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新里 一樹

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沖縄の新たな特産品へ「オキナワクラフトジン」の魅力

新里一樹 Me We OKINAWA

沖縄県の特産品は、国内では一定のブランドイメージがあり、他地域より人気面で抜きんでている。しかし、同じく人気の高い北海道と比較すると、新しい商品や、新しいブランドの提案が沖縄県は弱く、昔からある定番品の根強い人気に支えられているという状況もあるようだ。そんななか、数年前から私が大注目しているプロダクトがある。それが沖縄県の泡盛酒造所が製造する「オキナワクラフトジン」だ。上手く行けば国内はもとより世界に発信できる特産品になるのではと期待をしている。そんなオキナワクラフトジンの魅力を紹介したい。

目次

クラフトジンとは?その起源について

まず、クラフトジンとは何か?という部分から紹介したい。

「ジン」と聞くと30代~40代の読者は、ディスコやCLUBで飲んだ安いお酒というイメージがないだろうか。私もその一人だった。

そもそもジンはスピリッツ、つまり蒸留酒に分類される。蒸留酒とは米、芋、麦などを発酵させて、その後、蒸留することでアルコール分を濃縮し完成させる酒をさす。沖縄の伝統的な酒、泡盛や、焼酎、ウィスキーも蒸留酒である。(※ただし、日本の酒税法上の分類では蒸留酒とスピリッツは区分されている)

世界には4大スピリッツとして数えられるものがあり、ウォッカ、テキーラ、ラム、そしてジンである。このなかでジンは、穀物類から製造した蒸留酒に薬草の一つである”ジュニパーベリー”を浸して特有の香りや味付けを行うのを特徴としている。実は、ジンはもともと薬用酒としてヨーロッパで開発されたものなのである。

ジンがユニークなのは、農作物由来の蒸留酒アルコール度数37.5度以上で、かつジュニパーベリーの香りを主軸としていれば、薬草・香草類(=ボタニカル)を自由に組み合わせていくことが可能な点である。それ故、世界中のさまざまなメーカーが独自で風味付けしたジンを提供しており、その個性の幅広さが際立っているのが特徴だ。

ジュニパーベリーはヒノキ科の果実で、ツツジ科のブルーベリーやクランベリーとは異なる。右はジン製造のために蒸留酒に漬け込んでいる様子
ジュニパーベリーはヒノキ科の果実で、ツツジ科のブルーベリーやクランベリーとは異なる

ジンの起源は1600年代までさかのぼる。

上記のとおり、ヨーロッパはオランダの医学博士が当時、アジアなどオランダの植民地における熱病対策として薬草であるジュニパーベリーを漬け込んだ薬用酒を開発したことから始まったと言われている。この「ジン」という名は、ジュニパーベリーを表すフランス語の「ジュニエーブル」からきているのだ。

その後、その爽やかな飲み口がウケて、一般市民の間にも人気が広がっていったようだ。オランダからヨーロッパに広がるなかで、特に大人気となったのがイギリスである。19世紀には連続式蒸留機などの登場もあり、イギリス国内でジンは徐々に雑味の少ない洗練された味へと進化を遂げる。これがいわゆる「ロンドン・ドライ・ジン」と言われ、現在、世界で親しまれるドライ・ジンの原型となったとされている。

ジンは人をダメにする「不道徳な酒」のレッテルを貼られていた!?

このように薬用酒としての起源と、爽やかな飲み口で一般層に人気が広がった歴史を紹介したが、実はその過程で、人をダメにする「不道徳な酒」というイメージが付いたこともあった。18世紀のことである。

ジンは価格が安い割にアルコール度数が高い。うまくて、安く、早く酔える酒として、特に低所得の労働者の間で広がっていた。このことから”ジン中毒”になり体を壊すものも多く、社会問題にまで発展している。背景にはワインやビールの関税が引き上げられて高価な飲みものとなったことも影響していたようだ。

ジンの人気が急速に高まり、一方で健康被害など社会問題が起こると、イギリス政府はジンの取引に規制をかけるようになった。これは「ジン法」とも呼ばれている。この規制によって、ジンを提供する販売店や提供店が課税されたり、認可料を取られるなど、徐々に提供店舗数が減少。ジンは手に入りにくく、また、高価なものとなっていったのである。このジン法が引き金になってジンの大流行は終焉を迎えたと言われている。

