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真栄城 潤一

真栄城 潤一

「日常ほど奇跡的なことはない」生き残ることの大事さ描く映画『木の上の軍隊』 主演の堤真一・山田裕貴、平一紘監督インタビュー

「日常ほど奇跡的なことはない」生き残ることの大事さ描く映画『木の上の軍隊』 主演の堤真一・山田裕貴、平一紘監督インタビュー

「沖縄戦の縮図」と言われるほどの激戦となった伊江島での実話を基にした映画『木の上の軍隊』が6月13日から沖縄で先行公開される。
本土から派兵された厳格な日本兵・山下を堤真一さん、沖縄出身の新兵・安慶名(ルビ:あげな)を山田裕貴さんが演じ、戦争の愚かさや戦時下で直面する苦況、そして「生きること」とは何かを鋭く問う映画作品に仕上がった。

ワールドプレミアとなる5月23日の沖縄完成披露上映会の直前、舞台挨拶のために来沖した堤さん、山田さん、そして平監督がインタビューに応じ、映画にかけた並々ならぬ思いや、それぞれの役どころ、そして戦後80年の今伝えたいことなどについて語った。

目次

どんなにみっともなくても、生き残るのは大事

—映画の初お披露目を迎える心境はいかがですか?

平一紘監督:まず最初に沖縄の皆さんに見ていただけるのが素直に嬉しいです。早く反応が見たいですね。

堤真一:沖縄の方もそうですが、本当に観てもらいたいのは日本全国の子どもたちです。まずは沖縄から熱を上げて、そのパワーで全国に広がってほしいと思っています。

山田裕貴:映画作品は観てもらえることが何より幸せなので、今日初めて観る皆さんはラッキーですし、それは僕にとってもラッキーです。これからたくさん広まっていってくれたらいいなと思っています。

「日常ほど奇跡的なことはない」生き残ることの大事さ描く映画『木の上の軍隊』 主演の堤真一・山田裕貴、平一紘監督インタビュー

—これまで沖縄を舞台にした映画に出演されたことはありますか?また、今回の出演でご自身の中で変わったことがあれば教えてください。

堤:沖縄の作品に関わるのはこれが初めてです。もちろん沖縄が悲惨な目に遭っていたとか、アメリカに占領されたとか、少しは知っていました。ですが、伊江島が激戦地で多くの住民が戦争に巻き込まれたということは全く知りませんでした。出来上がった作品を観て感じたのは、生き残るって大事だな、どんなにみっともなくても生きるって大事だな、ということでした。

山田:僕は『ちむどんどん』だけですね。戦争に関して言うと、小さい頃広島に住んでいたので、原爆資料館や原爆ドームを見たことがありました。4歳か5歳くらいの時に資料館に連れて行ってもらって、そこで原爆というものに対して恐怖を感じた記憶があります。その後『火垂るの墓』(高畑勲監督のアニメ作品)を観て、衝撃的に戦争の印象が植え付けられました。戦争ということに対しての大まかな印象はありますが、沖縄戦に着目することもなかったし、伊江島があるということを知らなかったんです。地上戦があったということすら知らなかったので、作品の人物を演じていく中で、どんなに戦争のことを表現しようとしても、体感した人たちの気持ちは絶対に分かるはずがない。それは前提として、作品の中でどこまで僕が戦争を理解して落とし込んで表現できるかが、自分の中での使命だなと感じながら演じました。

—堤さんは厳格な日本兵、山田さんは沖縄出身の新兵という難しい役どころだったと思いますが、それぞれ役にはどのようにアプローチされましたか?

堤:役者はどうしても自分がやる役の正当性を考えて表現したくなるのですが、最初に監督と「(演じる役柄の)山下を良い人には絶対したくない」と話したんです。実際に木の上で終戦を迎えた山口静雄さんという方は、上官ではなく少し年上という関係性で助け合っていたそうですが、映画では僕は上官という役でした。つまり、大日本帝国の軍人であり、その教育を受けてそれを正しいと思って生きてきた側の代表です。そのことをある程度意識して、軍国主義的な考え方の人間を演じました。
その考え方は、安慶名という人物に出会ったことによってどんどん崩壊していくのですが、自分の価値観が壊れていく中で、まだそれを取り戻そうとします。そうしないと自分が今まで生きてきたことを否定するようなものですから。こうした部分も、監督と話しながらやっていきました。

