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アクターズスクールが志す、時を隔てても変わらないもの。牧野アンナさんインタビュー・前編【アクターズLog.】
数々の実力派アーティストを輩出した「沖縄アクターズスクール」。その第二幕を彩る、新たな沖縄の才能・B.B.WAVES jr.メンバーを追う青春密着応援番組『アクターズTune!』が毎週土曜あさ10:55〜絶賛放送中だ。【アクターズ Log.】は番組と並走しながら、時には番組内容を深掘りし、時には違った視点からのアプローチで、世界を目指すフレッシュな才能とそのインストラクターたちを立体的に記録する試みである――。
今回はアクターズスクールの中核を担う牧野アンナさん(COO兼プロデューサー)にインタビューを行った。新生アクターズが動き出してからのB.B.WAVES jr.の成長を始め、令和のJ-POPシーンとその中で発揮できるアクターズの強み、リズムとビート、そして音楽への意識の向け方などなど、1時間に渡ったインタビューの内容を前後編でお届けする。
想定以上の成長スピード
――5月に再始動して、レッスンを重ねてきています。これまでメンバーの皆さんに教えてきて、どんな成長が見えて、何を感じていますか。
「とにかく成長が速いので、自分が想定している以上のスピードで色んなことを結構詰め込んでる感じがしてます。パフォーマンスに対する意識やモチベーションなどの精神的な部分が1番大きいかなと思います。
始まった時はアクターズスクールを知らないでオーディションを受けている子たちがほとんどで、全盛期を知らない。だからアクターズスクールがどんなところかっていうのはピンときてなくて。中には、ISSAに憧れてるとか、安室奈美恵ちゃんが出たところみたいなフワッとしたイメージはあると思うんですけど。どんなレッスンしてるのかとか、そういうことは全然わからない状態で親に勧められて、習い事の一環みたいな感じで来てる子たちが多いんです。
昔のアクターズだと、オーディションを受けに来る子たちは当然のようにプロになりたくて、厳しい歌とダンスのレッスンがあるっていうことを知った上で来てました。今回はデビューとか、ましてや世界を目指すなんてことは考えてなかったので、先ずはダンスを好きになって「その道に進みたい」「本気でプロになりたい」という風に気持ちを動かしていかなきゃいけなかった。
そういう意味では、今のところは皆が順調にプロになりたいチームとして、今まで世の中にないものを作ろうとしてるんだというイメージが徐々に出来てきて、そこに向かって進み出しています。正直言って、こんな早い段階でここまで来るとは思ってなかったです」
――J-POPや音楽業界を取り巻く状況はだいぶ変わって、ヒットする曲の傾向や聴かれ方だったり、歌とダンスでのパフォーマンスするアーティストの数も、それこそアクターズの影響もあってかなり増えました。そんな中で、今アンナさんが感じている変わった部分と、逆に変わらない部分て何でしょうか。
「今の芸日本の芸能界の中で歌って踊るという部分に関して言うと、若い子たちが「格好良い」「こんな風になりたい」って思うような、皆が目指すようなグループがやっぱりK-POPのグループになっちゃうと思うんですね。
大人数グループで素人の女の子たちをなるべくたくさん集めて、その中で好みの子を見つけるとか、その素人感を売りにするというか、握手の回数でCDを売るようなシステムが一旦確立されてしまったところがあって、育成の必要性が薄まってしまったと感じています。育成って時間もお金も労力もかかるので、それをしないでCDやグッズが売れるのであればそっちの方がいいよね、という傾向があって。今、本気で「歌って踊る」っていう部分がかなり置いていかれてるんじゃないかなと感じているんですよ。
さらに現在は物凄い勢いで芸能界が変わり始めていて、SNSの発達ももちろんあるし、テレビももう昔ほど力を持たなくなってしまった。そうすると、今度は芸能プロダクションに入って、お金をかけてプロモーションして売っていくというシステムが崩壊してるというか。それで若い子たちの芸能界への憧れみたいなものもすごく薄れてきていて、今はもうYouTuberで自力で有名になれるじゃんみたいな。それこそ、ちょっと面白いことをすれば、バズって何百万再生になるわけですから。
