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生徒からの「”日本一になりたい!”という言葉で全てが変わった」コーチMARKが語る沖縄県立小禄高校のダンス部優勝までの軌跡
「日本一になりたい」その一言が、すべての始まりだった。
かつては大会の存在すら知らなかった小禄高校ダンス部。遊びの延長のようだった部活は、ある日を境に大きく動き出す。その転機の中心にいたのが、コーチのMARKさん。
週1回の指導から始まった関係は、生徒たちの本気に応える形で、いつしか“毎日”へと変わっていく。勝利の歓喜、全国の壁、悔しさ、そして再び芽生えた覚悟。
生徒たちが自ら掲げた「日本一」という目標は、チームの意識を、そしてMARKさん自身の人生までも変えていった。これは、指導者が作った物語ではない。生徒たちが、自分たちの手でつかみ取った、日本一への軌跡とは。
目次
生徒たちの「日本一になりたい!」という言葉が、すべてを変えた
―小禄高校ダンス部のコーチになったきっかけを教えてください。
MARKコーチ(以下:MARK): 今からちょうど10年前、僕が26歳の時ですね。当時インストラクターをしていたダンススタジオから、派遣という形で関わることになったのがきっかけです。色々なタイミングが重なって、僕に声がかかり、「ぜひやらせてください」とお受けしました。
―コーチに就任された当初は、どのような印象でしたか?
MARK: 僕はずっとストリートダンサーとしてやってきたので、正直、最初は「指導者がいないと、やはり基礎ができていない印象」と感じました。遊びの延長線上でやっているような印象で、やんちゃな子も多かったです。当時は週に1回レッスンに行く形でした。
―そこから、どのようにして強豪校へと成長していったのでしょうか。
MARK: ある年の部員たちに、「私たちが引退するまでに、大会で一つでもいいから賞を獲りたいです。MARKさん、振り付けを作ってくれませんか」と初めてお願いされたんです。それまでは大会があることすら知らない状態だったんですが、彼女たちの熱い気持ちに応えようと、初めて作品を作りました。そうしたら、その大会でいきなり優勝したんです。僕自身、週1回の指導ではクオリティを上げるのが難しく、「入賞は難しいだろうな」と思っていたので、電話がかかってきた時は本当に驚きました。信じられなかったですね(笑)。
―その優勝が大きな転機に?
MARK: はい。その優勝をきっかけに、後輩たちも「私たちも」と続くようになって、少しずつ大会で賞を獲れるようになりました。そして6年ほど前に、初めて全国大会に出場することができたんです。ただ、全国のレベルは高く、順位は下の方でした。でも、その全国大会で日本一が決まる瞬間を目の当たりにした子たちが、ものすごく刺激を受けたんです。翌年、その子たちが中心になった時、「沖縄では勝てるかもしれないけど、全国ではこれじゃまだまだだ」と、僕が言う前に自発的に考えるようになりました。
―部員たちの意識が変わっていったのですね。
MARK: そうなんです。そして3年程前の部員たちから「最近、小禄が強いと聞いて来ました」と言われた時は、本当に嬉しかったですね。その時、「本気で全国で賞を獲りに行こう」と僕自身も思うようになって。それまで週1回だったのを、ほぼ毎日、ボランティアで部活に来るようにしたんです。
―MARKさんご自身の関わり方も大きく変わったのですね。
MARK:そうですね。そして、その翌年、2022年の県大会で、大人数部門と少人数部門でアベック優勝を達成しました。これは沖縄県の高校ダンス部の歴史で初の快挙でした。ただ、全国大会では少人数チームが25位だったのに対し、大人数チームは49位と悔しい結果に終わってしまって。でも、この悔しさが彼女たちを大きく変えたんです。
―具体的にどのようなことがあったのですか?
MARK:49位だった大人数チームの子たちが、帰ってきてから僕に動画を送ってきたんです。みんなで、「MARKさん、来年私たちを日本一にさせてください」と。ついに「日本一」という言葉を、彼女たちが口にした瞬間でした。それも、結果が良かったチームではなく、悔しい思いをしたチームから出てきた言葉だったんです。そこからですね、すべてが変わったのは。みんなで「日本一になるダンス部」という目標を掲げ、ミーティングを重ねました。
インタビュー中にうれしいサプライズ!
―カギダンススタジアジアム2025での優勝も、その流れの中から生まれたのですね。
MARK: はい。実は、カギダンススタジアムは自主公演と時期が重なっていたので、エントリーを迷っていたんですが、周りのプッシュを受けてエントリーすることにしました。
と、あれこれ伺っている途中で、偶然にも練習を見に来ていた引退した3年生部員に遭遇した。
なんと彼女たちは、カギダンススタジアムで優勝した時の部長・國場双葉さんと、副部長・與座愛理さんだった。ということで、カギダンススタジアム優勝時の感想やMARKコーチが語る指導法やチームの雰囲気について、当時の中心メンバーだった彼女たちはどう感じていたのか。急遽、お話を伺った。(彼女たちに遭遇したのは、本当に偶然である)
―MARKさんの指導や接し方で、特に印象に残っていることはありますか?
