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農福連携で夢見る未来。発酵技術が難しいバニラ、沖縄産の商品化に近づく
高齢化で人手不足に悩む農家と働く場所を探す障害者(福祉)をつなぎ、双方の課題の解決を目指すも農福連携。
北中城村の福祉事業所では、2019年から栽培してきたバニラの生産が本格スタートした。
おいしく食べていただけるとうれしい
うるま市の直売所にやってきたのは、ソルファコミュニティのメンバー。
身体・知的・精神や発達に障害がある人々が働く福祉事業所だ。
自分たちの手で農薬や肥料を使わずに野菜や果物を育て、出荷作業まで担う。
選別・梱包担当 津波古佑圭さん
「とてもうれしかったです。買ってくださるんだなと思って。おいしく食べていただけるとうれしいです」
ソルファコミュニティは北中城村などに点在する耕作放棄地を開墾し、農地として蘇らせる。
2019年は草木が生い茂っていたこの土地…
今では5千坪の敷地に広々としたハウスが建てられた。
ここで育ててきたのが…
(Q.これは何の花ですか?)
ソルファコミュニティ 玉城卓 代表
「これはバニラの花なんですが、ふくらんできたら次の日ぱっと咲きます。これが花なんですよ。この下、ここがバニラビーンズになります」
表情がすごく明るくなる、よく話すようになる
就労支援A型事業所のソルファコミュニティには、24歳から69歳までの22人が在籍している。
ソルファコミュニティで働いて1年半の宮城直子さん
「今はよもぎ、フーチバーを採っています。農薬とか使ってないので香りがいいと思います。風とかを感じ、鳥の声を聞きながら作業するのは楽しいです」
ソルファコミュニティ 玉城卓 代表
「農業と福祉に取り組むソルファコミュニティを立ち上げて11年目を迎えました。一緒に農作業をしていて、表情がすごく明るくなったことや、よく話すようになったと感じます。これが農業と福祉の良いところかなと思います」
温暖な沖縄ならば成功するのではないか
そんなソルファコミュニティで2019年にスタートしたのが、バニラを生産するプロジェクトだ。
アイスクリームやプリンなど洋菓子の香りづけに欠かせないスパイス、バニラビーンズ。
日本で食されているバニラビーンズは、ほとんどがマダガスカル産。
しかしその価格は乱高下が激しく、「入手が困難になっている」と洋菓子メーカーに相談されたことをきっかけにこのプロジェクトが始まった。
バニラはラン科の植物のため、「温暖な沖縄ならば成功するのではないか」と考えたことも事業に乗り出す決め手になったそうだ。
玉城さんはメキシコやマダガスカル、インドネシアなど世界の産地を視察。
バニラは自然受粉が難しく、人の手が必要なことを知った。
ソルファコミュニティ 玉城卓 代表
「3年後に花が咲いたら受粉もやらないといけないので、その時はまた忙しくなりますよ」
ソルファコミュニティのメンバー 古川陸さん
「3年後… 僕は23歳になっています」
ソルファコミュニティ 玉城卓 代表
「まだまだいけますね」
ソルファコミュニティのメンバー 古川陸さん
「はい」
プロジェクトから4年、本格的な生産をスタート
最年少の古川陸さん。バニラ栽培が始動した頃は、ソルファで働き始めたばかりだった。
(Q.畑仕事していてうれしいことや楽しいことはありますか?)
ソルファコミュニティのメンバー 古川陸さん
「全部です!全部ですね、自分的には。職員とコミュニケーションとったりするなど、いろいろがんばりました」
ソルファコミュニティ 玉城卓 代表
「陸さんはだいぶ成長しましたね。仕事もたくさん覚えてきていますし、特に積極性が出ました。自分で仕事に取り組む姿勢もあがってきました」
バニラも人も大きく成長したこの4年。
ついに花が咲き始め、いよいよ本格的な生産がスタートする前に、事業を後押ししてきた北中城村の関係者や滋賀県のパティシエを招いて受粉式を行った。
ソルファコミュニティ 玉城卓 代表
「このおしべとめしべをくっつけないといけません。とにかく人手がかかるので、そこに雇用ができると思っています」
さらに玉城さんからうれしい報告が!
バニラの生産は、栽培以上に収穫した実の発酵技術(キュアリング)が重要だが、それは科学的に解析されておらず世界中で「謎」とされてきた。
ソルファでも何度も失敗を重ねながら研究を続け、香りの良いスパイスができたというのだ。
ソルファコミュニティ 玉城卓 代表
「4か月ぐらいキュアリングしているものが、あとちょっとで完成です」
これまでソルファで収穫・発酵したバニラビーンズを使ったカスタードの試食では…
洋菓子メーカー・滋賀県のパティシエ 山本隆夫さん
「かなり香りがしています」
ソルファコミュニティ 玉城卓 代表
「おおやりましたね、うれしいです」
ソルファコミュニティのメンバー 古川陸さん
「いろんな人たちに届けたいです。ソルファじゃない人たちにも、いろいろな人に渡ってほしいなと思います」
手間と時間を要するバニラ生産は、障害のある人たちの強みをいかせる事業だと玉城さんは確信している。
ソルファコミュニティ 玉城卓 代表
「やることが決まっていてこつこつと積み重ねていく作業は、障害を持つ人に合っている場合があります。福祉の作業としてすごくいいんじゃないかと思っています」
農福連携のバニラ生産 今後の取り組み
沖縄でも2003年頃からバニラ栽培に取り組んでいる人がいるが、発酵技術が難しくマダガスカル産の品質にはなかなか届かないとされてきた。
ソルファコミュニティが研究してきた発酵技術は、国際特許を出願している。
この農福連携で取り組むバニラ事業の目標について玉城さんは、福祉の点でいうと障害者の雇用創出のほか、子育て中の人など短時間労働者を採用し、子どもの貧困の解消に繋げることを挙げている。
また農業の点では耕作放棄地を解消し、農家の所得向上を図るためにソルファコミュニティでは、2023年内には北中城村内の農家にバニラの株を分けて、栽培方法を共有していく計画だ。
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