そんな状況もあって、子どもたちが自分の夢とか憧れみたいなものをエンターテイメントの世界に持って、そのために仲間と切磋琢磨して頑張るなんて、もうそんなことは求められていないんじゃないかと感じていて、アクターズスクールはもう無理だってずっと思ってました。
だから再始動すると決めた時は、アクタースクールが大事にしてきた“ism”は変えずに、その一方でシステムは変えていかないと通用しないと思いました。その意味で、今回はプロダクションとしてのアクターズスクールにもやっぱり重きを置きたいと考えているんです」
「バラバラだけど、一体感がある」という形
――今現在、アクターズスクールとしての強みを発揮できるとしたら、どんなことが挙げられるのでしょうか。
「今流行っている色んなグループを見た時に「もしかしたら今だから勝負できるのかも」と思ったことがあって。今の歌って踊るグループは“揃えていく美学”みたいなものがすごく強くて、K-POPはまさにそれが主流なんですけど、全部振り付けをつけて全部完璧に揃えていって容姿端麗で、身長や髪型も全部同じ方向性にしていくような。
グループでも、男女問わずどのグループが出てきても、さっきも出てたような気がする…という状態なので、敢えてバラバラにしてみるか、と。色んな年齢の子がいたり、色んな個性があって、体型についても「痩せろ」とかそういうのも言わない。どんな体型でもその子が自身の魅力で、踊れて歌えてたら全然それでいいじゃん、と思って。
高校生の女の子たちが歌った後に小6の男の子が出てきたり、キラキラした子たちがいたり、男の子たちのグループがあったり、かと思ったらソロで女優もできる子がいたり、でもその子たち皆が集まった時には、バラバラだけどちゃんと1つにまとまってる、みたいな形が出来上がって、それで売れたら最高に面白いなって思うんですよ。
だから、今はどういう音楽をこの子たちにやらせるのか、どういう振り付けでどういう動きなんだろうかっていうのを、色んなことを試しながら、作ってる最中です」
――「バラバラだけど一体感を」というのはレッスンでも結構繰り返し強調していましたね。そんな中で、重要視している個性、自分を解放している表現というのは、どういうものなんでしょうか。
「本当の意味でメンバーの個性が出てくるのはまだ先だと思います。今はそれぞれが、まず自分の持ってる表現やパワーの最大値を上げていく作業中。表現するにあたっては、瞬間的な爆発力がどれくらいあるかが非常に大事で、そのためには音に対して感じる力も含めて、感性をもっともっと磨いていかなきゃいけない。絶対にそれぞれ違う感性を持ってるはずなんです。好きなアーティストも、良いと思う音楽も、心震える歌詞も、それぞれに違うと思います。「自分がどういうものに感じるんだろう」「どういう瞬間に気持ちが爆発するんだろう」ということを、常日頃から意識してるとどんどんいろんなことを感じられるようになってくる。
例えば音楽はもう、今はほとんどの人たちが移動中とかにも聴いてるわけじゃないですか。そうすると、プロフェッショナルになるんだったら音楽の聴き方が普通の人たちと同じじゃ駄目で。最初は一生懸命聞かないと入ってこないことにも気を配らないといけないんです。ドラムの音はこうなってるんだ、打ち込みでこの音を出してるんだとか、もっと言えばそれが生のドラムだったらどんな音になるんだろう、って想像を働かせる。
あるいは、こんなストリングスがこういう風に入ってるんだとか、アレンジ1つずつの音を意識して聴いてみたり、あとはボーカルの声や息遣いに集中してみたりとか、ただぼーっと音楽を聴くんじゃなくて、生活レベルでもアーティストの感覚になってもらいたいんです。そうやって音が入ってくるようになると、自分の凄く好きな音がだんだんと分かってきます。すると、歌ったり踊ったりしてる時に、自然と好きな音をとって、それがパフォーマンスに生かされるんですよ」
感情を爆発的に表現するための感性
――音楽を聴いたり、享受するための“解像度”を上げるということですね。
「そうそう。例えば、(三浦)大知のパフォーマンスを見てた時に「大知、これ何の音とってんの!?」って時があって。私には聴こえていない音が大知には聴こえてて「そこでとってるんだ!」みたいなことがあったんです(笑)。
