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OTV報道部

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リリースから30年を迎えた名曲「島唄」に秘めた宮沢和史さんの葛藤と沖縄【OKINAWA SONG BOOK~沖縄歌集~『島唄・宮沢和史 編』 】

沖縄ソングブック_沖縄歌集

沖縄県内のみならず、日本全国で愛される沖縄の歌(ウチナーソング)。 名曲が誕生する背景には、その時々の世相が密接に関係しているといいます。
この企画では、誰もが知っている【一曲の沖縄の歌(ウチナーソング)】をテーマに、歌詞に込められた思いや制作秘話などを紹介しています。

本土復帰から50年を迎えた沖縄。日本の主権に戻った沖縄県民のメンタリティは、その激動の時代のうねりとともに苦難とともに大きく変化してきました。その中でも「平成の沖縄ブーム」は、県民にとって“ウチナーンチュ”としてのアイデンティティを、前向きに受け止めさせてくれる大きな原動力だったのではないでしょうか。その平成の沖縄ブームの起爆剤となった歌が、THE BOOMの「島唄」でした。

今もカバー曲の定番として広く愛される名曲「島唄」ですが、あらためて街でこの曲の印象を聞くと…

・歌詞がわからないけど歌はわかる。小学校の時に戦争のビデオで流れていた気がする(20代女性)
・よくカラオケで歌っていたんじゃないかな。みんなで歌ったのを覚えている。(60代男性)
・明日も頑張ろうかって気持ちがこういう歌を聞くと出てくる(70代男性)
・沖縄の人としてはありがたい気持ち。沖縄を有名にしてくれた。沖縄の誇り。(40代男性)

1990年代・平成の沖縄ブームの火付け役となった歌の誕生

THE BOOMは1987年に結成。デビュー当時は、代表曲「星のラブレター」をはじめとした、スカやロックを織り込んだ、ミクスチャーと称される楽曲で人気を集めていました。そして1992年12月、THE BOOMの「島唄」が沖縄限定シングルとしてリリースされました。CM楽曲に起用されるなど沖縄県民の中で大きな話題となり、沖縄だけで1万枚を超える記録的ヒットとなりました。

「島唄」が世に出された1992年以降、沖縄の音楽を取り巻く環境も変わってきました。現在は沖縄県立芸大で教鞭を執るなど、なおも沖縄音楽と向き合い続ける、元THE BOOMのボーカル・宮沢和史さんにお話しを聞きました。

沖縄ではあまり知られていませんが、実はこの「島唄」は、沖縄限定シングルが発売されるより前に、すでにアルバム収録曲として世に出ていたものだったのです。1992年1月、THE BOOMとして4枚目のアルバム「思春期」に、「島唄」は収録されていました。

Q.「島唄」を最初に世に送り出したアルバム「思春期」とはどんなアルバムだっだのでしょうか――

宮沢和史さん
「この『島唄』が世に出たのは、30年前の1月に、アルバムの1曲として出たのが最初なんですね。当時私たちの音楽はガラッとヘビーな音楽になりましてね。そんなアルバムの中に『島唄』も入っていて。周りの仲間のバンドからも言われましたね。“なんだこれは”、“独りよがりじゃないか”とか散々言われましたね。でもだから僕はこのアルバムに『思春期』ってタイトルを付けたんです。俺はここから変わるんだと。僕はまだまだ物を知らないし、もっと知ってかなきゃいけない。知ってかなきゃいけないっていうのは、沖縄が教えてくれましたから。」

アルバム「思春期」の楽曲は、スカやロックとしてもただ明るいイメージの音楽にならず、時に重たくにも描かれたメロディや、ユーモアとともに皮肉を込めた歌詞など、宮沢さんの葛藤から生まれた作品たちが収録されています。その中の一曲である「島唄」、宮沢さんを制作に駆り立てたものとはなんだったのでしょうか。
「思春期」以前、作品のジャケット撮影で沖縄を初めて訪れた宮沢さんは、そのときの沖縄の記憶をこう話します。

宮沢和史さん
「どこに行っても戦争を感じる場所でした。僕からしたら遠い昔の白黒の世界、モノクロームの世界だけど、だけどそうじゃなくて、一歩、いや半歩踏み込んでいくだけで、まだまだ戦争の跡が残っている。戦争の香りが残っている。結構衝撃的でしたね。」

宮沢さんの沖縄を知る旅は、戦争の悲惨さと、沖縄に残る生々しい傷跡を目の当たりにするものとなりました。

宮沢和史さん
「沖縄の人たちが、沖縄を砦として、20万の命と引き換えにしてきた戦。私たちが、沖縄戦の事を知らずにのうのうと育って大人になってきたこと、何不自由なく育ってきたことが、そのときになんだかとても後ろめたいような、恥ずかしいような気持ちになってきまして。だからこそ自分が感じた怒り恥ずかしさそういうものを、誰かにもっと届けたいっていう思いで作ったのが『島唄』でしたね。」

「島唄」のリリースの裏で抱え続けていた葛藤

しかし、一方で、県内の民謡界からは手厳しい言葉もあったと言います。沖縄民謡の重鎮で、音楽プロデューサーの知名定男さんは、宮沢さんと深い親交があり、今では「親子のようなもの」と互いに認め合う仲ですが、「島唄」発表当時、実はあまり良い印象を抱いていなかったと話します。