山田:監督から沖縄で戦争を経験した人たちの話を聞いたり、沖縄だけでなく奄美や九州などの人たちの戦争体験を事前に聞いたりして想像を膨らませました。沖縄にも色んな方がいらっしゃると思いますが、僕のイメージだとやっぱり明るくて柔らかいイメージがあります。そんな沖縄の人の代表というか、ピュアで明るくて朗らかで、それでいてそれが計算に見えないように、真っ直ぐ演じました。
そしてこの戦争の時代であれば、軍の上官は恐怖の存在です。その人と2人で生きていかなければいけない。だけど、その存在が頼もしくもあり、恐怖でもあり、時間が過ぎていく中で、関係が上官と兵士だけじゃない繋がりに変わっていくというところはかなり意識しました。ご飯が食べられない、家がなくなってしまう、友だちと離れ離れになる…戦争の中で安慶名がそういった体験をするのは初めてのことだったと思うので、そこは純粋に演じるように意識しました。

「生きる死ぬ」ということに思いを馳せることができた時間

「日常ほど奇跡的なことはない」生き残ることの大事さ描く映画『木の上の軍隊』 主演の堤真一・山田裕貴、平一紘監督インタビュー

—たくさんの出演作がある中で、この『木の上の軍隊』は自分にとって、どんな作品として位置づけられるのか、今思うことを教えてください。

堤:僕たちは仕事として俳優をやっていますし、今後も色んな役をやるでしょう。経験として良かったのは、伊江島で本当に長い年月をかけて育てた木の上で撮影できたことです。作品がヒットするかしないかは、制作者にとってものすごく大事なことだと思います。ただ、戦争をテーマとして扱った映画で、ほとんどが沖縄の現場スタッフたちの中で、前向きさや力強さを感じながら仕事ができた時間は、僕にとってものすごく大事で充実していて、優しい思い出になりました。
個人的な話ですが、撮影中に母の体の具合が悪くて、沖縄にいる間に最悪の事態が起こることも想定していました。その事情を汲んで、スタッフが僕をなるべく早く東京に戻すために、フェリーに間に合わない時には漁船までチャーターしてくれた時もあって、そんなことを思い出すと今胸がいっぱいです。そんな時期の経験を共有した時間はとても大事なもので、それは僕にとっての宝です。こんな現場はなかなかないと思っています。

山田:堤さんが今話してくださったんですが、僕はそのことを知って堤さんが「本当は早く帰りたいだろうな」と思っていました。その感情はおそらく安慶名が思っていたことに通じるし、どんな思いで撮影に臨んでいるんだろうと思いながら横でずっと見ていたんです。撮影中に「お母さんどうですか?」とは聞けないし…でも撮影が終わって、ちゃんと会えたと聞いて安心しました。そういう誰かを思う気持ちを感じながら、「生きる死ぬ」ということにちゃんと思いを馳せることができた時間だったんです。
戦争映画をやったから何かが変わりましたという、そんな軽いもんじゃない1ヶ月間でしたし、僕はこの1ヶ月をあっという間に感じて。実はもっと「帰りたい」って思うかなと考えてたんですよ(笑)でもこれだけ熱意を持って撮影してくださる皆さんと一緒にいられる時間がすごく楽しかったですし、何より大先輩である堤さんとずっとお芝居できる幸せな時間だった。安慶名は自分の島が戦場になってしまって帰れる場所がなくなってしまう。だから劇中で「帰りたいか、帰りたくないか、どっちか分からないんです」と言うんですよ。その台詞のような気持ちになれているのが不思議で、その気持ちのリンクがものすごく起こった1ヶ月だったなと思いましたね。戦争を体験した人たちの気持ちが分かったということじゃなくて、何か“繋がらせてもらっているんじゃないか”ということを感じながら撮影していました。

エンタメだからこそ届けられる人たちに伝えたい

「日常ほど奇跡的なことはない」生き残ることの大事さ描く映画『木の上の軍隊』 主演の堤真一・山田裕貴、平一紘監督インタビュー

—今年で戦後80年になりますが、戦争体験者の方々がいなくなっていく中で、語り継いでいく、伝えていくということについて、映画も含めたフィクションが担う役割はますます重要なものになっていくと思います。映画監督、俳優としてのお考えをそれぞれ聞かせください。

