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長嶺 真輝

長嶺 真輝

「八村塁の欠場」が日本代表に与える影響は… 重要性増す“リバウンドと得点力”【FIBA バスケットボールワールドカップ2023】

「八村塁の欠場」が日本代表に与える影響は… 重要性増す“リバウンドと得点力”【FIBA バスケットボールワールドカップ2023】
台湾との国際強化試合に臨んだ日本代表のメンバー©︎Basketball News 2for1

沖縄アリーナなどを舞台としたFIBA男子バスケットボールワールドカップ(W杯)が開幕する8月25日まで、残り1カ月余りとなった。沖縄県内でも公共施設や交通機関、企業ビルなどでW杯仕様のラッピングが増え始め、徐々に機運が盛り上がってきている。

一方、肝心の日本代表「アカツキジャパン」を巡っては、6月末に日本バスケ協会から衝撃のニュースが発表された。米NBAのロサンゼルス・レイカーズに所属し、代表でエースとしての活躍が期待されていた八村塁の欠場が決まったのである。来季に向けて3年5100万ドル(約70億円)という大型契約を手にし、NBAにおける地位を確立するために大事な時期であることから、W杯が開催されるオフの期間にコンディション調整を優先する決断は致し方ないことだろう。

ただ、オーストラリア(FIBAランキング3位)、ドイツ(11位)、フィンランド(24位)が揃う“死のグループ”に入った日本(36位)にとって大きな痛手であることは間違いない。八村の不在が、代表の戦い方や選手選考にどのような影響を与えるのか。考察してみたい。

ホーバスHC 現有メンバーで「いいチーム作る」

「八村塁の欠場」が日本代表に与える影響は… 重要性増す“リバウンドと得点力”【FIBA バスケットボールワールドカップ2023】
ベンチ前で戦況を見つめるトム・ホーバスHC©︎Basketball News 2for1

6月から候補選手による合宿を開始した日本代表。7月8、9の両日には、静岡県の浜松アリーナに台湾(FIBAランキング69位)を招き、本番前では初となる国際強化試合を行なった。既にW杯出場を明言している渡邊雄太(NBAフェニックス・サンズ)はまだ合流しておらず、Bリーグで昨シーズンMVPに輝いた河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)も負傷の影響で欠場する中、若手や新戦力を含め、多くの選手が代表入りをアピールした。

1戦目は3Pを21本決めて108-86で勝利。海外組の馬場雄大や富樫勇樹(千葉ジェッツ)ら核となる選手が安定した活躍を見せたことに加え、特に目立ったのは、久しぶりに代表でプレーした富永啓生(米NCAA1部・ネブラスカ大学)と初めて代表ジャージをまとった原修太(千葉ジェッツ)だ。富永は5本中4本、原は7本中6本の3Pを沈め、オフェンスをけん引した。

2戦目はディフェンスの強度を高めて92ー56で2連勝した。この試合では、登録された13人のうち最年少20歳の金近廉(千葉ジェッツ)が2ブロック、2スティールと守備で躍動。トム・ホーバスHCが2021年9月に代表ヘッドコーチに就任してからアカツキジャパンに定着した吉井裕鷹(アルバルク東京)や西田優大(シーホース三河)も攻守で存在感を示した。

2戦目終了後、ホーバスHCは自身が男子代表を率いてから八村が一度も代表でプレーしていないことを念頭に「塁がいないのは残念ですが、彼とは一度も一緒にやってないから自分たちは何も変わってない。今のメンバーは負けたくない、勝ちたいという気持ちがすごく強くて、本当に雰囲気がいい。このメンバーでいいチームをつくります」と決意を示した。

“サイズ不足”をいかにカバーするか 豪は平均200cm超え

「八村塁の欠場」が日本代表に与える影響は… 重要性増す“リバウンドと得点力”【FIBA バスケットボールワールドカップ2023】
激しいディフェンスやリバウンドを存在感を発揮した金近廉©︎Basketball News 2for1

指揮官が言うように、これまで積み上げてきた3Pを多用する速いペースのオフェンス、前線からオールコートで仕掛ける激しいディフェンスを軸としたチームづくりに変化はない。ただ、世界の強豪と戦う上で八村の不在がチームに投げ掛ける課題は、極めて重い。まず分かりやすいのは「サイズ」である。身長203cmの八村が辞退したことで、貴重な高身長選手が1人減った。

22、23の両日にある韓国遠征の直前合宿に招集されるなど、代表争いのサバイバルに残っている200cm以上の代表候補は6人。208cmで帰化選手のジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)、207cmの渡邉飛勇(琉球ゴールデンキングス)、206cmの渡邊雄太(NBAフェニックス・サンズ)、204cmの川真田絋也(滋賀レイクス)、203cmのジェイコブス晶(NBAグローバルアカデミー)、201cmの井上宗一郎(越谷アルファーズ)である。ポジションにバラツキはあるが、この中で最終12人に残るのは3〜5人ほどだろうか。

