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当銘 寿夫

当銘 寿夫

激動の環境下で経営者が打つべき手は? ヒント探るカンファレンス開催

沖縄県内の経営者のための経営の打ち手CONFERENCE(カンファレンス)

長いコロナ禍を経て、回復期に入ったとも言える沖縄経済。同時に、人手不足や資材高騰といった深刻な経営課題も顕在化してきた。そんな環境下で、県内経営者はどんな手を打っていく必要があるか。解決のヒントを導き出すべく、「沖縄県内の経営者のための経営の打ち手CONFERENCE(カンファレンス)」(沖縄テレビ主催)が5月12日、那覇文化芸術劇場なはーとで開催された。登壇した経営者らが示した「次の一手」とは−。

基調講演のトップバッターを務めたのは沖縄のソウルフードの一つ、沖縄天ぷらや弁当などを調理・販売する「上間沖縄天ぷら店」の運営会社、株式会社上間の上間喜壽代表取締役会長だ。

沖縄県内の経営者のための経営の打ち手CONFERENCE(カンファレンス)

「“新観光時代”を迎える沖縄 変化するローカル経営と立ち回り方」と題した基調講演で、上間氏は冒頭、こう強調した。「本日、皆さんと共有したいのは『現状把握』、俯瞰的に物事を見ることの重要性だ。現状を把握できていないと、例えば、変に願望を持って戦争に勝てると思い込んだり、逆に相手のことを大きく捉えすぎて勝てるはずの試合を落としたりする。経営においても、再現性が高い失敗をいかに削るか、ディフェンスがどれだけ強いかが重要だ」。県土面積や人口規模、少子高齢化の進み具合、産業構造、入域観光客数の推移などの統計データを示し、「自分たちが戦っている場所のことは、きちんと頭に入れておく必要がある」と助言した。

今後も成長が見込まれる沖縄観光。観光関連産業以外の業種でも、事業ポートフォリオの中に観光を組み込んでいく必要性を、上間氏は提起する。「人手不足とインフレが要因となって、今後、沖縄ローカルだけでビジネスを発展させていくのは厳しくなる。人手不足を解消するには給料を上げるしかない。インフレに対応するには商品の価格を上げる必要がある。観光は変動の波が大きいというリスクもあるが、今、売っている商品を倍の値段で売るためには、マーケットを(観光客に)変えるしかない」

会場にいる経営者たちに次のように呼び掛けて、上間氏は講演を締めくくった。「経済が好調になると、参入が増え、競争は激しくなる。その中で立ち回るために必要なことは、経営者の地道な努力だ。社長は経営のプロとして、BS(貸借対照表)やPL(損益計算書)を把握できるよう、勉強していきましょう。そして、今の激しい経営環境を立ち回っていくために、一緒に考えていきましょう」

基調講演の講師の2人目は、株式会社リゾートプラスの代表取締役、澤田裕一氏が務めた。沖縄の観光人材の育成を中心に事業を展開しながら、マーケティング・コンサルティング会社に所属し、全国、沖縄のテーマパーク事業やホテル事業に携わっている。

沖縄県内の経営者のための経営の打ち手CONFERENCE(カンファレンス)

澤田氏は「観光立県・沖縄の課題とチャンス リゾートと地域創生と経営」というテーマで講演した。澤田氏はかつて星野リゾートに在籍していたころ、竹富島のリゾート施設立ち上げに携わることになり、家族とともに竹富島に移り住んだ。それ以来、沖縄の魅力に魅せられて、沖縄に住み続けている。「増加し続けているアジアの中間富裕層が旅行に行き始めるときに、空路4時間の場所に沖縄がある。観光の文脈において、沖縄には非常に大きなチャンスがある」。澤田氏はそう解説する。

ただ、沖縄にはチャンスと同じぐらい解決すべき課題もあるという。「沖縄県は労働生産性が47都道府県中、ダントツの最下位で、全国の7割程度しかない。コロナ禍前、入域観光客数ではハワイを超えたが、滞在日数が圧倒的に短いために、消費額で比較するとハワイの4割にとどまっている」

さらに、コロナ禍前に指摘されていたオーバーツーリズムの弊害を挙げて、澤田氏は「観光業と地域住民の幸せは両立できるのか」と問題提起した。「解決の一つの方法として、誰に来てほしいかを明確にする必要がある。私が竹富島でリゾート施設を立ち上げたとき、地域の方と話していく中で、地域が何を守りたいのか、何を大切にしようと思っているかを学んだ。地域が守ろうとしている、埋もれていたものを、観光客にその重要性を伝えながら、『本物』として提供する。『本物』に対して、富裕層はいくら払ってもいいと考えている」

「価値あるものを守りながら、地域住民と事業者、観光客の3者が沖縄の環境から享受し、また環境に与えていくサイクルを作っていければいいと考えている」。澤田氏は沖縄観光の進むべき道をそう描いた。

次いで、「事業承継とM&Aという選択肢」のテーマで講演した株式会社ミライヲカタル代表取締役の竹賀勇人氏は「全国に380万社の中小企業があり、そのうち145万社は経営者が70歳以上で、127万社は後継者がいない。跡継ぎ問題は本当に時間がかかるので、早いうちから承継に関する選択肢を検討していただきたい」と呼びかけた。

株式会社STANDAGE取締役副社長COOの大森健太氏が「補助金活用で低コストに貿易を『まるなげ』する方法」のテーマで、講演のトリを務めた。大森氏は「国が輸出促進を推し進めているので、ものづくりをしている企業、サービス業はどんどん海外に出た方がいい。IT導入補助金を使えば、費用を抑えて、貿易を始めることができる。大手商社では取り扱わないような規模のワンショット10万円からの貿易を弊社が支援する。海外展開に興味があれば、問い合わせていただきたい」とアピールした。

沖縄県内の経営者のための経営の打ち手CONFERENCE(カンファレンス)

講演後は上間氏と澤田氏によるトークセッションや来場者とのQ&Aが繰り広げられた。来場者からの「沖縄が持っている価値を、国外に届ける際の勝算やポテンシャルを聞かせてほしい」という要望に対し、澤田氏は「日本人がフランスに旅行に行って、食事や文化を経験したことで、フランスの文化や食文化が日本に広まるということがかつて起きた。沖縄でも、観光が栄えているこの時代に、沖縄に来た人に何を経験してもらい、持ち帰ってもらうかが、その後に沖縄のものを海外で売るときに大事な視点だ」と語った。

上間氏は来場者に対し、「沖縄の経営者がチームになって、数字の生々しい話もオープンに話して、お互い情報交換して、この好機を全員のものにしていきましょう」と呼び掛け、カンファレンスを締めくくった。

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