與座愛理さん(以下:愛理さん):すごく意見を言いやすいです。MARKさんだけで決めるんじゃなくて、「これ、どんな風がいいと思う?」って、いつも私たち生徒に聞いてくれて。一緒に作っていく感じがすごくありました。
國場双葉さん(以下:双葉さん)MARKさんの中で答えが決まっている時と、本当にどっちでもいいと思っている時があるのが、私たちにもわかるんです(笑)。
MARK: 見抜かれてる(笑)。僕の中である程度「絶対この方がいい」という答えは出ているんです。でも、それを僕が言ってしまうと、みんなが考える機会を奪ってしまう。できるだけ「自分たちが作った」という実感を持ってもらうために、一度みんなに考えさせて、その答えに近づいてくれたら「それだ!」と。そうすれば、優勝できた時に「あそこのパートは私が提案したんだ」と、一人ひとりの自信に繋がりますから。
双葉さん: そのおかげで、学年ごとに作品を作る時も、自分たちで考える力がすごく身についたと思います。
MARK: この代は、先輩がいても「もっとこうしましょう」とどんどん意見を言う、本当に頼もしい代でしたね。
カギダンススタジアム優勝の瞬間
―カギダンススタジアムの決勝当日、特に印象に残っていることは何ですか?
愛理さん: 本番直前の、みんなの「絶対いける!」っていう空気感です。手応えしかなくて、あんな感覚は初めてでした。
双葉さん: 自信しかなかったです。「もう楽しすぎてやばい」みたいな。不安な子は一人もいなかったと思います。
MARK:あのときは、自分たちのパフォーマンスに全集中できた。それが、あの最高の雰囲気を作れた要因の一つだと思います。「ここまで来たら、勝ったら日本一だぞ!」ってみんなハイテンションで、すごい興奮状態でしたね。
―実際に優勝した瞬間はいかがでしたか?
愛理さん: もう、なんなら記憶があんまりないくらい(笑)。でも、点数が見えて、目の前にいる審査員の方々が喜んでくれているのが見えて…本当に夢の中にいるようでした。
MARK:合計点数が出て、僕たちの名前が1位のところに出た瞬間は、もう…今思い出しても鳥肌が立ちます。
双葉さん: MARKさんも泣いてましたよね(笑)。
MARK: 泣いたね(笑)。踊っている時からもう涙が止まらなくて。後ろを見れば顧問の先生も、応援に来てくれていたOGもみんな号泣。本当に、コーチを10年間続けてきて良かったと心から思えた瞬間でした。
双葉さん: あの時、ステージに降ってきた金色の紙吹雪、集めて家に持って帰って、いまでも家にあります。
―素敵な思い出になったんですね。お二人とも本当にありがとうございました。
僕が作っているんじゃない。生徒たちが、自分たちで作り上げている
―では、改めて、指導する上で、最も大切にしていることは何ですか?
MARK: 僕は、部員たちを怒らないようにしています。昔は怒っていた時期もあったんですが、やめていく子が増えてしまって。ダンスは楽しむことが原動力になる活動なので、厳しいだけでは良いパフォーマンスは生まれないと気づいたんです。怒った後に「最高の笑顔で」なんて、無理な話ですからね。
―先輩、後輩の上下関係はどのような感じですか?
MARK: 僕は「上下」ではなく、「中心」という言葉を使います。先輩は「上の人」ではなく、「チームの中心になる人」。みんな同じ人間として対等で、中心にいる人たちのエネルギーが波のように広がっていく、というイメージです。だから、何か問題が起きても、誰か一人を責めるのではなく、全員に責任があるという考え方を教えています。
―部員の皆さんと一緒に作品を作り上げる上で、意識していることはありますか?
MARK: できるだけ、僕がすべてを決めないようにしています。僕の中である程度の答えは出ていても、一度必ずみんなに「どうしたい?」と投げかける。そうすることで、彼女たちが「自分たちで考えた」という実感を持ってくれるからです。カギダンススタジアムで優勝した作品も、ほとんどがみんなのアイデアから生まれています。僕が作ったのではなく、彼女たちが自分たちの手で作り上げたんです。だからこそ、あんなに大きな自信と喜びに繋がったんだと思います。
―MARKさんにとって、小禄高校ダンス部を一言で表すと?
MARK: 「エナジー」ですね。僕の原動力であり、エネルギー源です。今では生活の中心がダンス部になっています。生徒たちから「優勝したい」という言葉が出てこなければ、僕は今も週に1回だけ教えに来る先生で終わっていたと思います。彼女たちの声に応えていくうちに、僕自身もここまで夢中になっていました。
―最後に、今後の展望をお聞かせください。
MARK: この部活動を通して、沖縄の高校生たちの可能性をもっと広げていきたいです。「沖縄からでも日本一を目指せるんだ」という希望のきっかけを作っていきたい。沖縄の子どもたちは、どうしてもトップレベルのエンターテインメントに触れる機会が少ない。だからこそ、僕たちがメディアやSNSを通して活躍する姿を見せることで、「私もあんな風になれるかも」と思ってもらえるような、そんな存在になれたら嬉しいです。沖縄全体が元気になるようなパフォーマンスを、これからも続けていきたいですね。
今回の取材を通して強く感じたのは、MARKコーチの考えが部員たちにしっかりと浸透しているということだ。部員たちはコーチの指導にただ従うのではなく、自分たちで考え、意見を出し合いながら作品を作り上げている。その信頼関係があるからこそ、厳しいアップや集中力を要する練習も笑顔で乗り越え、チーム全体のエネルギーとなっているのだろう。普段の練習に対する真剣な取り組みと、コーチと部員の深い信頼感こそが、日本一のパフォーマンスを生み出す原動力であることを実感した。
小禄高校ダンス部が沖縄から中継でダンスを披露する『新しいカギ!6時間超え生放送SP~日本一たのしい年越し!~グランドオープニング』はフジテレビ系列(※一部地域を除く)にて12月31日(水)夕方6時放送。
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