例えば、日本がW杯本番のグループEで3試合目に戦うオーストラリアは現在候補に挙がっている18人のうち12人が200cmを超える。ドイツやフィンランドも同様にサイズが大きいため、日本にとってはいかにリバウンドを確保するかが課題となる。台湾との第2戦後、学生時代に4番(パワーフォワード)や5番(センター)を担ってきた196cmの金近はこう語っていた。

「日本はビッグマンの部分で高さがしんどいですが、その中でも体を当ててボックスアウトをしっかりやってくれています。あとはボールを取るだけなので、自分のような2番(シューティングガード)や3番(スモールフォワード)の選手がリバウンドに参加することはすごく大事だと思います」

日本はサイズ不足を補うためにオールコートプレスで積極的にスティールを狙うディフェンスを武器としているが、世界レベルのガードからボールを奪うことは容易ではなく、高身長の選手を抱えるチームはパスの中継もやりやすい。そのため、日本には相手の攻撃回数を限定するためにもディフェンスリバウンドへの高い意識がどの選手にも求められる。

「2番」が最大の激戦ポジション 3P精度とDF力が鍵

「八村塁の欠場」が日本代表に与える影響は… 重要性増す“リバウンドと得点力”【FIBA バスケットボールワールドカップ2023】
自らの武器である3Pを放つ富永啓生©︎Basketball News 2for1

また、八村の不在によるもう一つの大きな課題は得点力である。八村は体の強さや機動力を生かしたドライブのほか、3Pも高確率で沈めることができるため、苦しい場面でも個で打開できるだけの力を備えていた。が、今の代表候補に八村のようなサイズを持ち、同様なレベルでプレーができる選手はいない。

そうなると、ホーバスジャパンの3Pを多投するスタイル、そこに至る前のペイントタッチからのキックアウト、素早いトランジションなど、チームとして戦うための細部の精度をどれだけ洗練させていけるかが今後の鍵となる。

そんな中、現在最も競争が激しくなっているのが2番ポジションである。ホーバスジャパンの目指すオフェンスを体現する高い攻撃能力に加え、ディフェンスでも機動力のある選手、サイズのある選手のどちらにも対応できる守備力が求められる。馬場、富永、西田、ジェイコブス、比江島慎(宇都宮ブレックス)、須田侑太郎(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)というそうそうたる顔ぶれが並ぶ。

このポジションについては、ホーバスHCも選考に頭を悩ませているようだった。以下は、台湾との第2戦後の記者会見でのコメントである。

「マコ(比江島)は頑張ってシュートがよく入ってるけど、毎回同じようなプレーはやらない。それもマコぽいけど、彼は経験もあるし気持ちも強い。西田は(試合前の)合宿のMVP。いい仕事をした。富永みたいに3Pは入らないけど、ディフェンスができる。彼がどれだけできるかはまだ分からないけど、1番(ポイントガード)も勉強中です」

さらに続けた。

「比江島も少しPGをやりました。彼はペイントアタックとフィニッシュが上手。けど、西田の方がディフェンスはいい。あと、須田はこの1年間すごくいい仕事をしたけど、この合宿ではそんなにシュートが入らなかった。でも、彼はディフェンスがよくできる。本当に、各選手にプラスマイナスがある。今は答えがないです。もうちょっと見たいですね」

個の能力から考えて、馬場と富永は代表入りの可能性が極めて高い。この2人に加えて、指揮官の口から名前の挙がった3人の中から誰が選ばれるのか。はたまた、2番ポジションの中で最も高さがあり、6〜7月にあったU19W杯で活躍したジェイコブスがサプライズでロスター入りするのか。注目したいポイントだ。

体調不良に見舞われた渡邉飛勇 韓国遠征でアピールできるか

「八村塁の欠場」が日本代表に与える影響は… 重要性増す“リバウンドと得点力”【FIBA バスケットボールワールドカップ2023】
代表選考において渡邊飛勇のライバルとなる川真田絋也©︎Basketball News 2for1

最後に、琉球ゴールデンキングスからただ1人、代表入りの可能性を残している渡邉飛勇にも触れたい。台湾戦では初戦の当日に体調不良となり、2戦とも欠場したが、ホーバスHCが「飛勇はスターティングメンバーに決まってたんです」と明かした通り、存在感は大きい。韓国遠征の直前合宿にも招集されており、八村の辞退でサイズが下がった代表チームにあって、渡邉の高いリバウンド力とブロック力はより価値を増していると見ていいだろう。

台湾戦での取材では残念ながら本人に直接話を聞くことはできなかったが、渡邉と代表入りを争う川真田に「渡邉との違いをどこで出したいか」を聞いてみた。

「飛勇も3Pが得意な訳ではないけど、走れる。自分とプレースタイルがよく似ています。仕事としてはセンターとして守って、ブロックして、リバウンドを取ることですし。ただ、彼はダンクに向かう意識が強く、ポテンシャルがすごいある。自分も飛勇と違うところを身に付けようとして、3Pの練習をしたりしています」

激しいサバイバルレースが続く中、チーム内での役割を全うしながら、それぞれが自身の個性を磨いて最終12人のロスター入りを目指しているアカツキジャパン。渡邉もしっかりと韓国遠征で結果を残し、アピールしていきたいところだ。

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