平監督:僕はこの映画を通して、初めて沖縄戦というものと向き合いました。テキストのリサーチだったり、フィールドワークで体験者に実際に会いに行ったり。昔からずっと沖縄でいろんな話を聞くたびに思っていたんですが、やっぱりおじいちゃん、おばあちゃんたちは、お話をするたびに辛そうなんですよね 。毎年慰霊の日がくると、平和学習の場などで子どもたちのために話してくれますが、自分の家族が殺された思い出とか、人によっては殺した記憶を話すことなんです。非常に意義があることだからやっているという使命感をひしひしと感じながら、じゃあエンタメの役割って何なんだと思った時に、僕はそれが普段届いていない人たちに伝えなければならないと思ったんです。
この話を受けた時に一番最初に思ったのは、この作品をどうやって面白く届けようか、ということです。制作のオファーを受けた時に舞台作品の映像を見て、ユーモアのあるエンターテインメントとして非常に高いクオリティーで仕上がっていたので、きっとこれは「戦争」や「平和」という大きなテーマを敬遠するような人たちに対してアプローチできるんじゃないかと感じました。ですから、この映画は戦争を題材にした映画が苦手だと思っている人にも観ていただきたいですし、沖縄に住んでいる方でも県外に住んでいる方にも観ていただきたいです。映画にはサバイバルやグルメ的な要素も盛り込んでいて、ちゃんと楽しみながら観ていただけるように設計したつもりなので、ぜひ敷居を低くして観てもらいたいなと思っています。

「日常ほど奇跡的なことはない」生き残ることの大事さ描く映画『木の上の軍隊』 主演の堤真一・山田裕貴、平一紘監督インタビュー

堤:この映画自体は伝えるという意味では、戦争の悲惨な場面や人が死んでいく場面を羅列していく映画ではなくて、生き残ることが大きなメッセージになっています。かつての武士道精神的に言えば、生き残るのは格好悪いとされていたけど、そうではないんです。それと、安慶名が普通に友だちと喋って、釣りをして、女の子を見て舞い上がっているような、そんな日常が実は奇跡的なことなんだと。多くの人が「日常ってつまんない。もっと刺激が欲しい」と言っているけど、この作品を観て日常ほど奇跡的なことはないということが伝わってくれれば、すごく嬉しいなと思います。
戦争についてはもちろん、もう絶対二度としてはいけないし軍隊は持っちゃいけないと思いつつも、でも自国を守るために必要な武器もあるんだろうか、という葛藤もあります。日本の文化はもちろん大事にしなきゃいけないけど、かつて戦争に突入していった大日本帝国は、国民が一つになったわけですよね。「日本を守らなきゃ」ということばっかりで固まることの怖さもある。戦時中は国民もそうやって盛り上げていっていた部分があるので、自分たちがそれぞれの価値を持つということ、そして違う意見に耳をちゃんと傾けることの大切さをすごく感じますし、今作はそんな映画になっていると思っています。

山田:僕が1990年生まれなので、祖父母の世代が戦争を経験した世代になります。だから多分、これからは僕らも戦争に対して「そんなもんなんだろう」くらいの感じになってしまうんじゃないかと思っています。でも世界を見れば、全然戦争があるわけで、戦争がないからといって平和かと言ったら、そうじゃない。今はSNSとかで言葉で人を攻撃していて、実際に亡くなってしまう人もいます。僕の中では平和だと思っていないです。僕は基本的に人間が大好きな人だったんですけど、最近は嫌いになってきて(苦笑)安慶名みたいな人たちばかりになればいいのに、と本当に祈っています。
国や時代が違っても関係なく、もうちょっと過去や人の気持ちに目を向けて、温かく柔らかく、思いを馳せられる人たちが増えたらいいのにな、ということはずっと考えていますね。戦争起こってないからいいよねっていう、現実はそんな生半可なもんじゃないなと思いますし、だからこそ、こういう作品で、こんな時代があって、生きていることだけで奇跡だということを伝えたい。『木の上の軍隊』は、戦争の残酷さだけを伝えたいわけじゃなくて、特攻が格好良いねじゃなくて、死ぬ美学じゃなくて、生きているということがどれだけ大事なのかということを伝えられる映画になっていると思います。撮影している時も、台本を読んだ時も、最後のシーンに向けて、そういうことをずっと考えていました。

Information

終戦を知らず木の上で生き延びた日本兵は何を思ったか? 戦後80年、沖縄と戦争を考える 映画『木の上の軍隊』
映画『木の上の軍隊』

6月13日 沖縄先行公開
7月25日 全国公開
主演:堤真一 山田裕貴
脚本・監督:平一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案 井上ひさし)
主題歌:Anly「ニヌファブシ」

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