コラム
心が震えた取材——。キャンヒロユキさん、哀しみと失意の底で「僕はお笑いに救われた」
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『模合のテーマソング作ります』
これらは、芸人のユニークなネタや発想を商品として販売するネット市場「lolbox」の商品だ。
このサービスを手掛けるのは、沖縄県内で放送作家として活躍するキャンヒロユキさん。
開発に至った動機は、新型コロナの影響でライブや営業など活躍の場を奪われた芸人を救いたいという想い。
さらにキャンさんは、お笑いの配信を観ている視聴者の笑顔と笑い声を数値化し、そのパーセンテージに応じた笑い声を生成するシステムを開発。
オンライン配信では芸人がネタを披露する際、視聴者にウケているネタを重ねる「天丼」が出来ないという課題があったが、このシステムを使えば解決できる。
また視聴した人数が少なくても笑いの量が多ければ、面白いがまだあまり知られていない芸人の発掘にも繋がるかもしれない。
芸人の面白さをより引き出すために奔走するキャンさん。なぜここまで芸人のためを想うのか。
2008年2月、キャンさんは妹とその婚約者を事故で失った。
これまでに経験したことのない悲しみと喪失感。
事情を知る芸人たちは、事故の話題に触れることは無かった。触れられなかったのかもしれない。
しかしステージ上には、これまで以上に舞台を盛り上げようとする芸人たちの姿があった。
「ライブを観ている時に思わず笑ってしまって。その時にとっても救われたなと思った」
「まだまだ先に進めるなというか、人生進めるなって思った」
哀しみと失意の底からキャンさんを救い出してくれたのが、お笑いだった。
「人を笑わせたり楽しませたり笑顔にすることでその人が救われることって絶対あるし、その面白さを伝えるためにどうするかって考えるのが僕の役割」
キャンさんは芸人のネタを見る際、心に決めていることがあるという。
それは「面白くない」という言葉は絶対に口にしないこと。
「どんなネタであっても、少なくとも本人は面白いと信じて披露している」
「そして1人だけでもそのネタで笑顔になり、救われる人がいるかもしれない。そういった芸人の面白さを引き出すのが放送作家としての僕の使命です」
計り知れないほどの苦しみを乗り越え、笑いを通して多くの人に幸せを届けたいと話す姿に心が震えた。
取材・放送を終えた後、キャンさんから「すごくよかったよ。聞きにくいこともあったと思うけど、一生懸命聞いてくれてありがとう」という言葉を頂いた。
視聴者に番組を届けることが私たちの使命だが、「本当にこの内容で当事者の想いが伝わるだろうか」と悩みながら編集をする身としては、取材に応じてくれた方からこういった言葉を聞くと安心するし、本当に嬉しい。
キャンさんのお笑いへの情熱に触れ、私自身も勇気を貰った。
これからも取材中に感じた想いを大切にしながら、真摯に向き合っていきたい。
取材・放送の様子はYouTubeでご確認いただけます
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