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当銘 寿夫

当銘 寿夫

沖縄で日本そば?! 蕎麦 寶の店主が「手打ち」に徹底的にこだわるワケ

蕎麦 寶(沖縄県那覇市牧志)店先に出された暖簾と店主の上條博司さん

ほんのり漂うかつおだしの香り。トン、トン、トンと包丁でそばを切る音が聞こえてくる。これ、絶対うまいヤツです。沖縄観光のメッカ、国際通りからスージグヮー(沖縄の言葉で「小路」の意味)に入ったビルの2階にある「蕎麦 寶(そば たから)」。沖縄なのに「日本そば」。その日の朝に打った麺が無くなり次第、営業を終えてしまう人気店の店主、上條博司さんに手打ちにこだわる理由などお話をうかがいました。

早期退職しておそば屋さんに

——そばを打ち始めたのはいつごろですか。

「大学を出てからずっと会社勤めで、営業職だったので全国各地を転々としていました。45歳ごろ、自宅を構えていた埼玉で知り合いから『そば打ち同好会に入らないか』と誘われたのがきっかけでした。そばを食べるのは好きだったんですけど、打つのはそのときが初めてでした」

蕎麦 寶(沖縄県那覇市牧志)の店主・上條博司さんのインタビュー風景

——そばの魅力に取り憑かれて、脱サラしたんですか。

「いや、サラリーマンが嫌になったからやめちゃいました (笑)。営業の仕事は楽しかったんですが、管理職の仕事は私には向いていなかったみたいです。定年退職後の60歳から何か始めようと思っても難しいだろうなと思って。それだったら好きなことをやろうと、54歳で早期退職しました」

「それから1年間、そば打ちのプロを養成する教室に通いました。プロの打ち方はもう違いましたね。素人は一回に打つのが500グラムぐらいなんですが、プロは1.5キロから2キロ。まず量が違うんです。それを平気でこなせるようにならないと、商売としてはやっていけない。デスクワークでなまった体を作り直さないといけなかったので、トレーニングジムにもほぼ毎日通っていました。加えて、酒のアテになるような料理も覚えなきゃと、そば打ち教室とは別に料理教室にも通いました」

埼玉から沖縄へ

——修行を経て、沖縄で店をオープンしたんですか。

「暖かい土地が好きだったので、最初から沖縄でやりたかったんですけどね。土地も人も知らない沖縄でいきなり商売を始めるとなるとちょっと無謀かなと思って。それで知り合いが多くいる埼玉県で店を始めました。妻の知り合いや近くの会社員のお客さんが来てくれて。8年間、浦和で営業していました」

蕎麦 寶(沖縄県那覇市牧志)手打ちの日本そばを打つ上條博司さん

——それから満を持して、沖縄へ?

「60歳を過ぎたころに、そばの打ちすぎが原因で、指の曲げ伸ばしがスムーズにいかなくなってしまって手術をしたんです。それで踏ん切りをつけて、浦和のお店を閉めて。沖縄に引っ越してきて、ここ那覇で営業を始めました」

——沖縄でそばと言えば、みんな「沖縄そば」を思い浮かべると思います。沖縄そば王国に来て「日本そば」で勝負することに不安は感じませんでしたか。

「いや、あんまり感じなかったです (笑)。食べ物ですから、好きになってもらえれば食べてもらえるだろうなと思って。材料費は割高になってしまいますが、そば粉は国産にこだわって北海道の音威子府村(おといねっぷむら)で取れたものを使っていますし、天ぷらで揚げる野菜はほぼすべて糸満市のファーマーズマーケットで買っている県産品です。うちのそばを食べて健康になってもらいたいという思いで、食材を選んでいます」

蕎麦 寶(沖縄県那覇市牧志)で一番人気のAランチ(950円・税込)

ずっと変えていないもの

——ランチメニューの「Aランチ」「Bランチ」は沖縄の定食屋さんに合わせたんですか? (編注:沖縄の定食屋さんでは主要なランチメニューが「Aランチ・Bランチ・Cランチ」と表記されていることが多い)

「いや、浦和のころからこれでやっています。妻からは『そば屋だから、い・ろ・はの方がよくない?』と言われたんですけど。いろはは言いにくそうだったんでA・B・Cに…」

蕎麦 寶(沖縄県那覇市牧志)A・B・Cがつくランチメニュー名は埼玉で営業していた時と変わらない

——えーっ!じゃあ、ただの通し番号みたいなものですか?

