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“怒り”をぶつけるだけでは届かない「沖縄戦」と「基地建設」を見つめ直す。戦後80年開局以来、初の試み
2025年12月20日、21日の両日、那覇市の桜坂劇場で開催された「戦後80年 沖縄民放三局合同ドキュメンタリー上映会」。2日目最初のトークセッションでは、上映された2作品を手がけたディレクターが、スクリーンの前で「撮る側の迷い」や「伝え方の工夫」を語りました。司会は沖縄のお笑い芸人・小波津正光さん。登壇したのは、沖縄テレビ「むかしむかしこの島で」(2005年)を制作した山里孫存さんと、琉球朝日放送「裂かれる海 〜辺野古 動き出した基地建設〜」(2014年)を制作したうちの一人、島袋夏子さんです。
目次
「沖縄戦」と「基地建設」を見つめ直す
「むかしむかしこの島で」は、沖縄戦をめぐる過去の映像を“戦争体験者の証言を補足する挿し絵”で終わらせず、映像そのものが何を映しているのかをたどっていく作品です。山里さんは、これまで主流だった作り方とは逆に、映像の意味を解き明かす方向から番組を組み立てたと説明しました。
一方の「裂かれる海 〜辺野古 動き出した基地建設〜」は、名護市辺野古を巡る現場の積み重ねを土台に、基地問題が沖縄を、地域の暮らしをどう揺らすのかを映し出します。島袋さんは、強い言葉で“怒り”をぶつけるだけでは届かない場面があるとし、伝わり方を意識しながら表現を選んだと語りました。
「箱の中」からスクリーンへ 見ている人の顔が見える
セッションは「テレビで放送された作品を映画館で見る」体験の手触りから始まりました。
元沖縄テレビの山里さんは劇場での上映に特別な感慨を抱いたと言います。「僕は大学生のときに映画研究会だったので、映画から映像の世界に入っているんですけど。テレビの放送はやっぱり僕らの時代は『箱の中』というイメージ。自分が作った映像が電波に乗って、どこか知らないところでみんなが見ている感覚だった。劇場で皆さんがいる中で自分の作品を見るっていうのは、(箱に)閉じ込めた映像を『開放する』感覚があって、すごく新鮮でした」
琉球朝日放送の島袋さんも観客の反応を直接感じられる喜びを口にしました。「見ている方々の表情や反応を直に感じることができるので、すごく新鮮でした。伝わったかなとか、このシーンは分かりにくかったかなというのは作った後もずっと気になっているので。最後のシーンは、ご覧になった方がどんな反応を示すか気になって、会場の後ろの方に移動しました」
小波津さんは、放送後にSNSなどで反応を拾えても、見ているその場の熱量はなかなか掴めないと受け止め、劇場で共有する意味を言葉にしました。
山里さんの“人の気持ち”へのこだわり
小波津さんが「制作者2人の作家性の違い」を指摘すると、山里さんは自身の来歴をたどりながら答えました。「僕は元々バラエティー出身で、さまざまな番組を作ってきました。そのため、何を作るにしても、人の気持ちが動く演出にこだわってきました」
象徴的なのが、番組冒頭の沖縄戦当時の記録映像に映る人物を探し出して見せた場面です。最初は寡黙だった沖縄戦体験者が、映像に映る自分の姿を見た途端に言葉をあふれさせた。その体験が「もっと届けたい」「もっと見せたい」という原動力になり、取材に没頭していったと振り返りました。
「怒り」だけでは届かない 島袋さんが選んだ視点
一方で「国策や権力への思いが作品に見えた」という小波津さんの投げかけに対し、島袋さんは表現の強さがかえって相手を遠ざける場合があると語りました。怒りをそのまま前に出すと、「一部の人の不満」と片づけられてしまうことがある。だからこそ、地域の葛藤や社会の混沌を細かく見つめ直し、「分断」そのものの苦しさを伝えたかったと言います。
さらに話は、番組のラストシーンに込めた意図へ移ります。当初、番組のラストシーンには「これからも反対の声を上げていく」という趣旨の映像が使われていたと言います。しかし、辺野古新基地建設の埋め立て工事を承認した仲井眞弘多元知事の退任時の、沖縄県庁ホールで怒号と拍手が飛び交う様子を中二階から俯瞰で撮影された映像を見て、島袋さんは制作最終段階でその映像に差し替えたと説明しました。
「沖縄の人たちが分断されているというところだけを見せるのではなく、そういう状況に追い込まれている、ずっとそこに居続ける沖縄の人のことをもっと知ってほしいなと思って、映像を差し替えました」
映像アーカイブは大きな財産
終盤、小波津さんは「テレビはオールドメディアと言われがちだが、時間をかけて取材し、裏取りを重ねた映像には力がある」と語り、スクリーンで見た手応えを強調しました。
山里さんは「オールドメディア」の呼称を逆に歓迎していると言います。「オールド、上等だと思っています。YouTubeで動画を発信している人たちは60年前の映像は使えませんから。沖縄のメディアは沖縄に関しては世界一映像財産を持っていて、映像アーカイブの力はこれからもっと力を発揮すると思います」
島袋さんは、若い世代も映像作品が好きだとした上で、時代的な背景の知識がないと届きにくい作品を再構成することで、若い世代に届く可能性があると話しました。「見てもらう際に制作者と交流してもらうなど、テレビの仕事を育てていくことに関して、まだまだいろんなことができると思います」。そんな未来像を示して、セッションは締めくくられました。
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