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新里 一樹

新里 一樹

機能性食材の宝庫沖縄。ブランド力強化の取組み

新里一樹 Me We OKINAWA

前回のコラム記事にも書いたが、いま沖縄は「稼ぐ力」をキーワードに掲げている。「稼ぐ力」は沖縄県内のみならず、日本全体として重要なテーマとなっている。今回は「稼ぐ力」をどのように高めていくか、私なりの考えを書くが、答えはひとつではない。この記事を読んでいただきながら、皆さんの考えも整理していただけると良いと思う。

目次

日本の「食」に勝機アリ?

稼ぐ力を高めるための課題のひとつとして、いかに成長分野を見極めて、そこへ投資していくかの議論が必要だ。少子高齢化と人口減少が同時進行する日本においては、今後、人材確保が困難になる可能性は高く、また、財政的にもこれらの影響によって国や企業が行う研究開発資金の規模は限定されると考えられる。そのため総花的に多分野へ投資するのではなく、やはりある程度、分野の選択と集中が必要ではないかというのが私の意見だ。

ではどの分野が成長分野かと問われれば、もちろん現時点では複数の候補があるだろう。観光産業、IT産業、宇宙産業と挙げればキリがないが、そのひとつとしてたとえば、「食」分野に活路を見出せるのではないかと私は考えている。日本は四方を海に囲まれた島国であり、年間を通して水が豊かで、四季折々の旬の野菜、果物、食肉、海産物が、高い鮮度で提供できる特別な地域である。

イチゴ栽培のスタートアップ企業が出現。日本品種ルーツのイチゴがアメリカ・ニューヨークで1粒6~7ドルの高値で取引される。

加えて、食品製造業が盛んである点、伝統的な調理方法や、発酵などの特有の加工(保存)方法、食べ方などもバラエティに富んでおり、海外からの観光客が日本に食を求めてやってくるというのも容易にうなずける。以前、私はJETRO(日本貿易振興機構)北米駐在員に話を伺った際、日本の野菜、海産物、果物、食肉は北米産のそれと比較して段違いにおいしいと話していたのも記憶に新しい。

「食分野」で際立つ沖縄の存在

ここで沖縄に視点を戻す。やはりキーワードは「食」ではないかと考える。日本食が世界に発信可能なコンテンツであるならば、沖縄の食は、その日本でも異色であり際立つ存在であることはいうまでもない。

沖縄には多くの機能性豊富な食材がある。沖縄は陸地が海と近いために、植物は潮風に耐える必要がある。加えて、強烈な日差しからも身を守らなければならず、沖縄の植物は抗酸化物質を含むさまざまな薬理活性が発現されるという。

さらに、沖縄には”古代サンゴ”が風化してできた土壌があり、ミネラル分を多く含んでいるが、さらに時折接近する台風によって海洋のミネラルが常に土壌に供給される環境にある。

機能性豊富な食材が多い沖縄は健康食品業界誌で特集が組まれるほど注目が高い。気候、島しょ県、歴史的背景によりもたらされた。

ある研究によると、ミネラル分を多く含む沖縄の土壌で育ったゴーヤーは、沖縄県以外のほかの地域で育てたゴーヤーよりもミネラル分が豊富に含有されていたという報告もあるようだ。

これに加えて、沖縄には代々伝わる特有の調理方法もある。沖縄の伝統的な調理方法は原則として加熱調理であり、生食は少ない。日本本土と同じく豚、魚介や昆布を中心としてダシを取る。豚肉と昆布、島野菜と島豆腐などの取り合わせによって味も栄養バランスも優れた料理が多い。また、これら食材を煮込んで栄養分を侵出させるシンジムン(煎じ物)と呼ばれる滋養食は、病気予防や回復期に食されるなど、「医食同源」という考えに基づいて工夫がなされているのも沖縄の調理方法の特徴である。

沖縄の機能性食材の課題

さて、沖縄の機能性食材の代表格と言えば、シークヮーサー、ウコン、モズク、ゴーヤー等があるが、その裏で、まだまだ多くのポテンシャルの高い食材が存在している。沖縄県では戦前から導入され、伝統的に食されてきた地域固有の野菜を「島野菜」として、28品目がラインナップされている。そこにはフーチバー、ニガナ、フーローマメ、青パパイヤ、ンスナバー、山芋などが含まれる。

沖縄島野菜は28品目ある。京野菜は既にブランドを確立。京野菜を先行事例に島野菜もブランド力を向上させ高付加価値化したい。

ところが、せっかくこのように伝統的に食されてきた地域固有の野菜として「島野菜」を指定しているにもかかわらず、沖縄県内でもあまり知られていないのが現状である。

この島野菜について有識者に話をうかがう機会があったのだが、島野菜として28品目全体どころか、一つひとつのブランディングや産地指定などもまだ行き届いておらず、課題は多いという印象を受けた。

これを解決する糸口はどこにあるのか。

「食」というキーワードで引きの強い地域に北海道がある。なぜ北海道の物産展が毎回盛況で、北海道の食の人気が根強いのか。その分野に詳しい業界誌の記者に質問したところ、「もちろん要因は複数あるとは思うが」と前置きしたうえで、「常に新しい食品素材が提案されてくるのが北海道という印象がある。そして食材自体の目新しさはなくとも商品をリブランディングしたり、違った切り口で提案してくるのもまた人気が継続している秘密ではないか」と答えてくれた。

