エンタメ,スポーツ
夢は結果ではなく、旅路だ #10荒川颯<下>【KINGS PLAYERS STORY】
練習生としてキングスに加入した時は「やれることは全部やってやろう」というメンタルだった。
シーズンが終わった後、北海道からは継続のオファーはもらえなかった。でも、不思議と今後に向けての不安は一切なかった。この頃には前向きな気持ちを取り戻していたこともあるけど、本で読んだようなことを実践していけば、B1に行けた時みたいに、また前進していけるという思考になっていた。
このオフにも、エージェントが主催する合宿でまた転機が訪れた。
ある日、オケさん(桶谷大HC)が練習を見に来ていた。挨拶をしたことがあるくらいの関係性だったけど、エージェントの方に「覚悟して、オケさんにお願いして来い」と言われて、「練習に参加させてください」とお願いをした。オケさんは、以前から自分のことを評価をしてくれていたらしい。2023年7月、練習生として加入させてもらった。
この時、B2、B3を含めてどこからもオファーがなかった。もしあれば、絶対に選手契約を優先させていた。そうなっていたら、今の僕はない。いま振り返ると、すごい運命だと思う。

キングスに合流した時は、「やれることは全部やってやろう」というメンタルだった。裏方の仕事にも率先して関わった。
午前7時くらいに1、2番でアリーナに来て、選手たちが使うアイスバスに氷を入れ、水ボトルを一本ずつ準備する。少しの空き時間を使ってシューティングをしたら、午前8時ごろから一人一人のワークアウトが始まるから、その手伝いを全員分やる。
正午ごろに手伝いが終わったら、バナナやゼリーをさっと食べて、午後の練習に少し参加させてもらう。全部終わったら、コーチに「ワークアウトしてくれませんか?」とお願いして、プラスアルファでトレーニングをした。
このルーティンを毎日繰り返した。
すると、チャンスは意外にも早く訪れた。2023-24シーズンの開幕を前に怪我人が相次ぎ、佳太さん(今村佳太/名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)も日本代表活動で開幕戦に出場できないことが分かっていた。9月末にあったプレシーズンゲームの直前、自宅に一人でいたら、エージェントから電話がかかってきた。
「元気か?」
「はい」
「颯、背番号何番にする?」
「えっ…」
選手契約のオファーがあったことを伝える連絡だった。ただ、うれしかったのは1秒だけ。その時、ちょうどキングスが初優勝した2022-23シーズンのファイナルをテレビで観ていた。日本生命ファイナル賞を獲得したコー・フリッピン(群馬クレインサンダーズ)が退団し、そのポジションに入る形だったから、一気にプレッシャーが押し寄せてきた。
「自分に打ち勝たないといけない」
強く決意した。

あわせて読みたい記事