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長嶺 真輝

長嶺 真輝

バスケW杯が沖縄アリーナにもたらしたものは? 蓄積された「名場面」が生む新たな価値

バスケW杯が沖縄アリーナにもたらしたもの
日本戦の前、多くのファンで賑わう沖縄アリーナ正面

沖縄アリーナに、また新たな名場面が蓄積された。

史上初の3カ国開催となったFIBA男子バスケットボールワールドカップ(以下、W杯)の予選ラウンドが8月25日〜9月3日、沖縄アリーナで開催された。日本代表は欧州の強豪フィンランドから金星を挙げるなど3勝2敗で大会を終え、史上初めてW杯で勝ち越した。「アジア6カ国の中でトップ」というパリ五輪出場の条件を満たし、実に48年ぶりに自力で五輪行きの切符を掴んだ。

日本の“ホームコート”となった沖縄アリーナには試合の度に沖縄県内、そして全国から多くのファンが駆け付け、応援で声を枯らした。とてつもない熱気が充満し、選手たちの背中を押し続けた。

日本が世界大会で初めて欧州勢を倒した瞬間、パリ五輪の出場を決めた瞬間。その場に立ち会った観客や、テレビ画面を通して目の当たりにした人たちにとって、忘れられない思い出の一つになっただろう。日本バスケ界にとって歴史的な大会となった今回のW杯は、沖縄アリーナに何をもたらしたのか。考えてみる。

響く唐船ドーイと指笛の音 渡邊雄太「最高の雰囲気」

バスケW杯が沖縄アリーナにもたらしたもの
カーボベルデとの最終戦の開始前

9月2日、夜。

三線と太鼓で奏でられた唐船ドーイが流れる会場に、総立ちの観客による大歓声と甲高い指笛の音が鳴り響いていた。コート上では、選手やスタッフが抱擁したり、ハイタッチしたりして喜びを爆発させている。続いて映画SLAMDANKの主題歌「第ゼロ感」が流れると、観客が曲に合わせて「オーオオオーオー」と叫び、興奮のるつぼと化した。

これは、日本代表がW杯の最終戦となったカーボベルデ戦に勝利し、パリ五輪の出場を決めた直後の沖縄アリーナの様子である。

この瞬間に至るまで、沖縄アリーナは日本代表のホームとしての役割を見事に果たした。9日間の間に行われた日本の5試合では盛大な「ニッポンコール」「ディフェンスコール」が常に止むことはなく、相手チームのフリースローの際には地鳴りのようなブーイングが鳴り響いた。

エースの渡邊雄太は、9月3日に沖縄市内であった記者会見でこう話していた。

「盛り上がり方が本当にすごかった。僕たちへの歓声もそうだし、沖縄のお客さんが相手に敬意を持ってブーイングをするとか、本当に米国に近い雰囲気を感じました。(富永)啓生とも『ここのお客さんのブーイングは米国と一緒だね』という話をして、最高の雰囲気でやらせていただきました」

本格的なスポーツエンターテインメント施設として2021年3月に開業した沖縄アリーナは、これまでの体育館のように競技を「やる側」ではなく、「観る側」に主眼を置いてつくられた施設だ。そのため、どこからでもコートが見やすいように客席がすり鉢状に配置されている。臨場感を高めるその形状は、熱気や興奮を増幅させる効果も担う。

米国の本場NBAでプレーする渡邊の言葉は、沖縄アリーナが世界に通用する施設であることを示しているようだった。

より多くの人の「特別な場所」に

バスケW杯が沖縄アリーナにもたらしたもの
沖縄入りした際、那覇空港で盛大な歓迎を受ける日本代表の選手たち

先述の興奮に包まれた沖縄アリーナの雰囲気は、以前にも似たような場面に遭遇したことがある。

Bリーグ2020-21シーズンのセミファイナル第2戦、島根スサノオマジックと対戦した琉球ゴールデンキングスがドウェイン・エバンス(現・広島ドラゴンフライズ)のブザービーターで勝利し、球団初のファイナル進出を決めた瞬間である。その時も観客が総立ちとなり、割れんばかりの大歓声がコートを包み込んだ。

こういった名場面の蓄積は、間違いなく沖縄アリーナの価値を高めていくものになる。

沖縄アリーナが完成する前の話だが、キングスの創設者で、チームを運営する沖縄バスケットボールの前社長である木村達郎氏にインタビューをした際、ホームアリーナをつくる意義についてこんな話をしていた。

木村氏が米国のボストンにあるエマーソン大学に留学していた頃に現地のNBAアリーナや野球メジャーリーグのスタジアムを訪れた際、往年の名選手のプレーや名場面、そしてその瞬間を目の当たりにした人たちの思いなど、重厚な歴史がその施設に宿っていることを感じた、という趣旨の内容だ。そこには往年の名選手の写真なども飾られ、胸の高鳴りを感じたという。

アリーナは観戦者に特別な“体験”を与え、その思い出と共に記憶されることで、その人にとって特別な場所になる。そして名シーンを重ねることで、来たことの無い人が「行ってみたい」と思う憧れの対象になる。日本の最終戦では、全国で推計3211.9万人(ビデオリサーチ社調べ)もの人がリアルタイムで視聴したという今回のW杯を経て、木村氏がスポーツエンターテインメントの本場米国で感じたような高揚感を、沖縄アリーナを訪れる際に抱く人はさらに増えたのではないだろうか。

キングスが掲げる「沖縄を世界へ」強烈に後押し

バスケW杯が沖縄アリーナにもたらしたもの
沖縄アリーナで熱戦を繰り広げた8カ国の国旗

沖縄アリーナにとってはもう一つ、W杯による大きな恩恵がある。それは、存在が世界に認知されたことである。

沖縄で予選ラウンドを戦ったのはドイツ、オーストラリア、フィンランド、スロベニア、ベネズエラ、ジョージア、カーボベルデの7カ国。選手、チームスタッフ、メディア関係者、ファンらが来県したが、どの国もW杯がなければ一生沖縄に来ることがなかった人も多かっただろう。

さらにスロベニアのルカ・ドンチッチやドイツのデニス・シュルーダー、フィンランドのラウリ・マルカネンなどNBAのスター選手も多く出場したことで、海外で沖縄ラウンドの試合を視聴した人も多かったはずだ。実際、筆者がフィリピン・マニラで行われている決勝トーナメントを現地取材している際に出会ったアイルランドの記者は「W杯の試合は全部見ている。日本の富樫はいい選手だね」と語っていた。

沖縄アリーナをホームコートとするキングスは、今シーズンから「沖縄を世界へ」という壮大なテーマを掲げている。今月には台湾のチームと沖縄アリーナでプレシーズンマッチを行い、将来的にはNBAのチームを呼ぶ構想もある。「W杯を開催したことがある」という実績は、間違いなくキングスの活動を後押しする要素になるだろう。

まだ開業からわずか2年半。まるで“生き物”のように急成長を続ける沖縄アリーナは、これからも多くの名場面を生み出し、さらに価値を高めていくに違いない。

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