この記者の見解に従うと、北海道の「食」分野の取組みは、常にイノベーションを起こして発展しているという見方ができる。ここでいうイノベーションは、「フードテック」のような新たなテクノロジーを伴うイメージではない。北海道の例のように、地域で生産される食材を活用した新しい商品、新しい食べ方の提案、新しいストーリーの構築やリブランディング等も含まれる。

もうひとつ参考にしたい事例をあげる。日本特有の飲み物と言えば抹茶があるが、いま北米を中心に抹茶ムーブメントが起こっている。抹茶はいまや「Matcha」と訳され、サステナブルエナジードリンクとして海外セレブやアスリートも愛飲しているという。抹茶にはカフェインが多く含まれており、紛れもなくエナジードリンクなのだが、コーヒーと違うのはテアニンを含むため、カフェインが緩やかに吸収される点である。そのため、急激な覚醒作用は起こらず、緩やかなリラックス効果が持続するという特徴を持っている。

我が家の抹茶マシーン。抹茶リーフをセット後、ひき立ての抹茶を自動で楽しめる。夏はアイスで冬はホットラテなどを味わう。

これまで抹茶があまり身近な存在でなかった理由のひとつに、抹茶を点(た)てるという行為の敷居の高さが考えられる。そんななか、気軽に自宅で抹茶が飲めるよう抹茶マシーンを開発し販売しているスタートアップ企業が出現してきており、今後、抹茶はもっと身近な飲み物となってくるだろう。このように、昔からある食品であっても、その提案の仕方や提供方法を変えることで、新たなブランドとしての展開が可能である、ということを教えてくれる好事例に映る。

ブランド力向上を推進「ウェルネスオキナワジャパン」

上記2つの事例は沖縄の食を日本や世界に発信していくためにも参考になりそうだ。そんななか、沖縄の食品のブランド力向上を推進しようと4年前に立ち上がったのが、「ウェルネスオキナワジャパン」(以下、「WOJ」という)である。WOJは機能性、情緒性、安全性の3つの基準をクリアした食品を認証を与える制度で、これよってブランド力の向上が図られている。このWOJは厳正なる審査のもと、良品に対して与えられる一般認証と、さらにより秀でた個性を持つ逸品に対して与えられるプレミアム認証の二段階からなる。

このWOJの認証制度が優れているのは、単に機能性(=効果、効能)の有無だけが審査対象となるのではなく、上記記載のとおり、情緒性と安全性まで含めた高い審査基準を設けている点である。つまり、機能性のみでは消費者に対する訴求力があるとは言い難いため、デザインやストーリー性、おいしさといった情緒的な価値、そして何より安全性まで兼ね備えることが、消費者ニーズの観点から高い訴求力を持つという視点に基づいているのである。商品開発がプロダクトアウトになってしまう点を、消費者視点で審査することでマーケットインに変え、”選ばれる商品”あるいは”競争力の高い商品”として沖縄から発信していくという強い意図が感じられる認証制度である。

現在まで延べ28商品が認定。厳しい審査基準をクリアした逸品が揃う。WOJマークの商品を見つけたら手に取ってほしい。

前述のとおり、沖縄食材の機能性はポテンシャルが高い。一方で、情緒性の構築が課題となっているとも感じる。ミネラル豊富な土壌で栽培されたという事実も、医食同源という考え方や、琉球王国時代の経済環境や地理的な要因等もすべて情緒的な価値に変換することができ、他地域にはないオリジナリティのあるものである。これは最大限にアピールするべきだが、ややもすると、沖縄から提案するすべての商品がこれに収斂してしまい、ステレオタイプのようなストーリーになってしまう可能性もある。

ここにイノベーションの余地があるのではないか。たとえば、前述した「島野菜」のブランディングを考える時、伝統野菜という堅苦しさや、島野菜を活用した健康食品に根付く固定的なイメージや客層を、どう新しさに変えて提案、開拓していくかの工夫も必要だ。

イノベーションを加速させるには、島野菜を活用していくための柔軟な発想やアイディアを持った若い人材が異分野からどんどん参入してくる必要があるし、その若い人たちがもっと胸を張って取り組めるように産業イメージや待遇面も変えていかないといけないだろう。

最近のバタフライピーを産業化する動きや、「食」分野ではないが、沖縄の食材を活用した首里石鹸などは沖縄らしさを感じさせつつ、見せ方を含め、新しい層にファンを創る取組みが斬新であり、まさにイノベーションの良いお手本だと思う。

今後の展望と期待

日本経済が停滞している間に経済発展を遂げてきたアジア諸国では、引き換えに糖尿病疾患リスクが急速に高まっていると言われている。このような背景もあり、日本は高齢化社会対策のお手本として世界から視線が注がれている。医食同源の考え方と共に、沖縄の機能性食材はアジア諸国から光り輝くモノとして再度注目を集める時が必ずやってくる。また、沖縄県がリーディング産業のひとつとして掲げている観光と食とは極めて相性が良く、切り離して考えることはできない。これに備えて、若い人材のアイディアや柔軟性を取り入れ、島野菜やそのほかの機能性食材を含む沖縄の「食」分野に、新たなイノベーションを起こすことが「稼ぐ力」になっていく、というのが私の考えである。

こういう背景や想うところもあり、数年前から沖縄の在来ヤマイモの産業化に向けて取り組んでいる。ヤマイモという、何とも地味な食材を私を含む5人の若者と農家が連携し、産業化を目指していく取組みについては、次回のコラムで紹介していく。

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