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長嶺 真輝

長嶺 真輝

沖縄バスケ界の“レジェンド”伊佐勉HCの新たな挑戦 新チーム・B3福井で担う「文化づくり」

沖縄バスケ界の“レジェンド”伊佐勉HC
福井ブローウィンズのHCに就任した経緯を語る伊佐勉氏=7月下旬、沖縄本島中部

興南高校時代に全国選抜で大会ベスト5に選出され、指導者になってからは琉球ゴールデンキングスでヘッドコーチ(HC)を務めるなど、沖縄バスケットボール界の“レジェンド”として多くの県民に愛される伊佐勉氏(53)=宜野湾市出身、専修大学出身=が新たな挑戦に足を踏み出した。

今月、2023-24シーズンに向けてプロバスケBリーグ3部(B3)に新規参入する福井ブローウィンズの初代HCに就任。日本バスケ界の一線で磨いてきた手腕を生かし、福井の地からBリーグに新たな“旋風”を巻き起こす決意だ。

新チームが始動する前に、沖縄でインタビューに応じてくれた。

目標は「最短でB1昇格」 GMらの熱意で決断

昨シーズン、長崎ヴェルカが達成したように、B3から2シーズンでの「最短でB1昇格」を目指す福井。細谷将司(前シーホース三河)や満田丈太郎(同京都ハンナリーズ)などB1チームで実績のある選手を数多く獲得し、戦力を整えている。

有力プレーヤーをまとめる指揮官として白羽の矢が立ったのが、昨シーズン途中にサンロッカーズ渋谷(SR渋谷)のHCを退いていた伊佐氏だった。キングスでbjリーグを2度制し、SR渋谷では2020年に天皇杯全日本選手権で優勝するなどコーチとして輝かしい功績を残してきた伊佐氏が、新規参入チームのHCを引き受けた理由は何だったのか。

「オファーの電話がきた3日後に、すぐに球団のGM、社長、オーナー企業の方の3人が沖縄まで飛んで来て、直接HCの打診をしてくれました。自分が何度か優勝を経験していることや、キングスで一からチームづくりに関わった経験を評価してもらい、新規チームとして『勝ちながら文化をつくっていきたい』という話をされ、とても熱意を感じました」

SR渋谷で共闘した渡辺竜之佑(コザ中学ー福岡第一高校ー専修大学出身)や田渡修斗もチームが獲得し、自身のスタイルを熟知する選手が加入したことも背中を押したという。

キングスで得た“カルチャー構築”の経験

沖縄バスケ界の“レジェンド”伊佐勉HC
これまでのコーチ人生を振り返る伊佐氏

オファーの時点でチームの「文化づくり」を求められたということだが、確かに一から球団のカルチャーを構築していく福井にとって伊佐氏はこれ以上ない人材だろう。それはキングスの球団創設初年度にアシスタントコーチに就き、練習場所や試合会場を転々としたりするなど、厳しい環境を実際に乗り越えてきた経験があるからだ。

「キングスの創設当初は、沖縄出身の自分が県内のどこに体育館があるかが分かるし、体育館の職員の人も知っていて融通が利くから僕が使用予約を取ったり、友人の氷屋さんに安く氷を譲ってもらったりもしていました。チームは練習するために4、5カ所の体育館を転々としていて、その度にチームのバン(商用車)にクーラーボックスや練習資材を詰め込み、練習場所に着いたら選手とスタッフが一緒に道具を運び出していました」

その経験は、福井でも糧になると見る。

「マネージャーが荷物を運ぶことや選手がバスケをすることは当たり前ですが、それを当たり前と思わず、お互いにリスペクトの心を持たないといけない。ブローウィンズでも体育館を転々としながら練習をするので、チームの文化を構築する上で、福井でもそういったところから取り組んでいかないといけないと考えています」

小さな離島県で立ち上がったキングスは昨季、プロリーグ参入16シーズン目にしてついにB1で初優勝を達成。関東圏以外の地方のチームが戴冠するのは初の快挙だった。桶谷大HCが横浜アリーナでの優勝インタビューで「昔ね、むーさん(伊佐氏の愛称)が言ってたんです。沖縄の皆さん、おめでとう!」と語ったシーンは、テレビ中継で見ていたという。「私の名前を出した時は『なんでやねん(笑)』と思いましたけど、沖縄県民として素直にうれしかったですね」と柔らかい表情で振り返る。

沖縄はもともとプロスポーツの文化が根付いておらず、お金を払って試合を見る文化が希薄だったが、プロ野球やJリーグのチームがない福井県も同じような土壌だという。しかし、平日ゲームでも沖縄アリーナに5千人以上の観客を集めるまでに成長したキングスを見ると、「福井でもブローウィンズが根付いていくチャンスは十分にあると思っています」と前向きに語る。

「福井県民が誇れるチームに」速い展開描く

コート外でのチームの在り方にも思いを巡らせるが、やはり「勝たないとなかなか応援してもらえない」と結果の重要性も強く認識している。SR渋谷では頻繁に選手交代をしてプレーの強度を高く保ちながら、前線からプレッシャーを掛けて速い展開のオフェンスにつなげる戦術を武器としていた。福井は得点力のあるシューターを多く獲得しているが、現状ではどのようなチームづくりを思い描いているのだろうか。

「外国人選手も含めてシュートがうまい選手が多いので、ある程度点数は取れると思います。あとは厳しいディフェンスでしっかり守り、ファストブレイクにつなげて走る展開をつくっていきたい。福井県の方々が、お金を払ってでも見たいと思えるような魅力のあるバスケを表現したいです」

B3はB1と違って水曜日の平日ゲームがない。ただ、試合が土日のみというレギュレーションはbjリーグ時代と同じのため、「土日に合わせたコンディションづくりは当時の経験が生きると思います」と不安はないようだ。

18チームがリーグ戦を行うB3の2023-24シーズンは10月6日に開幕し、来年4月8日までのレギュラーシーズンで52試合ずつを戦う。その後に上位8チームがトーナメント方式のプレーオフを実施し、B2ライセンスを獲得した上位2チームがB2に自動昇格する。福井は10月7日、岐阜スゥープスをホームの福井県営体育館に迎えて初戦を行い、記念すべき球団の初シーズンが幕を開ける。

北陸地方の“雪国”である福井県。真反対の南国で生まれ育った伊佐氏は、人生で初めて豪雪地域に住むため「正直、雪には相当びびってます」と若干萎縮ぎみだが、チームづくりに関しては「福井県に根付き、福井県民に愛され、福井県全域の皆さんに応援してもらえる、誇れるチームになれるよう日々努力していきます」と熱量たっぷりに語る。

新天地で壮大なミッションに挑む“むーさん”が、故郷と同様に福井の地でも多くの人から愛される存在となるよう、沖縄からも熱いエールを送りたい。

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