グルメ,ラーメン,本島南部,那覇市
毎日が違うラーメン店!?『麺狂浪人 卍』が日替わりで繚乱に作り上げる、飽くことなき一杯(那覇市)

いま、沖縄でラーメンが活況をみせている。
これまで長らく、味くーたー(味濃いめ)な豚骨ベースのスープが県内では主流だったが、ここ数年は醤油ベースのクリアかつ繊細な味わいの一杯を提供する店が増加の一途をたどっている。
そのほかにも、塩や担々麺、そしてまぜそばなど、それぞれの味で個性を放つ人気店も登場している。当然、豚骨だろうと醤油だろうと塩だろうと味噌だろうと担々麺だろうとまぜそばだろうと、ラーメンに貴賤はない。
この連載では、年間200杯以上を啜るOTVの“ラーメン大好き古川さん”の案内のもと、多様化する沖縄ラーメンの魅力を深掘りし、未だ味わっていない人たちには新たなめぐり逢いを、そしてすでに味わっている常連客には再発見を届けていきたい。


隠れ家的ラーメン店で、シューティングバーを昼間借りして営業。レギュラーメニューというか、毎月、毎週、のように限定のラーメンを提供している。ラーメン好きが高じて始めたと聞いていますが、根強いファンが足しげく通う知る人ぞ知るラーメン店 。
目次
スープの組み合わせは「無限大」

■スープ
卍の特徴的なスタイルは、なんといっても「日替わり」だろう。
塩・醤油・濃口醤油の3種をベースに、さまざまな食材を縦横無尽に組み合わせて日々スープを変えていく。しかも、どの味の一杯を食してもそれぞれ違っていながら、ちゃんと「卍の味わい」に仕上がっている。
「日替わりで目まぐるしく変わっているけど、どれを食べてもおいしい」という褒め言葉をかけられることも少なくない。
加えて、毎週の限定や月に1度のスペシャルの日も設けていて、選択肢の幅にある種のエンタメ性がある。このスタイルは一見するとかなりたいへんそうだが…。
「開店当初はレギュラーメニューがあったんですが、慣れてくるとやっぱりちょっとお客さんの反応が薄くなってくる。そこで、日替わりにしたら飽きずに食べに来てもらえると思ってやっています。
実はそこまでたいへんではなくて、できることの枠組みが決まっているなかで、フレキシブルにやっていくことに楽しみもありますよ。
たとえば、ダシにしても鳥・豚・牛などの動物系、煮干しなどの乾物系もあるし、煮干しにもいろいろと種類がある。加えて、油も鶏もあれば豚の背脂もあるし、魚介系で作る香味油もあります。なので、組み合わせはほぼ無限大といってもいいかもしれませんね(笑)」
追加トッピング必至の人気レアチャーシュー

■トッピング
日々変わるメニューに伴って当然にトッピングも変化するが、そのなかで変わらず人気を誇るのがレアチャーシューだ。口コミでは「県内屈指のレアチャーシュー」と評されることも。
その断面は桃色と赤とのグラデーションがみずみずしく、噛み締めれば柔らかさへの驚きと同時に凝縮された豚の旨味が口のなかを満たす。
さらに、炙られた表面の香ばしさも良い塩梅で寄り添っていて、その人気に頷ける味わいだ。
「自分がレアチャーシューを好きなので、そこはこだわっているかもしれません。豚肩ロースをほぼ毎日低温調理して、作りたてを出しています。
香ばしさを出すために、表面をちょっと焼いてから真空にして、調理器にかけて2時間。実はそんなに難しいことはやってないんですよ。
トッピングで追加してくれる人が本当に多くて、うちの特徴的なメニューといってもいいと思います」
スープを持ち上げてくれる特注の長細麺

■麺
麺は、製麺所へ特注しているものを使用。
ちょうど取材した日は、それまでの中細麺から細麺に変えたというタイミングだった。
細麺は束ですすって咀嚼すると、サクサクっと歯切れの良い食感を味わえる。
クリアなスープの淡麗系のときにはこの細麺、豚骨醤油をベースとした濃厚な味わいの「家系」のスープのときには高加水のプリプリとした食感の中太麺と、基本的にこの2種類を使い分けているという。
「今回一新した細麺は、スープに浸かった麺を箸で上げてすすったときにスープをしっかりと持ち上げてくれるイメージなんですよ。
これまでの中細麺のパッツンとした食感も良かったんですけど、味をしっかりと感じられるように具材を多めに使ってとった出汁のスープの風味を、麺と一緒にしっかりと楽しめるようにできればと思って変えました」


