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真栄城 潤一

真栄城 潤一

宮古島にシャンゼリゼ通りが出現!? ワインイベント「サンサンバルフェスタ」レポート

ワインイベント「サンサンバルフェスタ」

5年ぶりに、街中で乾杯の音が鳴り響いた。4月末の日曜の昼下がり、宮古島市平良にある9店舗の飲食店が参加したワインイベント「サンサンバルフェスタ2023」(以下、サンバル)が開催された下里通りでは、ワインと食を楽しみに訪れた人たちがグラス片手に談笑しながら、こだわりの料理に舌鼓を打っていた。
参加店の常連や知人などの地元客を中心に、飲食店関係者や観光でフラリと訪れた人たちがワインと美味しい料理を通じて交わる。良い意味でゆるくて温かなその雰囲気は、今回のフェスのキャッチフレーズ「下里通りがシャンゼリゼ通りになる1日」を文字通りに体現していた。

ワインイベント「サンサンバルフェスタ」
ワインを楽しむ人たちで賑わう通り(ボックリーのチョッキ店舗前)

店の人も客も、みんなで美味しく楽しむ

2013年から始まったサンバルは、規模や実施ペースに変化をつけながらこれまで開催されてきた。
本来は20年にも行う予定だったが、コロナ禍で流れてしまったため今回は5年ぶりの開催。今回の参加店舗は「ドンコリism」「フィッシュ タヴェルナ サンボ」「ビストロピエロ」「プラヴィダ」「ボックリーのチョッキ」「ガリンペイロ」「ピッツェリア クラウン」「リッコジェラート」に加えて、かつて宮古島で店を構えていた「まる山」も石川県の金沢から駆けつけた。

ワインイベント「サンサンバルフェスタ」

提供されたのは選りすぐりの自然派ワインと、それぞれの店舗が持ち味を生かしたこの日だけのスペシャルなメニューの料理たち。ワインやビールはチケット制で普段よりも安い値段で飲める上、料理もほとんどが1,000円前後で食べられるフェス価格。だからといって量も質も妥協はなく、新鮮な宮古島の食材を使った一品や店自慢のこだわりの一品が提供されており、満足度はとにかく高い。

集まる人たちはそこまで多すぎない規模感で、店側の人たちと客との距離感はちゃんと“顔が見える”範囲。所々で「久しぶりー!」「元気だった?」という再会の声が聞こえると同時に、いつものメンバーでワイワイと乾杯する光景もあちこちで見かける。

ワインイベント「サンサンバルフェスタ」
「ドンコリism」のローストポーク
ワインイベント「サンサンバルフェスタ」
「ピッツエリア クラウン」のピッツァ

ワインを飲み、食事をする人たちも、マナーはもちろん楽しみ方をある程度知っているけれど、決して気取ったところもなくフランクなムードが漂う。たまたま見かけて飛び込みで来た観光客も、3分もすればスタッフや“手練”の地元客とすんなり馴染む。
こうしたゆるやかなつながりと強い信頼が絶妙なバランスで成り立っていることで、その場にいる人たちがそれぞれに楽しめるフェスの心地良い雰囲気を生み出していた。

「楽しいからやる!」が原点

サンバルの大きな特徴の1つは、参加しているそれぞれの店の個性豊かな店主たちの間に築かれている確固たる信頼関係が地盤としてあるところだ。それは決して“馴れ合い”の仲ではなく、それぞれが「飲食」という生業に高い志をもってプロフェッショナルに向き合っていることが大前提となっている。
その基本姿勢を貫き、質もサービスも担保した上で「店も客も皆で楽しむ」という非常にシンプルなコンセプトを体現したのがこのフェスなのだ。

ワインイベント「サンサンバルフェスタ」
「ボックリーのチョッキ」の店主・鴇澤研二さん

「ワインと食事を合わせて気持ちよく食べて飲んでもらう、その楽しさを知ってもらうきっかけにしたい、ということが根底にあるコンセプトですね。『こういうのが好きなんだけど、どう?』っていう提案として。そして全体で楽しい空間にするために肝心なのは、店側の人たちもちゃんと楽しんでやる“お祭り”にするということ。そもそも『楽しいからやる!』というのが原点なので、その様を見せつけるという感じでしょうか(笑)」

