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長嶺 真輝

長嶺 真輝

天皇杯準優勝のキングス、”5度目”の有明頂点ならず。Bリーグ初制覇のために必要なコト

琉球ゴールデンキングス

男子バスケットボールの第98回天皇杯全日本選手権決勝が12日、東京の有明コロシアムで行われ、沖縄県勢として初のファイナルに挑んだ琉球ゴールデンキングスは千葉ジェッツ(以下、千葉J)に76-87で敗れて準優勝に終わった。bjリーグ時代に4度チャンピオントロフィーを掲げた”聖地”有明で、5度目の頂点にはあと一歩届かなかった。千葉は3連覇を果たした2019年以来、4年ぶり4度目の優勝となった。

大会ベスト5にはキングスから今村佳太が選ばれ、大会MVPは日本代表ポイントガードの千葉Jの富樫勇樹が輝いた。

キングスにとっては悔しい結果となったが、今シーズンの最終目標は初のBリーグ制覇に変わりはない。その意味では、現在レギュラーシーズンでB1新記録となる22連勝中でBリーグでも優勝候補筆頭の千葉Jは、キングスの”現在地”を知るためにこの上ない相手だったと言える。さらなる高みへ到達するために必要な事とは…

インサイド封じられ劣勢に スリー成功率低迷

琉球ゴールデンキングス

まずは天皇杯決勝の試合内容を振り返る。

幕開けを飾ったのはキングス生え抜き11年目の岸本隆一だ。自身にとっては2013-14、15-16の両シーズンにbjリーグで優勝を飾った「勝率100%」の有明コロシアムで、相性の良さを感じていたのかもしれない。スリーポイントラインからさらに遠く離れた場所からシュートを放つ「ディープスリー」を試合開始直後の攻撃で右45度からいきなり沈める。キングスが最高のスタートを切ったかのように見えた。

しかし千葉Jは動じない。ジャック・クーリー、ジョシュ・ダンカン、アレン・ダーラムという重量級のインサイド陣を揃えるキングスに対し、ローポストにボールが入った時に徹底してダブルチームを仕掛けてきた。千葉Jがインサイドの要である日本国籍取得選手のギャビン・エドワーズをけがで欠いていたこともあり、そのディフェンスを読んでいたキングスはボールを外に振って度々フリーの状態でスリーを放つが、一本目の岸本以降はなかなか成功率が上がらない。

一方、ビッグマンを含めて主力全員が外角シュートを得意とする千葉Jも積極的にスリーを放ち、前半だけで9本を成功。7点のリードを許して前半を折り返した。

最終盤スリー3連発で猛追も届かず

琉球ゴールデンキングス

第3クオーター(Q)に入ると今村がファウルを受けながらドライブからのレイアップを決めたり、ダーラムがダブルチームを受ける前に素早い動きでゴール下シュートを沈めたりし、スリーに偏り気味だった攻撃に変化を加えたキングス。さらに田代直希主将が要所でスリーを決める場面もあり、再三に渡って詰め寄った。

しかし、第3Q終盤で千葉Jにビッグプレーをつくられる。ローポストでダブルチームを受けたダーラムが逆サイドに大きくパスを振ると、それを読んだ千葉Jにスティールされてスリーに繋げられた。次の攻撃でも全く同じシチュエーションをつくられてスティールされ、速攻からレイアップを決められてこの試合初の二桁点差となる10点にリードを広げられた。

その後すぐに一桁点差に戻すが、第4Qに入ってから千葉Jがさらにディフェンスの強度を上げ、なかなか追い付けない。粘るキングスはダンカン、牧隼利、岸本のスリー3連発で残り3分を切った土壇場で4点差まで詰め寄るが、試合を通して好調だった千葉Jのスリーを最後まで止められず、逃げ切られた。

岸本「場数の違い感じた」

琉球ゴールデンキングス

ミスから相手に攻撃権が移る「ターンオーバー」の回数は千葉Jが8だったのに対し、キングスは15に上ったことからも、千葉Jがいかに試合を通して激しいディフェンスを貫いたかが分かる。昨シーズンのBリーグファイナルでも準優勝という結果に終わったキングス。日本一に到達するための壁の高さを改めて痛感させられる一戦となった。試合後の記者会見で、今村は沈んだ表情でこう語った。

「決勝を終えて一番思ったのは、千葉の方がタフさがあったということです。ワンプレーワンプレーに対する大切さを自分たちよりコートで体現していました。40分間、相手が自分たちのやるべきことを突き通した結果、僕たちが負けてしまいました。そこのタフさを身に付けない限り、Bリーグの優勝もありえない。何回も『いい経験』と言っている分、歯がゆい気持ちもありますが、しっかり自分たちのプラスに繋がる経験にしないといけないと思います」