■店内、オーダー、駐車場など
卍は昼時間帯の“間借り”営業で、同店舗は夜にシューティングバーとなる。
入店すると、広々とした店内の奥にはエアガンで射撃ができるスペースもあり、少々不思議な心地がする。
席は厨房に面したカウンター7席、テーブル席×2。ラーメンは基本的に日替わり1種類のみで、毎週金曜の気まぐれ限定と月に一度のスペシャルがある。
とりわけスペシャルの日は早目に売り切れる可能性が高いので、食べ逃したくなければ気合いを入れて早目に臨む必要があるだろう。
店のXで残りの杯数をリアルタイムでポストしているので、それを参考にするのがベストだ。
注文スタイルは、席についてメニューを眺めつつ目の前に置かれている伝票にラーメンのサイズ(並・大盛り)、トッピング等を自身で書き込んでオーダーする。駐車場は近隣のコインパーキングを。
■〆にかえて〜私はどう食べたか〜

少々雑多な若狭のとおり沿いの雑居ビルに足を踏み入れると、エレベーター横に「麺狂浪人 卍」という大きな看板がかかっている。これは卍が営業している間だけ表示されているそうだ。
ビルの3階に上がって扉を開けると、店内の空間はかなり広い。が、卍は店主・山下 萬爾(やました まんじ)さんが基本的にワンオペでやっているため、すべての席に座れるわけではない。
伝票にオーダーを記入し、セルフで飲み物を入れ、箸とレンゲを取り、スタンバイする。

メインの取材で訪れたのはスペシャルの日で、スープは「虎河豚醤油」。虎河豚の芳醇な香りに、北海道産の昆布を合わせてしっかりとした骨格を出した味わいに仕上がっていた。
さらに、具材にはフグのほぐし身と舞茸を刻んでソテーしてペースト状にした「デュクセル」ソースが乗っており、これをスープに溶かし込むと一気に洋風になる味変も楽しめる仕様になっていた。
「スペシャルは季節とか旬を意識しながら、沖縄の他のラーメン屋さんで見たことないようなメニューを考えるようにしています」と山下さん。
店のXの投稿を見れば、月に一度のスペシャルを、常連やラーメンファンが楽しみにしているのがうかがえる。
今年(2024年)8月の2周年で出したスペシャルメニューのときは、記名制の入店にしたにもかかわらず、熱心なファンが開店の5時間前から並んでいたというエピソードも。


別の日には、帆立を中心に乾物系と魚介の旨味が凝縮された「煮干塩帆立アヒージョ」、豚・昆布・鰹荒節・椎茸の出汁を濃口醤油でまとめ上げた「ブラックマジシャン」も試食。いずれのラーメンも、メインとなる食材を生かしながら個性的な味わいのスープに仕上がっており、「日替わりのどれを食べてもおいしい」という口コミに偽りなし、と納得した。
「山下さんにとって、ラーメンとは?」というやや漠然とした大きめの質問を投げかけると、ノスタルジックな思い出話とともに、地に足ついた答えが返ってきた。
「幼少の頃から、おばあの買物に連れられて平和通りと国際通りに行ってたんですけど、その帰りに必ずラーメン屋さんに寄ったんですよ。昔よくあった和洋中折衷のレストランで、いまみたいな専門店じゃないんですけど。
その頃に食べていたシンプルな醤油ラーメンと鉄火巻きの組み合わせが、自分のラーメン観の原点にある気がします。それもあるのか、やっぱりラーメンは庶民的な食べ物であってほしいという思いもあります。暮らしのなかにあるというか。だから、いろいろと食材が高騰してはいるんですけど、値段設定もどうにか1500円以上にはしたくないとずっと思ってます」
そして最後にこう付け加えた。
「自分は他のいろんなラーメンのお店をまわるのも好きなんですけど、行って食べるとそれぞれのラーメンがお店の表現で、店主がアーティストみたいだなと感じるんですよ。だから、自分も表現の仕方を磨いていきたいですね」
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