知名定男さん
「あの「島唄」が出た時期は…、ちょっとむかつきましたよね。“島唄”というのは民謡の総称でしょ。言ってみれば。」

知名定男さん
「ところが『島唄』に込められた思いというのがね、だんだんわかっていく内に、ほだされていくみたいなね。なかなか沖縄の悲惨な歴史を歌にするって、なかなか難しいんですよね。それを彼は彼らしい言葉で “におい”を含ませた感じで表現しているところがね。」

宮沢さんは、自身が感じた沖縄を描いた「島唄」が話題となる一方、そのハレーションの中で葛藤を抱えていました。

宮沢和史さん
「僕はもしかしてタブーを犯しているんじゃないかと思ったんですよね。『島唄』作った時点でね。発表してもいいのかなって悶々としていたんですけど、たまたまその頃、喜納昌吉さんと出会いまして。“実は今こういう歌を作っています。どう思いますか”と聞いたんですよね。そうして曲を聞かせたら、“良い”と。“これ良いよ”と。そうして昌吉さんが言ったのは“魂さえもちゃんとコピーできてたら、真似じゃない。これは沖縄の心を掴んでるからどんどん伝えなさい”って言ってくれたんですよ。」

沖縄で感じた思いを表現した「島唄」への予想外の反応。しかしその反応を覆したのは、宮沢さんが歌に秘めた「沖縄」の心でした。幾重にも言葉を重ね表現された歌詞に込められていたのは、戦争の悲惨さと平和への希望でした。

宮沢和史さん
「時代はバブルでしたから、そういう戦争反対であるとか、レクイエムであるとか、沖縄戦を知って欲しいとかってメッセージってやっぱり届きにくい時代でしたから。ラブソングっていう形にして、表向きは男女の出会いと別れみたいな話なんですけど、その裏に1行1行違うメッセージを込めて歌っていこうと仕掛けを入れた形です。」

でいごの花が咲き 風を呼び嵐が来た
でいごが咲き乱れ 風を呼び嵐が来た
くり返す悲しみは 島渡る波のよう
ウージの森で あなたと出会い
ウージの下で 千代にさよなら
―「島唄」 歌詞より抜粋―

宮沢和史さん
「この『島唄』の最初の“デイゴの花が咲き風を呼び嵐が来た”という歌詞があります。あれは読谷村の風景からスタートするんですけれども。デイゴはたくさん咲くと、その年の嵐が多いっていう言い伝えをちょうどその頃知ったもんですから。もしかしたらあの1945年の4月はデイゴがたくさん咲いたから、艦砲射撃…、『鉄の暴風』と言われますよね。『鉄の暴風』っていう嵐が来たのかな…と、そういう所から「島唄」を書いていったんですね。」

知名定男さん
「彼は過去を生きた皆様の悲しい言葉を聞いて、歌をやらずにおられなかったんだと言うね。そういう意味ではこれは特に戦後ご苦労なさった人たちに対する、鎮魂歌なのかなと。そういう風に感じますね。」

「島唄」に込められた沖縄戦と鎮魂の思い。そのメッセージは、三線の音色と、琉球音階の響きとともに、沖縄のみならず、全国、世界各地に届けられています。

宮沢和史さん
「もうすでにTHE BOOMってバンドを知らない人が多いですしね。そのうち“宮沢”って名前も知らない。それでいいと思っているんですね。「島唄」って曲がどこかできっと残るだろうし、“誰が作ったかわからないけど、この歌を歌えるよ”なんて言う風になったら、僕は本望です。」

葛藤を経て、宮沢さんは今なお沖縄に対する思いを向け続けています。現在は沖縄民謡を残すプロジェクトを手掛け、各地の民謡をアーカイブするプロジェクト「唄方プロジェクト」に取り組んでいます。また三線の棹に使われる「クルチ」の木を植える「くるちの森100年プロジェクト」にも取り組むなど、沖縄民謡が100年後にも残るために、多角的な活動を展開しています。

でいごの花が咲き風を呼び嵐が来た
でいごが咲き乱れ風を呼び嵐が来た
くり返す悲しみは島渡る波のよう
ウージの森であなたと出会い
ウージの下で千代にさよなら

島唄よ風に乗り鳥とともに海を渡れ
島唄よ風に乗り届けておくれ私の涙

でいごの花も散りさざ波がゆれるだけ
ささやかな幸せはうたかたの波の花
ウージの森で歌った友よ
ウージの下で八千代の別れ

島唄よ風に乗り鳥とともに海を渡れ
島唄よ風に乗り届けておくれ私の愛を

海よ宇宙よ神よいのちよこのまま永遠に夕凪を

島唄よ風に乗り鳥とともに海を渡れ
島唄よ風に乗り届けておくれ私の涙

島唄よ風に乗り鳥とともに海を渡れ
島唄よ風に乗り届けておくれ私の愛を

THE BOOM/島唄(1992)
歌:THE BOOM/作詞・作曲:宮沢和史

関連イベント

Presented by NTT西日本 OKINAWA SONG BOOK-本土復帰50年特別企画-

2022年9月24日(土) 開場16:00 開演17:00

出演:BEGIN、夏川りみ、宮沢和史、HY他

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