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真栄城 潤一

真栄城 潤一

NY在住の写真家「国吉 歳木朗」目標はMoMAへ作品展示!ルーツの沖縄と“第二の故郷”ニューヨークを掛け合わせGoing My Way

Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)
フォトグラファー(写真家) 国吉歳木朗さん

ニューヨークを拠点に、自身の沖縄ルーツに向き合いながら作品を発表しているフォトグラファー(写真家)の国吉歳木朗さん。写真を表現を基調としつつ、沖縄という土地に由来する素材を使い、沖縄とニューヨークという、様々な人たちが交差する場所のエネルギーを作品に落とし込んでいる。
次回展示の準備のために一時帰国した国吉さんに、キャリアや写真を始めたきっかけ、作品に込めた思いや制作のモチベーションなどについて、じっくりと話を聞いた。

目次

なぜ国吉歳木朗はフォトグラファーになったのか?

Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)

—バイオグラフィーと写真を志したきっかけをまず聞かせてください。
沖縄県の那覇市出身で、こっちではあの普通の公立の中高を卒業しました。 で、その後、あの、高校を卒業してからはなんか日本中をバイクで旅して。野宿しながら。

—野宿してたんですか(笑)
そうなんですよ。それから沖縄に戻って、とりあえず料理ができたら食いっぱぐれもないだろうなと思って、最初は料理の道を目指してたんですよ、10代の頃は。でも、いざキッチンで働いてたらなかなかキツい現場で、好きだった料理が嫌いになりそうになって辞めてしまいました(笑)その後、これから何かを成し遂げていくにはとにかく英語が喋れた方が絶対いいだろうと思って、アメリカのサンフランシスコに留学したんですよ。

—すごい行動力ですね。いきなり飛んでいっちゃったと。
それが21歳の頃ですね。英語も喋れない状態で行って、アメリカに行けばどうにかなるだろうと思ったんですけど、全然どうにもならなくて(笑)向こうで死ぬほど勉強しました。その時に出会った周りの人たちが志高かったんですよ。例えば建築学を習いたい、アートやファッションを学びたい、ビジネスを極めたいとか、そういう人たちが多かった。ただ英語だけを学びに行ってる自分って何だろうと思ってしまったんですよね。

それで自分も何か目標を決めて、覚悟を決めて何かしたいと思って。 自分は何が好きなのかということを改めて考えてみたら、写真を撮ることが好きだったんですよ。常に使い捨てカメラを持ち歩いて色々と撮ってたので、本格的にやってみようと。

—カメラはどんなきっかけで持ち始めたんですか?
昔からお酒を飲むのが好きで、よく記憶をなくしてたんですよ(笑)だから記憶のバックアップ的な…(笑)iPhoneもない時代ですから。とはいえ、酒を飲んでる時以外にも、記録や記憶に残しておきたい何かや、リマインドしたいことあったらすぐ撮ってたんですよね。

それ以前の話なんですが、大学は専門的に何かを学ぶところだから、やりたいと思うことがない状態で行くのはちょっと違うなと僕は思ってて、それで高校から進学しなかったんですね。周りの友人とかは結構ノリで入れる大学に行くような雰囲気があった。それは嫌だったので、大学というチョイスはその時なかったんですけど、アメリカで写真やるって覚悟を決めたから「よし、じゃあ大学で学ぶぞ!」と。
でも大学に入りたいからといってすぐ入れるわけじゃないので、ちゃんと大学に入れる試験の勉強をして、サンフランシスコの写真学科がある大学に入学して、そこで本格的に一眼レフカメラ買って写真を学び始めました。

ルーツである沖縄と“第二の故郷”ニューヨークの掛け合わせ

Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)

—現在の活動や、制作している作品について教えてください。
2014年頃からニューヨークでも展示を少しずつするようになりました。普通、写真の展示は撮影した写真をプリントして額に入れて飾るんですが、それより変わったことがしたいなって思うようになっていった。
それで、写真を媒体としたインスタレーション作品と言いますか、普通と違うアプローチの仕方で色々なことを実験的に試しています。 今後も続けていくと思いますが、常にトライアンドエラーで、エラーはなるべくしないように(笑)