ではこのような歴史をたどったジンが、どのように社会的な地位を取り戻したのか?それは、前述した連続式蒸留機の登場によって雑味の少ない洗練された味わいになった点に加えてロンドンには良質な水があり、さらに当時はイギリス国内だけでなく、植民地や国外から輸入された多くの食材が集まり、そこにジンの原料となるボタニカル(薬草・香草)も含まれていたことが要因としてあげられる。こうした環境から、現在もジンのメーカーとして世界中に供給しているビーフィーター、タンカレー、ゴードンズといった蒸留所が生まれたのである。

20世紀に入り経済発展と共に人々の暮らしが豊かになると、嗜好品としてカクテルが欧米を中心に広がった。ジンはベースリキュールとしてバーテンダーの支持を集め、徐々にその地位を確立し今日に至ったと説明される。ちなみに、ジンをベースとしたカクテルにジントニックがあるが、シンプルであるがゆえに、おいしいジントニックを作れるかどうかは、そのバーテンダーの腕の見せどころであるという話も聞く。

那覇市久茂地にあるBarアルケミスト。オキナワクラフトジンを揃えておりうまいジントニックが飲める筆者おすすめの店
那覇市久茂地にあるBarアルケミスト。オキナワクラフトジンを揃えておりうまいジントニックが飲める筆者おすすめの店

21世紀、再びジン流行の兆しが世界規模で起こる

ジンは2010年頃から小規模な蒸留所で作られる、いわゆる「クラフト・ジン」として世界各国で再びブームとなっている。日本では少し遅れて2017年頃から京都のクラフトジン蒸留所が人気となり、その後全国に広がりを見せた。

沖縄県ではまさひろ酒造が先駆けてクラフトジンを自社開発し販売。その後、瑞穂酒造、石川酒造場も続き、現在では3社がオリジナルのクラフトジンを販売している。そこから、沖縄県内各地でクラフトジンイベントが開催されるなど人気を博している。

向かって右からまさひろ酒造「まさひろオキナワジンレシピ01」、瑞穂酒造「オリジン1848」、石川酒造場「ネイビーストレングスクラフトジン」
左から石川酒造場「ネイビーストレングスクラフトジン」、瑞穂酒造「オリジン1848」、まさひろ酒造「まさひろオキナワジンレシピ01」

世界に誇れるオキナワクラフトジンの魅力

オキナワクラフトジンの魅力は、まずは何といっても先人から継承してきた酒造りの技法がベースになっている点である。つまり、泡盛の確かな技術力が活かされていることに、ほかの地域の蒸留所とは明らかに違った独自性があると私は考えている。

近年、泡盛は若者に人気がないと言われているが、あの日本を代表する芸術家、岡本太郎氏も評価した世界に誇れる酒である。岡本太郎は生前、沖縄を旅して著した「沖縄文化論」のなかで、次のように泡盛を紹介している。

-沖縄第一夜の歓迎宴に招かれて行く。琉球舞踊も見せる大きな料亭の一つである。「お飲みものは?」と聞かれて、「泡もり」と答えた。何をおいてもかの有名な泡もりをのまなきゃ、ここに来たカイがない。すると、「泡もりですか」とみんなちょっとケゲンな顔をした。(中略)宴がはじまると、泡もりをサービスされたのは私だけで、沖縄の諸君はもっぱらビールかスコッチウィスキー。こんなうまい土地の酒を、どうして飲まねえのかと意地になって、一人であおった。どうも沖縄の人たちには土地で出来たものを卑しいと思いこみ、舶来はすべて上等と考えるコンプレックスがあるように思える。ところが、私がうまいうまいとさかんに泡もりを愛用したので、沖縄の人たちもだんだんつられて、しまいには「泡もりってのはなかなかいいですよ」と沖縄の味を再発見したり、ちょっぴり愛国心をヒレキするようになった-
(出典:岡本太郎「沖縄文化論-忘れられた日本-」中央公論社,1972年)

