エンタメ,スポーツ
年間30本の実況!沖縄のスポーツを“声”で描く仕事~植草アナに実況席の舞台裏を聞いた~
2026年2月8日にFC琉球ホームで開幕を迎えた百年構想リーグ。実況を務めたのは、沖縄テレビの植草凜アナウンサーです。
現在は、FC琉球のDAZN実況に加え、プロバスケットボールBリーグ・琉球ゴールデンキングスの中継(バスケットライブ)、そして、高校サッカーや県内の各種大会など、幅広い現場で実況を任されています。
県内のスポーツ中継に欠かせない存在となった植草アナですが、その原点は意外なものでした。
目次
”実況”が自分の軸になるまで
植草アナ:「実況をやりたいという気持ちは、最初はなかったです。本当に(笑)」
もともとスポーツに特別な興味があったわけではなかったという植草アナ。転機となったのは入社2年目、アナウンサーになって初めて任された、県内の小学生ミニバスケットボール大会の実況でした。
植草アナ:「本当に何も分からなかったので、まず選手を覚えるところから始めました。ノートに背番号を書いて、次のページに名前や情報を書いて。暗記カードのように、自宅でひたすら頭に叩き込んでいました」
右も左も分からない中での手探りの日々。地道な積み重ねでした。初めて担当した実況は、フジテレビ系列の新人アナウンサー部門で奨励賞を受賞。その経験が、植草アナに小さな変化をもたらしたといいます。
植草アナ:「賞をいただけて、“実況、ちょっと楽しいかも”と思いました」
それでも今もなお、「実況が一番好きかと聞かれると、正直分からない」と語る一方で・・・
植草アナ:「アナウンサーの仕事はいろいろありますが、“これはできます”と一番自信を持って言えるのが実況かなと思います」
任された仕事に誠実に向き合い続けた結果、実況が自分の軸になった。植草アナのお話を聞いてそのような印象を受けました。
現在、植草アナは年間30本近い実況を担当しています。プロスポーツの実況を本格的に始めた琉球ゴールデンキングスの中継以降、その数は一気に増えたそう。
植草アナ:「年間を通して2週間に1回のペースで実況をしている計算になります。この頻度で実況を任せてもらえるのは、なかなかないこと」
実況席に入るまでの事前の準備もまた、想像を超えるものでした。試合が近づくと自ら練習場に出向かい、選手を取材し、チームの雰囲気を感じ取る。そして、それらをもとに実況資料を作成する。
見せてもらった資料には、選手の特徴や直近のプレー内容が細かく書き込まれていました。その姿勢は、もはや一人の会社員という枠を超えた、プロの職人そのもの!実況の裏側には、人知れぬ膨大な準備があったのです。
実況席ってどんなところ? プロの現場で垣間見えた阿吽の呼吸
2026年2月8日のFC琉球ホーム開幕戦。試合開始前に実況席にお邪魔させていただきました。
この日、解説を務めたのは、これまで植草アナと何度もタッグを組んできた元FC琉球の上里一将さんです。
実況席にはピッチを一望できる大きな窓と、オンエア映像を確認するモニターが設置されています。
―試合中、肉眼で見るのか、モニターを見るのか、どちらが多いですか?
上里さん:「基本的にモニターは見ないですよ。モニターだとキーパーの位置やディフェンスラインが見えないので・・・。前線の選手が裏へ抜ける予備動作や、動き出しのタイミングを正確に捉えるためには、やはり肉眼で全体を俯瞰することが欠かせません」
植草アナ:「私も基本は肉眼です。寄りの映像を確認したいときなど、補助的にモニターを使うことはありますが、戦況を追うのは自分の目ですね」
――てっきりモニターの寄り映像を見ながら話しているものだと思っていました。
上里さん:「実況者が試合の状況を丁寧に説明してくれる中で、僕ができるのは『選手目線』で何が起きているかを補足すること。自分も実際にピッチでプレーしているような感覚で話すことを心掛けています」
――本番中、緊張しますか?
上里さん:「僕は全然しません(笑)。隣にプロの実況者がいてくれる安心感は絶大ですよ。一人だったら絶対に無理ですね。ついサッカーに見入って無言の時間が生まれてしまうかもしれない。緊張するのは実況のほうじゃない?」
植草アナ:「今でこそ緊張しなくなったけど、最初の頃はガチガチで。きっと、試合に挑む選手たちと同じような心境だったと思います(笑)。上里さんとは何度もコンビを組ませていただいているので、今ではとてもリラックスして臨めています」
上里さん:「関係性はバッチリ築けているよね。『あ、このタイミングで一言添えてみようかな』というのが、呼吸で分かるようになってきました」
植草アナ:「それは本当に感じます! 上里さんの解説を隣で聞きながら、『へぇ〜!』と驚かされることも多くて。実況しながら、私自身もリアルタイムで戦術を学ばせていただいている感覚なんです」
試合開始直前まで、雑談や情報交換を行い、とても和やかな雰囲気で本番を待っているというお二人。とても良い関係性が築かれていることが伝わってきました。
J3リーグでは、DAZNの中継で解説がない環境ですが、やはり、解説者がいるほうが圧倒的にやりやすいと植草アナは話しています。
植草アナ:「例えばバスケットボールはずっとボールが動いていますが、サッカーはデッドボールなどで間が空くことがあります。一人だとどうしても話の内容が簡素になってしまうことがありますが、解説がいることで直前のプレーを振り返ったり、より詳しい説明ができたりします。戦術の部分は、やはりプロの視点でないと話せないことも多いので」
植草アナと上里さんの実況と解説を、もっと聞きたい――。
琉球がJ2へ昇格し、DAZNで解説付きの中継が増えることを期待したいところです!
“生”の世界で心掛けていること
PK戦までもつれ込むしびれる展開となった開幕戦。そのとき実況席はどのような雰囲気だったのか聞きました。
――琉球の5人目、上野選手のゴールが決まった劇的な幕切れ。あの瞬間の実況席は?
植草アナ:「実況は中立・公平が鉄則ですが、勝敗が決した瞬間だけは、勝利した側の喜びを最大限に増幅させるよう、意識的に声を張りました。試合終了後、選手たちがそれぞれのサポーターに挨拶に行く場面では、中継カメラが映しているチームの素晴らしいプレーを称える言葉を尽くします。どのチーム、どの選手に対しても敬意を持って平等に接すること。それは実況者として絶対に譲れない一線です」
「とにかく聞きやすい実況」を目指し、飽くなき試行錯誤を続ける植草アナウンサー。
地道な準備と解説者との深い信頼関係に裏打ちされたその「声」が、これからも沖縄のスポーツ界を熱く盛り上げてくれるに違いありません!
記者ヒトコトメモ
実況資料を拝見したとき、その情報量の多さに、「本当に一人で全部つくっているのか」と驚いてしまいました。
植草アナの凜とした実況の裏には、想像を超える努力が詰まっています。これから中継などで試合観戦するときには、実況席というもう一つのピッチで戦う植草アナの声にもぜひ注目(傾聴?)してみてください!
記事執筆:山城志穂(沖縄テレビ報道部記者)
あわせて読みたい記事



