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真栄城 潤一

真栄城 潤一

ゴリゴリ訛るシーラーに、濃厚なローカルネタ…『沖縄方言すぎる白雪姫』がクセになる 制作者の仮歌シンガー・rainさんインタビュー

『沖縄方言すぎる白雪姫』rain

「くぬとぅいぐゎーよひゃー ちゃーみちきーしてからにだー かしまさぬ」。白い鳩に囲まれて美しいメロディーの鼻歌を歌う白雪姫が口を開くと、めちゃくちゃ中部訛りの沖縄方言を喋り出して度肝を抜かれる。仮歌シンガーのrainさんが制作したYouTube動画『沖縄方言すぎる白雪姫』のインパクトが物凄い。冒頭の方言セリフは、この動画の最初のワンシーンからの引用なので、とにかく映像で音声とともに確かめてほしい。
この『白雪姫』動画は、歌唱力抜群の歌の説得力もさることながら、イントネーションも含めて違和感のない方言とピンポイントかつ濃厚なローカルネタが県内の人たちに突き刺さり、方や県外の人からは「何言ってるか全く分からないけど中毒性がある」といったコメントが多数寄せられていて、沖縄方言への興味を持つ1つの入り口にもなっている。沖縄の言葉で喋り、歌うことの楽しさや、動画制作の裏話などについてrainさんに話を聞いた。

—— 先ずは仮歌シンガーというお仕事についてお聞きしたいんですが、具体的にはどういうことをしているんですか。

名前の通り「仮の歌」を入れるお仕事なんですけど、例えばシンガーソングライターだと自分で弾き語りして作曲して自分でデモ音源を作れるんですけど、自分で曲を作らないシンガーさん、声優さんや俳優さんだと、作曲家の方が曲を作って提供する形になります。その時に、作曲家さんの曲でガイドボーカルとして歌うという感じです。

—— ちなみに仮歌シンガーって、どうやったらなれるんですか。

『沖縄方言すぎる白雪姫』rain

機材さえあれば誰でもなれます(笑)。私は自分で機材を用意して、YouTubeに投稿した歌を名刺がわりにして営業して、って感じでやってます。例えば「ココナラ」(※)というサイトで募集があったり、X(旧Twitter)とかでも「曲作ったので仮歌入れてくれる人募集」と呼びかけている人がいたりします。
ただ、今はボーカロイドの精度が上がってることもあって仕事は減ってきていますね。ちょっと前まではロボットだと分かるからこそボカロの可愛さがある、という感じだったのが、今はもうほぼ人間なんです。ブレスとかちょっとした“下手さ”とかも演出できるようになってて、上手すぎると情感が逆に出ないから、ちょっとピッチ外すみたいなこともやってるんですよ。
(※ココナラ/coconala…さまざまなジャンルの「知識・スキル・経験」といった得意を売り買いできるスキルマーケット。プロや専門の人材に仕事を依頼できるWEBサイト)

—— 技術の進歩を如実に感じるお話ですね…。さて、動画についての話に移ります。前段として、rainさんが沖縄方言に興味を持ったきっかけや、どんなところに面白さ・気持ち良さを感じているのかお聞きしたいです。

最初のきっかけは、小学校あがる前にうちの祖母が、おばあちゃんたち同士で井戸端会議してるのを聞いた時、もう本当にお腹抱えて笑って「何喋ってるの、ばあちゃん!?(笑)」って。最初は「英語さぁ〜」って言われてて、カッコ良い!と思い込むくらい騙されてたんですけど(笑)。私に対してはパッと切り替えて共通語で喋るのに、おばあちゃんたち同士では何言ってるか分からない。
後々方言だと知った時に、いいはずーと思ったんですよ。何でばあちゃんたちは喋れて、同じ所で育った自分は喋れないの、羨ましい!カッコ良い!っていう憧れを抱いた。その後、小6くらいの時に生まれ育った町で全部沖縄方言で子どもたちだけで作る舞台をやるということで出演者を募集してて、喜び勇んで参加したんです。セリフなので、流暢な方言が喋れるんですよ。それがすごい嬉しかったのを覚えています。「歌ってみた」とかもそんな感じはあると思いますね。歌だとすんなりいけるというか。