—作品を制作するにあたって国吉さんのこだわりや思い、モチベーションについてお聞きしたいです。
前回(2024年)、沖縄のアンテルームでやった「REGION FREE」という個展以来、自分のルーツである沖縄をさらに意識するようになったんです。
それに加えて自分の第二の故郷でもあるニューヨークも意識して、ベースとしての沖縄と自分が成人してからほとんどの人生を過ごしているニューヨークをミックスして、新しい作品を作ることで今の自分を表現しています。

ここ最近は沖縄とニューヨークをベースに新しい作品を作っていて、東京の個展でもそれを前面に押し出そうと思ってます。東京の写真は1枚も使わない!みたいな感じでブチかましていきたいですね(笑)

—前回の展示は現場に行けなかったのですが、アーカイブ映像を拝見するとすごく面白かったです。琉球石灰岩に写真をプリントした石板のような作品はこれまでに見たことのないものでしたし、月桃紙に泡盛を染み込ませるという実験的なことも試していましたね。

Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)
Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)

琉球石灰岩にプリントした作品はもしかしたら世界初じゃないですかね。質感がすごく面白いと思っています。
月桃紙と泡盛については、写真を月桃紙にプリントした後、縁の方に染み込ませて千切ったんですよ。月桃紙って実はとても硬くて、普通に指で破れないんですよね。だから泡盛でふやかしたら千切れるようになる。そもそもなぜ千切ったかというと、普通に売ってる月桃紙は端っこがきちっと綺麗になってるんですけど、月桃紙のフワッとした素材感を見せたかったので、あえて手で千切ることで質感を強調してみました。

これはお酒を飲みながら作業中に思いついたアイデアで、ふやかすのであればせっかくだから水じゃなくて泡盛でやって、作品からほんのり泡盛の香りがしても面白いかなと思ったんですよね。

—写真を学んでいく中で影響を受けた、あるいはカッコ良いなと思った写真家はいますか?
います。世界的に結構有名な写真団体の「マグナムフォト」というグループがあって、その中にいるスティーブ・マッカリー、そしてセバスチャン・サルガドの作品は、写真をやり始めた頃に衝撃を受けて、それ以降は常にカッコ良いと思ってリスペクトしています。

写真をやり始めた頃はそんな路線に行きたいと思ってたんですけど、そう上手くもいかなくて。昔の目標は「自分もマグナムフォトに入りたい」ということだったんですよね。でも、路線を変えたつもりはないんですけど、写真で生きていくって大変で。とりあえず生きていくために、そこまで仕事を選ばずに割と何でも撮ってる感じではあります。

仕事は主に人物を撮る撮影ですね。作品に関しては別に人物、風景問わず、自分が良いと思ったものを撮っています。

年々沖縄のことが好きになってるし、可能性も見えてきている

Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)

—ニューヨークを拠点にしてどれくらいになるんですか?
2006年にサンフランシスコからニューヨークに移って、来年で20年になります。

—沖縄とニューヨークを行き来する中で感じることはありますか?
一度沖縄から離れた人がみんな言うことだと思うんですが、離れたからこそ沖縄のことが気になるし、意識するし、沖縄の良さがむちゃくちゃたくさん見えてくると思うんですよ。それで年々沖縄のことが好きになってるし、沖縄が持ってる可能性も見えてくるようになりましたね。

例えば、沖縄をベースにしてビジネスでサクセスすることは今の時代はもう全然できるということを、新しく出会った色々な人たちを見てても思います。僕が暮らしていた20年前よりもかなり洗練されてきてるし、沖縄の良さをたくさんの人が掘り起こしてくれて、以前よりも沖縄の素敵さが見えてきているようにも感じています。
僕もその一部になりたいという思いもあって、沖縄の良さをニューヨークや東京など、沖縄以外のところに発信していきたいなと思ってます。

—ニューヨークと言えば「移民の街」ということがよく言われますけど、国吉さんは現地ですんなり馴染めましたか?
移民の街ではあるんですけど、すべての人種が絡んでいるわけじゃないんですよ。移民は移民のコミュニティーを作っていて。街を歩いていたら、本当に色んな人がいるんですけど、人が集まるようなクラブとかバーに行けば異文化交流もあります。でも、普通の生活で絡むことはあまりないですね。

