5敗だった一方、ダブルスに限って言えば7勝13敗と負け越し、アスティーダにとっては“鬼門”だった。
2人はプレーオフ前に中国でダブルスの練習を重ね、日本に戻ってチームに合流してからも相手の試合映像を見ながら念入りに作戦を練っていたという。シーズンを通してダブルスのペアリングに苦しんでいた張監督は「ダブルスは今シーズンで一番いい試合だった」と振り返った。
世界ランキング9位の張本、まさかの“ストレート負け”
ダブルスで先勝し、勝つために必要な白星は残り二つ。いずれもシングルスとなる第2マッチ以降は実績十分なシンコウ、張本、吉村の順でオーダーを組んでいたため、アスティーダが優位に立ったかに見えた。
しかし第2マッチシングルスでシンコウが自身と同じ元中国代表のハオ・シュアイに2ー3で競り負けると、チームの絶対的エースである張本と元中国代表のヤン・アンが対戦した第3マッチシングルスで、この試合最大の番狂せが起こる。
第1ゲームからアンがラリーに付き合わず、積極的にフォアに回り込み、早いタイミングで強烈なショットを打ち込む。張本は流れを掴めない中でもサーブでミスを誘ったり、ブロックで我慢したりしていたが、最後に5連続ポイントを許してゲームを先行された。
第2ゲームも同じような展開で奪われると、第3ゲームも競り合っていた最終盤の勝負所で「0−2というゲーム数も影響し、緊張から手が少し言う事を聞かなかった」とチャンスボールをミスし、万事休す。
まさかのストレート負けを喫した張本は「完敗です。フォアが上手い選手というのは分かっていたのですが、予想以上にバックを使わず、ラリーになる前に早い段階で質の高いドライブを一撃で狙ってきた。僕はそういうタイプの選手に負けることが結構多い。各ゲーム終盤はリードしていましたが、凡ミスから同じ展開で取られてしまいました」と冷静に振り返った。
張本が「僕が1勝1敗の状況からリードできなくて、真晴さんにも悪い影響を与えてしまった」と言うように、続く第4マッチシングルスの吉村も明らかに動きが硬く、若干19歳の若手である吉山僚一に1ー3で敗れた。
得意のサーブで連続ミスをするなどし、「シンコウと智和が負けることは僕自身も想定していなかったし、相手チームの応援もあってかなりアウェー感がありました。試合をしている時はそんなに気にせず、自分のプレーにフォーカスしていましたが、どこかで焦りがあったと感じます」と振り返った吉村。
終始うつむいたまま取材に答え、悔しそうに「負けられないプレッシャーはありましたが、いつもそういった状況で戦ってるいので、それほど苦ではなかったんですけど、終始チャレンジャーだった相手の勢いに押されていた感覚はありました」と語った。
オーダー開示で「チャレンジャー精神」に差
実力以上に、相手の勢いに呑まれてしまったというような内容だったが、冒頭で記した通り、意外なところにも落とし穴があった。
レギュラーシーズン(RS)の上位チームにアドバンテージをつくるため、下位チームが試合前日にオーダーの一部を開示しないといけない、というプレーオフの特別ルールである。セミファイナルにおいては第2マッチから第4マッチまでのシングルス3試合が開示の対象となり、アスティーダは岡山のオーダーを見て、どの選手をぶつけるかを決められる権利があった。
一見すると相性が良いと見られる対戦相手を選べるため、アスティーダにとっては文字通り有利な条件に見えるが、この試合に関して言えば精神面でネガティブな要素を生んでしまったようだ。
試合後、アスティーダの張一博監督はこう振り返った。
「相手のオーダーを見て(自分たちのオーダーを)組むのは、逆にこちらにとっては変なプレッシャーがあります。『自分たちにとって分がいい』と思うから、変な緊張が出てくる。やっぱり難しい部分があると思います」
このルールに関しては、岡山の白神宏佑監督もコメントをしていた。
「向こうに選択させるためのオーダーを組んだつもりです。今日琉球のオーダーを見た感じではガチガチのオーダーで来たなと思ったので、『ちょっと向こうが弱気なのかな』『これチャンスあるかな』と感じました。こちらはオーダーを開示して挑戦するけど、逆の立場であれば『勝たなくちゃいけない』と思うので、少し力は入るのかなと思います」
つまり、オーダーの事前開示は岡山の「チャレンジャー精神」を強め、アスティーダはそれに対して受けに回ってしまったということだろう。勢いに差が生まれる一つの要因になったことは間違いない。
“ライバル”東京が4度目の優勝 来季リベンジへ
翌23日に行われたファイナルではRS1位の木下マイスター東京が岡山を3ー1で下し、東京が2年ぶりの頂点に立った2023-24シーズン。これで開幕から6シーズンを終えたTリーグの優勝は、東京が4度、アスティーダが2度となり、この2チームのライバル関係が継続する形となった。
ただ、今シーズンは静岡ジェードと金沢ポートの2チームが新規参入し、6チームとなったことでセミファイナルが新たに導入されるなど、競争環境は厳しさを増した。それを念頭に、張本はこう語った。
「6チームとも実力が拮抗していますし、特に岡山、琉球、東京はその中でも強いので、どこが勝ってもおかしくない。その日に強かった方が勝つというのがTリーグの難しさです。来年は『連覇』はできないですけど、もう1回優勝を狙うということが目標になります」
吉村も契約も含めて「来季に向けてはまだ分からない部分が多いですが」と前置きした上で、意気込みを語った。
「僕自身、悔しい試合をしたので、もしこういった場面でまたチャンスがあればしっかりチャレンジャーとして臨んでいきたいです。この悔しさはこれから1年間も残ると思う。また(この舞台に)戻ってきて、自分のいいパフォーマンスをして、みんなに楽しんでもらえるように頑張っていきたいです」
初のリーグ連覇とはならなかったが、キャプテンの有延大夢を先頭に、実績のある選手の他にも濵田一輝や岡野俊介といった若手の成長も見えたアスティーダ。沖縄出身の上江洲光志のさらなる活躍も期待される。最終決戦を前に敗退した今シーズンの悔しさを糧に、来季はリベンジといきたいところだ。
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