—— フレーズと言葉が決まってるから、ということですかね。

そうです。自分だと文法が分からなかったりとか、どうしても「うちなーやまとぐち(沖縄方言と標準語のミックス)」にしかならないんですけど、言葉が決まってさえいればカッコ良く喋れて気持ち良い、みたいな。
それと、長音が多いところとかも好きですね。「シークワーサー」とか「あわてぃーはーてぃー(慌てたり、焦ったりしている状態)」とかの伸ばす音。内地に住んでたらそういう喋り方や言葉って、外来語じゃない限りあまりないので。あと、沖縄のイントネーションも相まってウチナーンチュの人たちの喋りはメロディーみたいに、歌ってるみたいに喋ってるなって思うんです。伸ばすと柔らかく聞こえるようにも感じて、それが喋ってて気持ち良い所だと思います。

『沖縄方言すぎる白雪姫』rain

—— 『白雪姫』を見てると、喋り部分のイントネーションが本当に違和感も引っかかりも無いのが凄かったです。アフレコの喋りを収録する上で、何か心がけたことってありますか。

「アフレコしよう!」とマイクの前に立って、自分が書いたセリフを見たら、なんか自然と「ないちゃーむにー(内地の人の真似、標準語っぽく話すこと)」になる時もあるんですよ。だから、出来るだけ自分の沖縄の家族とか友達とかを目の前に想像して、普段喋りかけてる感じを意識して一生懸命喋ってたところはありますね。

—— なるほど。動画の中で、島袋のおじさんたちがわちゃわちゃしてるシーンは特に、中部の売店でおばあとかおじいたちの話を立ち聞きしてる時みたいな感じがして超良かったです(笑)。収録している中で、歌う時と喋る時の違いってありますか。

歌はメロディが決まってるので、あんまりイントネーションを意識することなく乗せていく感じです。喋りは、アフレコするとなると「ちょっと大袈裟に訛ろう」とか「分かりやすく強弱つけようかな」みたいなのはあります。この言葉どんなだったっけ、とつまずいたら1回おかーに電話して喋ったら戻れるんですよ(笑)

—— 「方言で歌ってみた」楽曲をたくさんアップしてますけど、標準語で歌う時と、方言で歌うの違いはありますか。

標準語の歌詞だと、詩を読んでるような感覚があったりしますけど、方言にすることで、気持ちが紐解きやすくなることとかがあって。
例えば「ラムのラブソング」を沖縄方言で歌ってるんですけど、「♪ああ 男の人って」っていうのを「♪はぁ〜やぁ〜 いきがんちゅ(男の人)んでぃ」にしてるんですよ。この「はぁ〜やぁ〜」の部分とか「ああ」よりは“呆れた感”が出て、自分の使い慣れた言葉だから「こういう気持ちだったんだ」って元の歌詞にも親近感を感じることもありますね。
あとは「キューティーハニー」だと、「♪イヤよ イヤよ イヤよ 見つめちゃイヤー」を「♪べーひゃー べーひゃー べーひゃー ちゃーみ(目)ーしーねー ベーひゃー」ってしてるんですけど(笑)。普段生活の中で、照れて「嫌よ」って言わないじゃないですか。でも、照れ隠しで「べーひゃー!」って言うことはあるから「嫌よ」の解像度が上がるような気がして。
そういう楽しみ方をしてるので、方言だとより自分の親近感のある言葉になってて歌う気持ちが違うと思います。でも難しい方言でいっぱい訳した曲だと、感情移入どころか分からん分からん、舌まわらんってなりますけど(笑)