この一文から岡本太郎が訪れた60年前も、いまも、沖縄県民の根本は変わらないのだなと感じられて面白い。

繰り返しになるが、オキナワクラフトジンの魅力の起点は、泡盛酒造所がその技術力をもってして製造している点(独自性)である。加えて、沖縄県には沖縄固有のボタニカルが多く存在している。以前のコラムにも書いたが、島野菜は28品目指定されており、それ以外にもピパーツ、カラキ(沖縄シナモン)、バタフライピー、ウコン、アロエ、シークヮーサー、パイナップル、ジャスミンなど多くの亜熱帯ボタニカルが存在する。これらは沖縄県が世界に誇れる宝であり、観光地としての魅力にもつながっている。

先述のとおりクラフトジンは、農作物由来のアルコール度数37.5度以上の蒸留酒にジュニパーベリーを香りの主軸としていれば、あとはボタニカルの組み合せでさまざまな風味のジンを作ることができる。

シークヮーサーやピパーツなどをはじめ多くの亜熱帯ボタニカル、沖縄固有のボタニカルの宝庫である沖縄県
シークヮーサーやピパーツなどをはじめ多くの亜熱帯ボタニカル、沖縄固有のボタニカルの宝庫である沖縄県

たとえば、まさひろ酒造のオキナワジンレシピ01はジュニパーベリー、シークヮーサー、グァバ(葉)、ゴーヤー、ローゼル(ハイビスカス属)、ピパーツといった6種類の沖縄県産ボタニカルをラインナップ。

3種類のクラフトジンを飲み比べるとき、順番としてまずまさひろ酒造のオキナワジンレシピ01から飲み始めるのがよいとアルケミストバーテンダーの中村氏が提案
「オキナワクラフトジンの飲み比べは、まずはまさひろ酒造のオキナワジンレシピ01から」とアルケミストバーテンダー中村氏

瑞穂酒造オリジンはジュニパーベリー、ピーチパイン、シークヮーサー(葉)、月桃、ピパーツなど10種類。

続いて瑞穂酒造オリジン1848をいただく。どのクラフトジンも個性がしっかり感じられて作り手の想いが伝わる。とにかくうまい
瑞穂酒造オリジン1848をいただく。どのクラフトジンも個性がしっかり感じられて作り手の想いが伝わる。とにかくうまい

石川酒造場のネイビーストレングスクラフトジンはジュニパーベリー、カーブチー(ピール)、タンカン(ピール)、ピパーツ、カラキ、イーチョーバー(シード)、など9種類。各社、開発担当者こだわりの沖縄県産ボタニカルが使用されている。

最後は3種類のなかで最も度数の高い、石川酒造場ネイビーストレングスジン。トニックウォーターを注ぐと白濁するのが特徴。思ったよりも度数は感じない。
度数の高い、石川酒造場ネイビーストレングスジン。トニックウォーターを注ぐと白濁する。思ったよりも度数は感じない。

泡盛×沖縄県産ボタニカル=オキナワクラフトジン。

沖縄の歴史、文化、気候、食、すべてをこの一品に凝縮可能なのが、このオキナワクラフトジンの最大の魅力だと私は考えている。オキナワクラフトジンを飲めば沖縄を存分に楽しめる、そういう存在になってもおかしくない。

オキナワクラフトジンは開発担当者の個性が溢れ出る

実はいろんな縁があって、現在クラフトジンを販売している3か所の泡盛酒造所のうち、2か所の試作段階のジンを試飲させてもらったことがある。2016年頃だったと記憶している。

そのとき爽やかな飲み口と、口に含んだ瞬間の香り、喉の奥に消えた後の余韻に種類の異なるボタニカルが感じられ、CLUBで飲んで悪酔いしたそれとは全く違うクラフトジンに衝撃を覚えた。特にトニックウォーターで割ったジントニックは、正直なところ「なんだ、これは!」という言葉以外出てこない程、おいしいものだった。本当にうまいもののリアクションは、不思議と極めてシンプルである。かつてイギリスでジンが規制されたように、これは本当に人をダメにしてしまうのではないか?と思えるくらいにうまい。