彼のパフォーマンスを見てると、フッと力を抜いてるところから突然爆発的に感情を放出するような場面でも、ちゃんとそれが動きとして表現出来ているし、そして声に情熱を乗せられる。それは彼の感性が音に対して凄く鋭くなっていて、「俺のこの気持ちを表現するためには、体が反応できないといけない」という考えが強いと思うんですよ。
音をとりたいのに体が動かない、というもどかしさを感じるからこそ彼は追求を止めない思うので、そういう感覚を持ったプロフェッショナル集団として今のメンバーを育てていきたい。そのためには、私がやった通りの振り付けを踊ってくださいって教えたとしたら絶対そうはならないんです。
いかにあの子たちがプロとして音楽を好きになって、音楽の中にどっぷり入っていきたいと思えるようになるか。そこまで持っていきたい。「アクターズスクールは教えない」っていうのはそういうところがあるからなんですよね」
――確かに音楽の聴き方、リズムのとり方は自分の体感でしか得られない部分が大きいですからね。リズムの感じ方で言えば、音で遊べるようになるとダンスで文字通りつま先から頭までの全身で表現できますもんね。
「そうなんすよ。もう究極までいくと、自分の体のパーツのどこを使って表現するのかをコントロール出来て、本当に指だけで表現できるわけです。それこそマイケル・ジャクソンもそういうことをやっていたじゃないですか。
余計な動きをあまりせずに、首の動きだけで格好良いとか。そういう表現方法っていくらでもあって、自分の身体1つで何かを作り出せるし、生み出せる。それは感性が伸びることに伴って「もっと思い通りに動けるようになりたい」「もっと思い通りに声が出ればこうしたいのに」っていう気持ちが子どもたちに芽生えることが大事で、そうなってしまえばもう自分で研究しだすと思うんですね。
自分の時間で歌って踊ってそこまで持っていかないと、週3回のレッスンだけで練習をやってるぐらいでは世界に通用するプロにはならないので」
地面を踏みしめて「リズムの流れ」を生み出す
――レッスンを何度か見学する中で、やはりリズムとかビートへの意識を非常に強く感じました。アンナさんの「ビート打って」という言葉遣いにも、自分でリズムを生み出す、自分がリズムのエンジンになるみたいな感覚があったと思うんですが、その辺りについてはどう考えていますか。
「リズムとビートに関しては、旧アクターズスクールで私の父が凄く研究していたんです。黒人アーティストの人たちが、歌声が出た瞬間からビートにのっていて、喋りもリズミカルでラップみたいになってるのって、なぜなのか。普段の生活とか身振り手振りが全部が音楽やダンスのようになっているあの人たちに、どうやったら日本人が近づけるのかということを考えていたんです。
そういうアーティストの人たちの映像を私も父と一緒にビデオでスローモーションにして、何でこんな風に動いてるのに頭が一切ブレてないんだろうとか、色んな所を観まくってた。そしたら、あの人たちは意識的にリズムを刻まなくても、拍子をとらずに止まっていても、リズムがずっと自分の中に流れているんです。
一方で、私たち日本人の生活習慣の中にはそんなリズムは無いわけです。日本の音楽って基本的には頭打ち(表拍にアクセントがあるリズム)の世界なので、歩き方や喋り方も全然、黒人の文化みたいなリズムとは違うので、止まってても身体にリズムがいつでも流れるように、もうとにかく叩き込むしかないという所からレッスンを組み立て始めたんですよ。
ビートを打つ、っていうのも自分で生み出すというよりは、地面を踏み鳴らしたその弾みでバネを生み出すというか、踵をついてからもう一歩踏み込んだその反動で、リズムとかビートの流れを作り出すイメージ。その作り出したエネルギーを、歌声がブレないように上半身を上手く使って受け流して消していくという動作。
それを黒人の人たちは、当然のようにやってるんです。だからどれだけ激しくビート踏んでたり下半身を動して足さばきをやっていても、声も頭の位置もブレないのは、そういうことなんだと分かってきて、先ずはそんな身体を作っていかないといけないと考えたんですよね」
(後編に続く)
※2023年10月13日15時半ごろ公開予定
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