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長嶺 真輝

長嶺 真輝

“ハンドボーラー × 高校教師” 生徒の存在を力に変える琉球コラソン・髙橋友朗「諦めない姿を見てほしい」

球コラソン_髙橋友朗選手
興南高校で数学の教師をしながら、琉球コラソンでプレーする髙橋友朗

日本ハンドボールリーグ(JHL)の琉球コラソンに、プレーヤーと高校教師という「二足のわらじ」を履く選手がいる。豊富な運動量や高確率で決めるシュートが持ち味の髙橋友朗(25)だ。

所属3シーズン目。若手の一人として主力の地位を確立しながら、コートだけでなく興南高校の教壇にも立ち、数学を教えている。もともと教師を志していたこともあり、日々学生と接する中で「元気をもらえる」とやりがいを感じているようだ。

生徒が観戦に来ることも多い。「諦めない姿を見てほしい。より『自分以外のために』という思いが湧いてきます」。学生たちの存在を“力”に変え、コートで躍動している。

「不完全燃焼」で終わった大学時代 一念発起し沖縄へ

球コラソン_髙橋友朗選手
シュートを決めて吠える髙橋

岩手県出身。中学校まではバスケットボールをやっていたが、ハンドボーラーだった父の影響もあり、地元の花巻北高校でハンドボールを始めた。バスケで培った脚力を生かし、教員免許を取得するために進んだ秋田大学でも競技を続けた。

転機は大学2年の時。大学のチームで出場した日本選手権の初戦で山梨県の甲府クラブと対戦した。その試合を山梨県出身であるコラソンの水野裕矢CEOが観戦していて、左利きのライトバックとして活躍する姿が目に止まった。翌日にあった2回戦後に「興味があれば」と勧誘を受け、名刺をもらった。

その時はあまり関心が湧かなかったが、大学4年になったタイミングでコロナ禍となり、大きな大会は全て中止に。「不完全燃焼で大学が終わってしまった」と悔しさが残った。そこで一念発起。水野氏の名刺の存在を思い出し、すぐに連絡を取って「チャレンジしたいです」と伝え、トライアウトを経て2021年にコラソンへ加入した。

入団と同時に初めて沖縄に来て、飲料品の営業の仕事をしながら選手活動を始めた。当時は自身と同じく岩手県出身、秋田大学卒で、医師とハンドボーラーを両立していた中村彰吾さんが所属していて、事前に沖縄での生活の様子も聞いていたため、不安も和らいだという。

”2ポジション”こなす貴重なレフティ

球コラソン_髙橋友朗選手
高く飛び上がってシュートを狙う髙橋

沖縄はハンドボールが盛んなため、コラソンはリーグでもトップクラスの観客動員数を誇る。地元メディアの扱いの多さやスポンサーの数も含め、初めは「こんなにホーム感があるのか」と地域の熱量に驚いた。小柄な選手が多く、人とボールが動くスピード感のあるチームスタイルについては、自身も身長180cmとリーグでは大きい方ではないため「自分に合っている」と感じた。

チームに左利きが少なく、1年目こそ右サイドでのプレーが多かったが、徐々に実力が認められて2シーズン目途中からは本職であるライトバックで出場する機会が増えた。もともとスピードを武器としていたが、学生時代から体重を10キロほど増やしてパワーも向上。「シュートスピードが上がり、相手ディフェンスと接触した状態からのシュートやパスも少しずつ安定していきました」と振り返る。

今シーズンはライトバックで190cmのパン・エンジャー、右サイドで180cmのウー・ユクシーという、自身と同じ左利きの選手が多く加入した。2人とも能力は高いが、その中で高橋もしっかりプレータイムを獲得し、存在感を示している。オフェンスでは速攻から点を挙げることも多く、ディフェンスでは積極的に高い位置からプレッシャーを掛ける。

1年目での経験を生かして右サイドでコートに立つ機会も多く、「チームの都合に合わせて二つのポジションのどちらでも出られることは、自分にとってもチームにとっても大きいと思います」と自信を見せる。

勝利の翌日、教室で生徒から「おめでとう!」

球コラソン_髙橋友朗選手
興南高校で数学を教える髙橋

一方、興南高校で教師の仕事をするようになったのは、今春から。コラソンが運営するU-12、U-15のユースチームでコーチをしている時に興南の関係者と繋がり、「数学教員が足りないからぜひ来てほしい」と声を掛けられたという。

最初は冗談半分で聞いていたが、その後に正式に依頼を受けた。コラソンに入団する前は教員になることを目指していたため、「この機会に教育現場を経験させていただけるのは嬉しい」と受けることにした。興南の男子ハンドボール部は過去に全国3冠を2度達成した強豪なため、身近で見ることで刺激も多いと感じた。

今はコラソンの練習、試合をこなしながら、週5日、高校1〜2年生に数学を教えるために教壇に立つ。ハードなスケジュールで練習開始前に疲労が残っている時もあるが、「生徒はみんな元気でおもしろいので、やっぱり元気はもらいますね」と活力の源になっている。

11月下旬、コラソンが今シーズンのホーム初勝利を挙げた翌日には、教室に入った瞬間に生徒たちから拍手が湧き起こり、「おめでとうございます!」と祝福を受けた。試合を観戦に来たり、学校で「先生、何点取ったんですか?」などと聞いてきてくれたりする生徒もいて、「僕やコラソンのことを知ってくれてるのは本当に嬉しいですね」と笑顔を見せる。

11位と低迷 “オフェンスの質”改善し浮上へ

球コラソン_髙橋友朗選手
チームの浮上に向けて決意を新たにしている

ただ、今シーズンのコラソンは2勝9敗1分と成績が振るわず、現在13チーム中11位と下位に沈む。新加入の外国籍選手と言葉の壁があり、チームとしての連係不足を露呈した。それでも12月にあったアウェー2試合はいずれも敗れたものの、どちらも順位が上の相手に対して2点差の接戦を演じ、目に見えてチーム状況は改善してきている。

髙橋も「監督としても外国人選手を軸にしたいという方針がある中、彼らもコミュニケーションの在り方をいろいろ考えてくれて、プレーの意識のギャップはかなり減ってきました。日本人選手同士は昨シーズンから良い形で連係が取れているので、うまくいかない時は日本人選手で立て直すこともできています」とチームとしての成長を実感している。

今後の課題については、オフェンスの質を挙げる。

「足が止まってプレーしている状態が多く、もったいないミスから速攻を出されているので、そこを自分や(佐藤)草太さん、(布施)凜太郎とか若いメンバーがフットワークを使い、運動量のあるオフェンスがしたいです。ディフェンスはフィジカルの差が出てしまっているので、できるだけ全員がウエイトをアップし、接触の強度を上げていきたいです」

日々接している興南の生徒たちに対しても、社会人の先輩として、プレーを通して伝えたい想いがある。

「派手なシュートとかスコアよりも、泥臭いディフェンスとか、諦めない姿を見てもらいたいです。学校でも期限を守るなど、やるべき事を地道にしっかりやる、ということの大切さを生徒たちには伝えています。それはスポーツに限らず、社会に出ればどんな業界でも求められることです。自分の活動する姿から、そういう部分を感じてもらいたいですね」

日本最高峰リーグでプレーする“先生”は、きょうも熱い想いを胸にコートを駆け回っている。

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