今回このコラムを書くにあたって、石川酒造場のクラフトジンを開発した平良寛進(とものり)氏に話を伺った。平良氏はクラフトジンを開発するにあたり、「開発担当者自身のボタニカルに対するこだわりが強く出る酒ではないか」と話してくれた。平良氏が開発した石川酒造場のクラフトジンは、口に含んだ瞬間、カーブチーやタンカンの柑橘系の香りが広がる特徴がある。その後、カラキ、ピパーツ、イーチョーバーなどエキゾチックでスパイシーな余韻が感じられる。これらすべてが平良氏のこだわりであり、開発する前から頭のなかでは完成品のイメージがある程度出来上がっていたのだという。

クラフトジン開発の様子。試行錯誤してこだわりの風味に仕上げる。クラフトジンはボタニカルの調達、漬け込みなどにとても手間暇がかかっている
クラフトジン開発の様子。クラフトジンはボタニカルの調達、漬け込みなどにとても手間暇がかかっている

平良氏
「どのボタニカルを組み合わせるとイメージした風味を出せるか、頭のなかで設計し調合しながら開発を進めました。柑橘系というのを最初のテーマに持ってきたいと思っていました。その理由は、私が持っている沖縄のボタニカルのイメージが柑橘系だったところからきています。でもそれはシークヮーサーよりも、カーブチーであり、タンカンでした。私の食卓に並んだのはシークヮーサーよりもカーブチーやタンカンが多かったからです。これらの魅力を最大限に引き出すことを考えたときに、調合するボタニカルのカラキやピパーツ、イーチョーバーが出てきました。そういう意味で、クラフトジンというお酒は開発者の個性が色濃くでるものだと思います」

沖縄県外のクラフトジンを見ても、桜島小みかんを使った鹿児島のクラフトジンや、緑茶やほうじ茶を使ったクラフトジンがあるなど、各地の個性と作り手のこだわりが感じられる。

そんなオキナワクラフトジンであるが、対外的な評価はどうなのか?

バーテンダーからも高い注目を集めるオキナワクラフトジン

平良氏によると「まだまだよくなる余地はある」としながらも、「販売早々、国内で話題になり、海外での評判もよい」ということであった。

私もいろいろと調べてみると、特にバーテンダーといったお酒のプロから高い評価を受けているのがオキナワクラフトジンとわかった。コンテストにおいては、東京ウィスキー&スピリッツコンペティション2021で石川酒造場のネイビーストレングスクラフトジンが金賞を受賞、インターナショナルワイン&スピリッツコンペティション2021では、瑞穂酒造のオリジン1848がジン部門で銀賞を受賞しており、対外的な評価も高い。

コロナ禍からの復興に向けて、すでに世界は舵を切っている。コロナ前にはおよそ3,000万人規模の訪日観光客があった日本。コロナ後の訪日観光客は、コロナ前のそれと比較して2倍にも3倍にもなるポテンシャルを日本は持っていると言われている。そのような日本でアジアの玄関口として観光立県を掲げる沖縄。沖縄を理解してもらうためにも歴史、文化、気候、食文化というのは絶好のコンテンツである。泡盛製造技術をベースに作られたオキナワクラフトジンは、これらの要素を一つにまとめて国内外に提案できる唯一無二のプロダクトであると考える。いまは3つの酒造所からの提案だが、これからどのような広がりを見せるか期待したい。

最後に、岡本太郎は沖縄本土復帰にあたって以下のコメントを残している。

-決して豊かではないこの小さな島で、台風にさらされながら、穏やかで逞しい人々が素肌で、自然とともに生きて、ながい生活の間につくり上げた分厚い伝統。私は沖縄の人に言いたい。島は小さくてもここは日本、いや世界の中心だという人間的プライド、文化的自負をもって豊かに生き抜いてほしいのだ-
(出典:岡本太郎「沖縄文化論-忘れられた日本-」中央公論社,1972年)

泡盛を好み、うまいうまいと飲んだ岡本太郎が生きていたら、ぜひ、オキナワクラフトジンを薦めたいと思った。きっと気に入ったはずだ。

これまでは「稼ぐ力」をキーテーマとして、沖縄の”食”や”特産品”に焦点をあてコラムを書いてきた。次回以降も同様に「稼ぐ力」をキーテーマにつつ、沖縄のスタートアップ界隈に関する取組みやチャレンジを紹介していきたいと思う。

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