こう説明するのはボックリーのチョッキの店主・鴇澤研二さん。サンバルに関わる個性強めの店主の面々と、ワインの選定や扱いを取りまとめている。今回5年ぶりのフェスを振り返って「あの景色を見ることができて本当に良かった」と目を細める。
「目の前の通りに普段とは違う光景が広がっていて、1つの“小さな街”の風景が出来上がってるような感じがして。ちゃんと『街に受け入れられているんだな』ということを実感したような気がしましたね」

宮古島と「自然派ワイン」

ワインイベント「サンサンバルフェスタ」

皆がグラスを傾けているワインが、いわゆる「自然派ワイン」ということもサンバルのもう1つの特徴だ。
自然派ワインは「ナチュラル・ワイン」「ヴァン・ナチュール」とも呼ばれ、ここ数年で爆発的に加速度的に知名度が上がって注目されているワイン。那覇市内でも自然派ワインを飲める店がかなり増えてきているが、ボックリーのチョッキでは2001年ごろから取り扱っていた。その当時は「自然派ワイン」という呼び方も一般的ではなく、1つの選択肢としてラインナップされていたという。

いちジャンル的に語られている自然派ワインだが、様々な規定や細かなジャンルが混在しているため、実はかっちりとした定義は定まっていない。大まかに言えば、オーガニックの基準を守った畑で栽培されたブドウを使って、添加物を加えたりもともとの成分を排除したりせずに発酵させて造ったワインのこと。
基本的に添加物を加えず微生物が活動してワインが“生きている”状態のため、取り扱いはデリケートかつシビアになるが、抵抗なく身体に沁みる味わいを持つ。さらに、白・ロゼ・赤のほかに「オレンジ」と言われる“色”もあり、味にかなりの多様性があることも特筆すべき点だ。

ワインイベント「サンサンバルフェスタ」

サンバルに携わる店の界隈では、このワインを気取らずに美味しく飲むという空気が醸成されてきたこともあり、その呼び方にもある通り“自然体”で楽しむシーンが形成され、そしてある程度成熟している。「結果的にそうなっただけで、自然派ワインを全面的に打ち出してるわけではないんですよ」と、鴇澤さんは言い添える。先にも触れたが、原点はあくまで「皆で楽しむため」で自然派ワインを目的化しているわけではない。

また、会場ではワインにそこまで詳しくない初心者に対しても「これが美味しいからとりあえず飲んでみて」と店側が気軽に勧める空気がちゃんとあることに加え、詳しい人でもみっちり話し込めるようなボトルが開いていたり、インポーター(輸入業者)と専門的な話をすることも出来るため、初心者から玄人まで楽しめる広いレンジをカバーしている。

こうした事情も、店と客との信頼関係が良い空気感を作り上げている要因の1つと言えるだろう。

飲食のプリミティブな“力”

ワインイベント「サンサンバルフェスタ」
店の人もお客さんも楽しく一緒に乾杯!という距離感が心地良い

「たくさんの人たちが楽しんでいる表情を見て、『パッと飛び込んでみても楽しい』という飲食業の力をあらためて感じました」と鴇澤さん。
 コロナ禍の影響もあって、ここ数年は各店主の店舗経営についての考え方も変わり、それぞれの“哲学”が確立してきているという。そうした変化も経た上で、今回のフェスで「楽しく飲んで食べる」という飲食業のプリミティブな魅力を再確認し、実感することができた意義は大きい。

鴇澤さんは今後の開催に言及しつつ「もう少しワインに力を入れて、ゆくゆくは色んなインポーターさんが協賛という形ではなくて、しっかりとワインを売ることができるような形に持っていきたいですね」とビジョンを語る。さらに、宮古島に新しく開店した店舗が増えている状況も踏まえて、「今後のフェスでの新しいお店との協力や関わり方も、模索していきたいと思っています」と話した。

ワインイベント「サンサンバルフェスタ」
サンサンバルフェスに参加した店主の面々

サンバルの次回開催は現時点で未定だが、通常営業している店舗に行けばワインを楽しく飲みながら美味しい料理を食べることができるし、フェスの空気感の一端も感じることができるはずだ。那覇や本島の街中とは一風変わった食のカルチャーが感じられる宮古島に、ワインを飲みに行ってはいかがだろうか。

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