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「食べたい魚がどこでも作れる世界へ」沖縄発・陸上養殖スタートアップの挑戦
沖縄で日々生まれる新しいビジネスと、挑戦を続ける企業の“いま”に迫る経済トーク番組『OKINAWA BUSINESS FRONTLINE』(沖縄テレビにて毎週日曜午前11時20分放送)。
養殖スタートアップ・株式会社ストラウトの代表取締役社長、平林馨さんが登場。
「食べたい魚がどこでも作れる世界へ」——
そんな大きなビジョンを掲げる平林さんとは、いったいどんな人物なのか。
目次
70年続く養殖場の三代目が、なぜ沖縄へ
平林さんのルーツは、静岡県富士宮市にある「柴崎養鱒場」だ。
戦前から続く養殖場で、一族は「日本の食料事情・食料の供給に貢献していく」という使命を受け継いできた。
二十歳のときにこの養殖場を継ぐことを決めた平林さんは、食品商社やコンサルティング会社で営業・事業再生を学んだ後、29歳で三代目として家業に入る。
しかしそこで気づいたのが、気候変動という現実だった。
「今後どんどん水が温かくなっていくだろうと思った瞬間に、海水魚も含めて他に作れる魚を増やしていかないと、日本の、世界の食料の安定供給に貢献できないんじゃないかと」
その気づきが、沖縄進出へとつながった。
温暖な海水環境で養殖技術を磨けば、将来的には東南アジアなどさらに温かい地域にも展開できると見据えてのことだという。
「5年に1回は事故が起きる」業界に、AIとIoTで挑む
養殖場では、魚の病気の蔓延や異常気象による被害が5年に1回ほどの頻度で起きてきた。
経験と勘に頼った現場管理では、その不確実性を取り除けない。
平林さんはそこに、二つのAI技術を導入することで対抗しようとしている。
ひとつは、水温や溶存酸素量の変化を先読みする「時系列予測システム」。
もうひとつは、LLM(大規模言語モデル)を活用したAIチャットボットだ。
日々の作業日誌や水質データを組み合わせることで、「入ったばかりの人でもプロ並みの判断ができる」環境を目指している。
さらに、OIST(沖縄科学技術大学院大学)と連携し、環境DNAを活用した疾病早期発見するシステムの開発も進めている。
コップ一杯の水の中に含まれる環境DNAを調べることで、病気があるかどうか、脱皮する瞬間かどうかまでモニタリングできるという。
沖縄から海外へ、養殖の可能性を広げる
沖縄本島や久米島、宮古島などでの養殖展開を目指すストラウト。
久米島の海洋深層水を使ったサーモン養殖のほか、熱帯性の魚であるバラマンディー、そしてマングローブガニの生産も視野に入れている。
すでに静岡・清水の陸上養殖施設では、カワハギを年間3万〜5万尾生産しており、大手寿司チェーンへの供給も実現している。
「東日本最大の生産者」を自負するその実績が、沖縄・海外展開の土台になっている。
海外では、ブータンでの淡水ニジマス養殖プロジェクトや、インドネシアでの養殖事業も視野に入れている。
エビ養殖が限界を迎えつつある東南アジアで、新たなタンパク源を提供する役割を担いたいという。
「ゆっくり早く」——スタートアップが地域と向き合う作法
沖縄に進出した起業家が、地元の漁協や漁師とどう関係を築くのか?
その問いに、平林さんは自身の経験をもとに率直に語った。
コンサル時代、漁協に入った当初は「君の言ってることの二割も分からない」と言われたという。
そこでたどり着いたのが「ゆっくり早く」という考え方だ。
地域には地域のペースがある。一方で、スタートアップはスピードも求められる。
だからこそ、複数の流れを同時にゆっくり育て、結果として大きな成果につなげる。
この哲学は、沖縄でも、インドネシアでも変わらないと平林さんは言う。
「残念ながら、訪れると思っています」——養殖の時代を予言する
「残念ながら、養殖物しかない世界が来ると思っています」
天然魚の減少が進む中で、養殖物が食卓の主役になる未来は避けられないかもしれない。
しかし平林さんが目指すのは、「仕方なく選ぶ養殖」ではなく、「おいしいから選ぶ養殖」だ。
実際に、養殖カワハギは寿司チェーンで高評価を獲得し、ブリも脂のりや扱いやすさで支持されている。
「魚がストレスなく育った環境では、ブドウ糖の含有量が全然違う」と平林さんは話す。
食料安全保障という使命
「日本は資源がない国。だからこそ、食料を持続的に確保していく手段をちゃんと抑えておくことが必要。
食料安全保障がしっかり確保されることで、平和が訪れてくると思っている」
戦前から一族が刻んできた「食料の供給に貢献する」という使命を、今度は世界規模で実現しようとしている——それがストラウトという会社の正体だ。
平林さんの詳しい話は、番組『OKINAWA BUSINESS FRONTLINE』で。
毎週土曜 あさ11:20~11:45 沖縄テレビにて放送中
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