「そうです。沖縄だからとかは全然考えていないです。メニューにセット内容の写真を載せるぐらいのことはしましたけど『沖縄で商売するから、ここは沖縄に寄せよう』とかはしていなくて。味も浦和でやっていたときから変えていません」

「手打ちで提供することも変えていませんね。毎朝5時に起きて。午前5時20分ごろからはお店で打ち始めて、午前7時前には打ち終わります。そばの打ち場ってエアコンを入れられないんですよ。エアコンを付けると、そばの粉を吸っちゃって、1、2年で壊れちゃうんですよね。だから、エアコンは入れられない。平日で4?4.5キロ、土日は5.5?6キロ打つので、終わるころには汗びっしょり。一度、シャワーを浴びに家に帰っています。沖縄に来てからはずっとそういう生活です」

蕎麦 寶(沖縄県那覇市牧志)お昼時になるとおいしい日本そばを求めてお客さんが駆けつける

体が許す限り手で打ちたい

——浦和の店を閉めたのは、手打ちで体に負担がかかって手術したことがきっかけでしたよね。沖縄に来てからも手打ちにこだわり続けるのはなぜなんでしょうか。

「いいそばの条件って『そばの角が立っていること』なんです。機械打ちだとローラーで流してカッターで切るので、角が立たないんですよね。手打ちして包丁で切ることで角が立ち、それが味わいの良さにつながっていると思います。自分が納得いくそばを出したいですし、沖縄の方にも手打ちの日本そばを食べてもらいたいなと思って。県外から沖縄に越してきた方も日本そばが恋しくなるみたいで、よく食べに来てくれています」

蕎麦 寶(沖縄県那覇市牧志)打ち立ての日本そばを見せていただいた

「誰に頼まれてやっているわけでもなく、自分で好きでやっているわけですから、大変だと思ったことはありません。会社員と違って定年退職もないので、体が許す限り、手で打っていこうと思っています」

蕎麦 寶(沖縄県那覇市牧志)Bランチ(そばと野菜天ぷらのセット、850円・税込)は冷たいそば・温かいそばから選べる

くぇーぶータイム

もりそばをズズーッとすすってみると、あっという間にそのコシの強さに心奪われてしまいました。これが上條さんの言う「角が立つ」なんですね。甘めのタレがかかったミニ天丼もあっという間に平らげてしまっていました。ところで、食後にそば湯が出てきたのですがどうしたらいいか分からず、固まってしまいました。残ったそばつゆで割ったり、そこに薬味を入れたりして飲むのが正解らしいですよ。

蕎麦 寶(沖縄県那覇市牧志)のランチメニュー表

ランチタイムにはAランチ(そばとミニ丼のセット、950円・税込)、Bランチ(そばと野菜天ぷらのセット、850円・税込)、Cランチ(大盛りの豚肉つけめん、1,100円・税込)などの他、せいろ単品(並盛、800円・税込)も選べます。

編注:「くぇーぶー」は沖縄の言葉で「食べ物にありつく運」を意味します。

Information

蕎麦 寶(そば たから)

住所
沖縄県那覇市牧志2-2-20 NCビル201
電話番号
098-869-5388
営業時間
11時半~15時
定休日
月曜
駐車場
専用駐車場なし、近隣にコインパーキングあり
カード
不可
電子マネー
不可

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