—ちなみに沖縄つながりとかでの交流はあるんですか?
はい。ニューヨークも沖縄県人会あるので。僕は今年まで会長をしていました。
登録されているのは、150人前後です。年に2、3回の集まりがあって、そこに実際に来るのは60人前後ですね。年齢層の幅が広いんですよ。おじい・おばあも多くて。みんなで持ち寄った沖縄料理を食べたり、三線の演奏があったり、沖縄の踊りがあったりで、親戚の集まりぐらいのノリでやってる感じがあります(笑)
2世、3世、4世の人もいるので、世代を超えて交流しています。

「どう撮ったらカッコ良くなるか」をずっと考え続けること

Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)

—インスピレーションを得たり創作意欲が湧いたり、あるいは感性に刺激を受ける瞬間はどんな時ですか?
美術館やギャラリーにはよく行っていて、そこでインプットしてますね。あとは、普段道を歩きながら、色んなものを見るようにしています。
「これをどう撮ったらカッコ良くなるかな」と常に考えているので、結構疲れます(笑) それが習慣になっちゃってますね。だから些細なものでも深掘りすれば何か大きなものに化けたりするんじゃないか、些細なものに焦点を当てるわびさび的なやり方も良いよな、ということをずっと考えちゃってますね。

それとインスピレーションは写真作品から受けることは実は少なくて、写真ではない手法の作品、例えばペインティング(絵画)や彫刻とかの表現を見た時に「自分だったら写真でどんな風に表現しようか」と考えます。そして思いついたことはすぐメモして、作品のネタのストックは結構溜まっていくので、時間がある時にメモしたものからブラッシュアップして作品につなげていけるようにはしています。

Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)

—写真技術上達への道はひたすら撮り続けるということが1つだと思うんですけど、こういう風に撮ってみると面白い、みたいな“国吉さん流写真術”ってありますか?
僕が写真をやり始めた頃から意識しているのは、なるべく人と違う撮り方をすることですね。何気なく撮る時でもアングルを変えてみたり、撮りたい風景を見つけて人を配置したら良い感じになるなと思ったら、人が通りかかるまでとことん待ってみたり。夕陽や雨などの気候条件も、良いタイミングでその場所を訪れるとか。
最近はみんなスマホのカメラがるので、バンバン撮ればそれも作品にはなると思います。僕も実際にスマホで撮った写真を展示することもありますし。
機材が変わっても自分が撮った写真作品に変わりはないので。むしろスマホでしか撮れない写真っていうのもたくさんありますよ。こんなでっかいカメラ(取材時に持っていた一眼)は警戒されちゃいますからね(笑)

—スマホ写真だからこその可能性もあったり、インスタントカメラやデジカメが流行ったりもしてますよね。
そうですね。それに次の世代は本格的にAIも来るじゃないですか。
AI を使って自分の想像上の写真を作って、それも作品として出しちゃっていいんじゃないかなと僕は思ってます。
それも自分の作品にはなるので。そこにも面白い可能性が秘められていると思います。AIは過去データのアーカイブでしかないから、自分が撮ったものにAI で手を加えて新しく作るのはアリかもしれません。

—そんなテクノロジーの進化甚だしい中で、国吉さんの作品のオリジナリティや自分らしさというのは、ご自分でどんな風に自覚してますか?
例えば、最近作っている琉球石灰岩にプリントしたものは、平面でもデジタルでもない質量がある。しかも琉球石灰岩って何千年も前からの蓄積されたものじゃないですか。これはAIには作れない。
さらに未来に残せるものである。沖縄だと琉球石灰岩なんてその辺にいくらでもあるんですが、そういう身近なものを改めてフォーカスして作品に組み込むことで、その物の良さの再考察をするというか。よく見ると色んな化石があったり、クリスタル状の鉱物が混じってたりするんだけど、普段は気づいてないと思うんですよね。

あの素材は石材屋で買ってるんですけど、実はそのクリスタルが混じる部分とか、化石の部分っていうのはちょっと脆くなってしまうので、建材としては使えずに廃棄しちゃうらしいんですよ。だからそれをちょっと安く購入して使うという意味で、サスティナブル的な要素も密かに含んでます(笑)
普通の頑丈であまり特徴のない石版より、脆くても特徴のある石版の方が僕にとっては最高の価値があると思っているので。

目標はMoMAへの自作品展示!

Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)

—先ほど「アイデアのストックがたくさんある」と言っていましたが、今後はどんな作品を作っていきたいですか?
しばらくは沖縄とニューヨークを絡めて自分を表現する作品を色々と作っていくつもりです。写真をやり始めた頃の目標はマグナムフォトだったんですが、ニューヨークという街を知ってからは、MoMA(ニューヨーク近代美術館)に自分の作品を飾るのが今のところの目標であり夢になっています。

そのためには沖縄という自分のルーツは欠かせないし、ずっと住んでいるニューヨークも掛け合わせることで生じる新しいエネルギーを持つ作品を、MoMAにプレゼンテーションしに行きたいと思ってます。

—ニューヨークを拠点に活動していますが、沖縄への距離感ってどんな風に感じていますか
あんまり距離を感じたことはないかもしれない。もちろん物理的な距離はありますけどね。向こうでも一応ゴーヤーは売ってるし(笑)ポークもスパムもあるし…むしろ本国だし。こっちのスーパーで売ってる沖縄そばの出汁を持って行けば、ニューヨークでも沖縄そばも食べられますしね。あと、結構うちなーんちゅも多いんですよ。その人たちと会って沖縄訛りで喋るとほっこりして安心できる空気になります。

あと、ニューヨークってすごいエネルギーがある街なんですけど、僕は同じような感じを沖縄からもすごく感じるんですよね。
繁華街だけかもしれないですけど、平日でも常に賑わってるじゃないですか。昼から酒飲んでる人もいて(笑)そして沖縄にも色んな国の人が普通にいるじゃないですか。沖縄県外の人たちも含めて。そうやって人が集まってくる場所には、絶対エネルギーが生まれるので。その意味ではニューヨークと沖縄に通ずるところはすごくあると思います。人が集まれば必ず新しいものが出来ていくし、沖縄もすごく発展している。
以前まであったものがなくなって、新しいものができている部分もたくさんある。

ただ、本当は残してほしい古い建物とかもあったんですけどね。リノベーションして強度を保って、古さと新しさをもっと融合させるべきだったんじゃないかということは考えますけども。このままいくと古き良き沖縄の景観が無くなってしまうんじゃないか。
それがなくなったら、県外や海外の人たちが感じる沖縄の魅力も減っていっちゃうと思うんですよね。どこにでもある建物ばかりが並んでしまうと。だから残すべきところは残した方がいいと思うんですよね

Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)

目標を決めて、覚悟を持つ

Tokio Kuniyoshi 国吉歳木朗 (@tokiokuniyoshi)

—表現活動に取り組む若者たち、次世代の人たちに伝えたいことはありますか。
周りに流されず、Going My Wayで行けば、最初は大変かもしれないけど、後々どうにかなります。それを続けていくことは結構大変なんですけど。
もちろん金銭面とかのこともあるだろうし。ただ、それをクリアしていくために色んな発想が生まれたりするので、とりあえず何か目標を決めて、覚悟を持つということが大切だと思います。

—最後に、11/29〜12/7に東京で開催される個展「REAGION FREE Reloaded」はどんな展示になる予定ですか?
ベースは前回の沖縄でやった個展になってるんですが、半分以上は新作を持っていきます。なぜなら、前回の個展で結構売れてしまって、必然的に新作を出さなければいけない状態だからです(笑)ということで、新作盛りだくさんの展示になります。

今回は瑞穂酒造さんにも協賛していただいているので、会場では泡盛を提供したり、オリオンビールも置いたりしてお酒も飲めます…って最後も酒の話ですね(笑)今着ているTシャツ(写真参照)は琉球石灰岩の石版のテクスチャーも丸ごとプリントしたものですね。自分で歩きながら告知してます。立ち寄れる方はよろしくお願いします!

<Information>
Tokio Kuniyoshi個展 “REGION FREE: Reloaded”
会期:11/29 (Sat) – 12/7 (Sun)
時間:12:00 – 19:00(最終日のみ18:00まで)
※展示期間中は国吉さん在廊
※12/7(日) 15:00-18:00にクロージングパーティー
(酒提供あり、参加無料)

場所:CONTRAST (東京都渋谷区富ケ谷1丁目49−4)
@contrast_tokyo
https://contrast-tokyo.com

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