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全国子ども陶芸展で沖縄初の総理大臣賞。12歳の陶工の一貫したテーマは「戦争と平和」
全国の小中学生を対象にした陶芸作品のコンクールで、糸満市の中学1年生、新里采恩(さいおん)さんが最高賞となる内閣総理大臣賞を受賞した。
地元の糸満市は、沖縄戦の激戦地となった場所。戦争と平和をテーマに作品作りを続ける采恩さんが伝えたい思いとは。
陶芸家の両親の影響で7歳から作品作り
新里采恩さん
「木とか機械とは違う点は、手だけを使って自分の想いを表現できます。自分の手を使って表現できるのがすごいなと思います」
慣れた手つきで土をこねるのは、糸満市の三和(みわ)中学校に通う新里采恩さん。陶芸家の両親の影響で、幼い頃から土に触れながら育ってきた。
父親の義和さん
「彼の上にきょうだいが4人いますが、4人とも毎年コンクールに応募していて、上のお姉ちゃん2人は(当時の最高賞)文部科学大臣賞を獲っているんですよ。お兄ちゃんは茨城県知事賞まで取っています」
兄と姉の背中を追い始めた采恩さんは、すぐに頭角を現し、今年、4回目の出展にして最高賞に輝くまでになった。
新里采恩さん
「賞がとれて驚きました。たくさんの人に見られていて、やっぱり頑張ってよかったな、頑張ったかいがあったなと思いました」
兄弟の影響で僕もやりたいと思った
采恩さんの作品には一貫したテーマがある。采恩さんが、自宅から案内してくれたのは…ヒンプン(沖縄の伝統的な住宅に設置された堀)
新里采恩さん
「ここに一つと、ここにも。それから、ここに大きな弾痕があって、小さなものがいくつもあります」
1945年の沖縄戦で激戦地となった糸満市、このヒンプンにも戦争の爪痕が残っている。
采恩さんが一貫して作品のテーマとしているのは「戦争と平和」だ。
新里采恩さん
「蛇が作った巣の穴かなと思ったのですが、周りがまんまるで奥もちゃんと人工的な穴という感じで…銃痕だったんですよ」
沖縄戦で受けた弾の痕が残るヒンプン。2022年の作品は、住宅を戦火から守った塀の姿からアイデアを得て作られた。
新里采恩さん
「きょうだいの影響です。お兄ちゃんやお姉ちゃんが、戦争と平和について世界中に広めているのを見て、僕も沖縄戦についてやりたいなと思ったのがきっかけです」
采恩さんは、沖縄戦の記憶を色濃く残すヒンプンを通して、自らが感じた悲惨な歴史を表現し、見る人にも戦争と平和について考えてもらいたかったと話す。
新里采恩さん
「このヒンプンは銃を撃たれても崩れずに立っているので、まだ戦争が身近にありますよっていうのと、いま世界中でも戦争が起きているので、そういう戦争が終わってほしいなという思いを込めました」
この作品は陶芸展で、二番目の賞にあたる茨城県知事賞を受賞した。
裏と表を作ったのは楽しい記憶や悲しい記憶あるから
2022年に続き、2023年もヒンプンを題材にした采恩さん。今回は、ヒンプンが語る歴史を作品に落とし込んだ。
新里采恩さん
「おんぶしている親子が両手を広げている姿です。親の方は、こうして両手を広げて、上の子どもの方も少し短いので平和の上の部分表しています。できるだけ幸せそうに描きました」
幸せそうな親子の姿と、永遠に続く幸せという花言葉を持つ花で、ヒンプンが見た平和の記憶を表現。
反対の面には、倒れる人と天国へと昇っていく人の姿で悲しいという文字を描き、戦争の記憶を表した。
新里采恩さん
「裏と表を作ったのは、このヒンプンを最初に見た時に、このヒンプンにも楽しい記憶や、悲しい記憶が詰め込まれているのかなと思ったからです」
父親の義和さん
「いろいろテスト焼きとかもしているんですよ。土も何種類も使っているものですから、これの焼き具合とかも見ながらやっています。2023年は、また少し彼独自の表現が加わったと思います」
新里采恩さん
「焼くと土が何割縮むとか、そういうのを計算して、本当にぎりぎりに攻めました。ていねいに20時間焼いたんですよ。それで納得いかなかったので、次は12時間。もう1回微調整して、また窯で12時間本焼きしました」
そしてできあがった作品は、作品としての表現がテーマと上手く融合していて、とても存在感のある作品だと高い評価を受けた。
1200点を超える作品のなかから、最高賞に選ばれた。
采恩さんは、今後も戦争と平和をテーマに、作品作りに取り組みたいと意気込む。
新里采恩さん
「僕が沖縄出身なこともあって、沖縄はやっぱり戦争が激しくて、たくさんの犠牲者が出ました。その悲惨さや、もうこんなことが起きてほしくないという気持ちがたくさんありましたので、それを作品に込めて全国に流せたらいいなと思い、そういうテーマでやっています」
若き陶工の眼差しは、すでに次の作品作りに向けられている。
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