勝敗を分ける大きな要因となったスリーの成功率はキングスが26.5%(34本中9本)に低迷したのに対し、富樫ら経験豊富な選手も多い千葉Jは37.5%(40本中15本)に達した。キングスに流れが傾きかける度にスリーで断ち切る千葉Jの高い集中力は、圧巻の一言だった。

それを念頭に、岸本は「勝負所でシュートを決めてくる力や、競り合いでボールを取れそうで取れないところなど、プレー的なところよりも踏んでいる場数の違いを感じました」と振り返る。その上で、リベンジに向けた決意を静かに語った。「これがいい経験になるかはまだ分かりませんが、Bリーグのレギュラーシーズンでもまた当たります。『千葉を倒す』という事を頭に入れていけたらと思います」

最大の伸び代は「タマヨ&渡邉」

琉球ゴールデンキングス

今村と岸本の言葉が示す通り、既に視線の向ける先をBリーグの頂点に切り替えているキングス。3日後の15日にホームの沖縄アリーナであったレギュラーシーズン第40戦の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦では、チームの「伸び代」をさらに磨いていくという姿勢が顕著に見えた。その伸び代とは、大けがと3度の手術を乗り越え、2月上旬に遂にBリーグデビューを果たした渡邉飛勇と、同じく2月中旬にチームに合流したばかりのアジア特別枠選手のカール・タマヨだ。

渡邉はBリーグの日本人選手で最も高い身長207cmのパワーフォワード。元々バレーボールが主だったこともあり、ジャンプ力を生かしたリバウンドとブロックが武器だ。攻守の切り替え後にゴールへ向かう走力もあり、復帰後すぐに日本代表に選ばれるほど能力が高い。

フィリピン出身のタマヨも202cmとサイズがあり、まだ22歳ながら、学生の頃からバスケが盛んなフィリピンで代表選手に選ばれてきた。高さに加え、ドライブ力やアウトサイドのシュート力も備える。アジア特別枠選手は、一緒にコートに立てる人数が2人までの外国籍選手と共に出場ができるため、高さのあるラインナップを組むことも可能だ。

桶谷HC「もっともっともがく必要がある」

琉球ゴールデンキングス

2人ともまだキングスのシステムに馴染んでいないため、天皇杯決勝ではタマヨが1分49秒出場しただけで、渡邉は出番がなかった。ただ、今後キングスがチーム力を上積みしていくためには、高さのある2人が存在感を高めていく事が必須となる。名古屋D戦では、渡邉は8分35秒出場して体の強い外国籍選手相手に体を張り、2得点、1リバウンドを記録。この試合がBリーグのデビュー戦となったタマヨは、ビッグマン2人と共にアウトサイドを主戦場とするスモールフォワードとして9分29秒出場し、5得点1リバウンドを記録した。

試合後、桶谷ヘッドコーチ(HC)も2人について触れていた。

「カールはアウトサイドがあるので、3番(スモールフォワード)で出てミスマッチを突くなどのプレーが一番いいと思っています。大きい選手が多いチームでも、彼がいればもっと守れる。飛勇に関してはビッグマンに押し負ける部分はあっても、オフェンスリバウンドにハードに絡んだりできます。リバウンドさえ取れれば彼はリーグで一番足が速いビッグマンだと思っています。ゴールに向かって走ることで相手ディフェンスが彼を警戒し、他の選手がシュートを打てる場面が出てきます。2人ともいつもより長い時間出たことを収穫にしてもらいたいです」

特にタマヨはプレーの幅が広いため、田代直希主将が「今後伸びてきてもらわらないと困るくらいの選手」と話す通り、キングス最大の武器である強力なインサイド陣にさらに厚みを加える存在として周囲の期待感は大きい。ただ、合流する直前まで個のスキルを重視する傾向のあるフィリピンでプレーを続けてきたため、ボールをシェアしながら全員で攻めるキングスのバスケに馴染むにはまだ時間を擁しそうだ。

タマヨ自身も「桶谷HCの掲げるシステムに対しては、学ぶ事がまだまだ多いと感じています」と率直に語る。ただ、現状に対して悲観している様子はない。「学んだ事をいかに効率良くコート上で表現できるかということを積み重ねていくことで、正しい方向に向かうと思っています。一生懸命練習し、チームの助けになれるように頑張りたいです」と語り、前を向く。

名古屋D戦に79-74で勝利し、8連勝で通算成績は31勝9敗。8チームで年間王者を決めるトーナメント「チャンピオンシップ」への進出圏内となる西地区2位につけ、優勝候補の一角に挙げられるキングス。しかし名古屋D戦、桶谷HCが「今のメンバーはまだまだフィットしていなくて、ケミストリーが上がっていない。連勝はしていますが、もっともっともがく必要があると思います」と話した通り、チームはまだ成熟途上にある。悲願のBリーグ初優勝へ。有明で味わった悔しさをバネに、真の”キング”へと進化を遂げたい。

写真は『Basketball News 2for1』提供

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