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OTV報道部

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返品額1千万円超だった豆腐屋が6年で売上を倍増できた3つの理由

大豆加工研究所三代目池田屋

6年間で売り上げを約2倍にし、新型コロナウイルスの影響が及んだ2年間で約130%もの成長を果たした豆腐屋が西原町にある。大豆加工研究所三代目池田屋だ。
代表を務めるのは三代目となる瑞慶覧宏至さん。
「豆腐で消費者の人生を豊かにする」という経営理念のもと、「とうふ」の「ふ」は「富」を用いる。
新型コロナの影響で、県内の豆富の市場規模は縮小するなか、どのようにして成長することができたのか、今後の展望も含めて語ってもらった。

大豆加工研究所三代目池田屋

恩返ししたいと思い、夢を捨て三代目に

――どういう経緯で豆富屋になったのか教えてください。

若い時は美容師を目指していました。その時の夢はレストランと美容室が合体された施設を運営するというものです。その夢を実現するために、福岡の方で26歳の時に独立しました。もともと豆富屋になる気はありませんでした。僕、幼少期の頃、豆富屋が嫌いだったんです。友達のお父さんはスーツを着て出社するのに、僕の親はエプロンをつけて長靴を履いて、帽子を被って製造するんですよ。それが幼少期の頃は恥ずかしいって思っていました。だから豆富屋になりたくないなと。

けれど、僕が26歳の時に父親が病気で亡くなったんですよね。その後に兄貴が二代目を引き継いで、二代目としてやってたんですが、その兄も不慮の事故で亡くなっちゃたんです。

その頃、僕は福岡の方で仕事をしていたんですけど、母親から「豆富屋を閉めようかな」と聞いて。育ってきた環境が豆富屋さんだったので母親、家族に、豆富屋に、恩返しをしたいと思い引き継ぎました。独立して福岡でお店をオープンする1か月前の出来事でした。

ブランディング力が弱く半分が廃棄に

――当時の経営状況はどうでしたか?

かなり厳しかったですね。経営状況、財務状況もずさんで立て直しも図れるかどうかも分からない状況だったんですよ。それで何も知らない僕が帰ってきて、1年後に代表になりました。その時からですね、売り方を大きく変えました。

豆富屋って、朝作った豆富をスーパーに納品するんですけど、売れ残った豆富は帰ってくるんです。もちろん返品された商品は全部廃棄です。当初はスーパーに卸すことで売り上げを伸ばすように頑張っていました。けれど、スーパーに卸したら、僕たちはスーパーに来たお客さんたちに自分たちの商品を紹介できないんですよ。やっぱりそれだと自分たちのブランディング力が弱くて、買ってもらうことができませんでした。返品率も上がって、多い日には返品率50%になったこともあります。朝早く作った豆富が半分捨てられるっていうのがすごいショックでした。当時、返品額としては年間1千300万円くらいありました。

認知と差別化でブランディング。リピート率90%超え

全スーパーから撤退。移動販売へ

そこで、一旦スーパーを諦めて、自分たちの手売りでいこうと移動販売を仕掛けました。6年前くらいですかね。
最初はやっぱり商品の数も無く、ちゃんとした車もないので、軽ボックスに発砲スチロールを積んで。ラッパを鳴らしながら、一軒一軒インターフォンを押して、「豆富屋なんですけど豆富はいかがですか」と手売りしながら徐々に徐々に広げていきました。それが続いて今は8台のトラックで糸満市から石川市までの地域に、決まった日と時間に配達しています。
毎週毎週、同じ曜日の同じ時間に訪問することで、お客様に「この曜日はこの時間に豆富屋さんが来る。」と認知していただけるようになりました。

大豆加工研究所三代目池田屋

徹底したのは顧客の目線

それから、もう1つの問題は僕たちの商品を陳列したときに、横に置いてある他社がつくった豆富との違いが言えなかったことです。他社の製品との違いを言えることが差別化であり、ブランディングの大事な要素ですよね。そこで行ったことがお客様から帰ってきたフィードバックを受けて改善し続けるということです。これが今のブランディングに繋がっています。

僕が代表になった時はアメリカ産大豆とかカナダ産大豆といった輸入大豆を使っていました。現在は原材料をほぼ国産の大豆にしています。この大豆にたどりつくまで100種類以上の大豆を試しました。僕たちが作っている島豆富は、生絞りの地釜製法です。生で豆乳を絞って大きい鍋にいれて、直火で温めるんですよ。そうするとタンパクの焦げがつくんですよね。これが豊かな風味となり、国産の大豆の甘みが備わった島豆富になるんです。
結果、現在の弊社のお客様は80%が女性で、リピート率が92%となっています。利益率も売り上げに比例して右肩上がりです。

大豆加工研究所三代目池田屋

サブスク×移動販売

弊社は6年前の移動販売を始めた時から売り上げを伸ばしています。コロナ禍になってさらに売り上げが伸びました。理由は3つあると思います。
1つ目は自粛される方々が増えたことです。僕たちが移動して、自宅に届けるというサービスがさらにお客様に認知されるようになったと思います。
2つ目は健康意識がすごく高まったことで、豆富のニーズも増えたのかなと思います。
そして3つ目が2020年5月に緊急事態宣言が発令された瞬間、サブスクリプション(定期購入)のサービスをリリースしたことです。これは月額3,000円から、豆富を好きなだけ食べられるというサービスです。自宅に宅配ボックスを設置して、1週間に1回注文書と一緒に商品を置かせてもらいます。このサービスを始めたことで新規の顧客獲得にもつながりました。
宅配ボックスのメリットは在宅をしていなくても商品が届くことです。宅配ボックスを設置することで、私たちが移動販売するときに在宅していない人たちにも届けられます。新規顧客の獲得によって、移動販売にも流れるお客さんも増えました。

新たなる展開。フェイクミート

――今後はどのような展開をしていきますか?

僕たちはこれから豆富でフェイクミート(代替え肉)を作ろうと思っています。
フェイクミートの市場って今すごく伸びていて、2030年ごろには800億市場に膨らむと予想されています。僕たちには大豆を加工する技術がありますので、沖縄県でもどうにか広めたいと思っています。
実は3年前くらいから、お肉を使わないお重箱を提供しています。今年のお正月は、限定販売数100件に対して、130件ほどの注文をいただいきました。
これだけ多くの注文が入るということは、お肉を使わずにさっぱりと健康を重視した食べ物が受け入れられているのかなと思います。

大豆加工研究所三代目池田屋

取材後記

新型コロナウイルスが猛威を振るった2年間、私たちは外出や友人と対面で会うなど、できないことが多くなりました。
しかし、瑞慶覧社長はできることを探し続け、新しく生まれた需要を見逃すことなく豆富屋を成長させてきました。
インタビュー中、瑞慶覧社長が終始話をしていたのは「どうすれば豆富の可能性を広げることができるか」ということです。
それは幼少期に豆富屋を経営していた両親がどんなに恰好悪く見えていたとしても、幼い頃から両親が作った「豆富」で育ってきたからこそ、「豆富」が人生を豊かにすると信じているからなのかもしれません。

取材:沖縄テレビ 報道部記者 延総史

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