『沖縄方言すぎる白雪姫』rain

—— 印象に残る面白方言ワードが色々出てきてますね。特に頭の形に関するものが多かったり(笑)。沖縄にいた時って、日常的にどれくらい使ってた感覚ですか。

私は訛ってはいるけど、方言をめちゃくちゃ使う方ではなかったんですよ。祖母とかお母さんが、私たちに対してはいつも共通語なのに、わじわじー(怒った)した時だけ、「やなわらばーひゃー、じゅんに(悪い子だね、本当に)」って方言になったりしてて(笑)。そういうフレーズとかが頭に凄く残ってるんですよ。住んでたら普通に喋ってた言葉が、聞かなくなったことでその響きの面白さが凄く際立ってきたというか。

—— ちなみに頭の形シリーズは割とrainさんの個人的な興味によってる部分があるんですかね。

そうですね。テレビで芸能人の頭の形見ながら「でーじがっぱい」とかは言ってました(笑)。何でこんなに言葉があるんだろう、面白いなっていうのと、あと「がっぱい」「たっぺー」「たっちゅー」(※もうググって下さい)って、漫画の影響でうちなーんちゅじゃない人も知ってたりとか。何でしたっけ、あの漫画…

—— 『わたるがぴゅん!』ですか?

そうそう!それで使おうって思ったのもあります(笑)

—— まさかここで『わたるがぴゅん!』が出てくるとは…。でも、動画を観て真っ先に連想してたので、答え合わせができて良かったです(笑)。こうした固有名詞とかローカルCMといった要素は、どんな風にピックアップしたんですか。

私は20歳ぐらいで沖縄を出たので、その時点で沖縄のCMは止まってるんですよ。だからその時に覚えてためちゃくちゃ好きだったCMを詰め込みました。動画にもらったコメントで「まえさと」さんのCMの「♪とうふ、こんにゃく、太もやし」が、今は「もやし」になったって知ってちょっとショックでした(笑)。

—— ローカルCMの話って、なぜかめちゃくちゃ盛り上がりますよね。

本当ですよね。沖縄のローカルCMってやっぱり面白いんですよ。沖縄以外の場所にいくつか住んでいますけど、こんなにローカルCMがパンチ効いてる所って他に無いと思います(笑)

—— そろそろまとめにいきましょう。方言の使い方って、世代間で伝わる部分とか届く部分が違うと思うんですけど、方言にまつわるコンテンツ制作をしている上で、rainさんは世代とか時間経過と言葉の変化について、どんな風に捉えてますか。

『沖縄方言すぎる白雪姫』rain

私もうちなーやまとぐちしか知らない世代だし、方言が喋れないんですけど。逆に言ったら、ばあちゃんたちはうちなーやまとぐち喋れないじゃないですか。言葉が変化するのは自然なことで、特に誰かが止めることでもないですし、このままでいいなって私は思うんですけど。でも、無くなったら嫌だなっていう気持ちもある。
新しい言葉が生まれたり、新しい言い回しになったり、どんどん変わっていく言葉の良さもあると思う反面、せっかくなので残したいという気持ちももちろんある。だから興味を持ってる人が残せば、とりあえずは何かは残ると思うんです。もちろん伝統芸能や民謡の部分は確実に残ってほしいものなので、専門の皆さんには頑張ってほしいと思っています。元々あるうちなーぐちはそこで残してもらって、県民が喋る普段の言葉はどんどん変化していく、ということが同時進行していくものだと思いますね。だから、それぞれの世代の形のうちなーぐちでいいなって、私は思っています。

 —— rainさんが今やっていることは、方言への興味の入り口になることだと思います。その先の歴史とか沖縄そのものに興味持ってもらうには、どんなことが必要なのか、またこれからrainさんはどうしていきたいですか。

歌は強いな、って個人的には思います。今、流行りの歌を「うちなーぐちで歌ってみた」という形にしてますけど、それで何か1つのワードでも「これってこういう意味なんだ」って残ったらいいなって思うんです。自分自身が覚えたいという気持ちでやってるところもありますし、そんな風に残していって続けていきたいなって思っています。
それと『白雪姫』は一旦完結したんですけども、アフレコ動画はこの先もやっていきたいなって思ってて。その理由が、劇中のローカルCMの曲を全然知らない甥っ子たちがそれを歌ってたりとか、保育園の子どもたちが方言で数を数えるようになったとかコメントももらったりしたんですけど、それが鳥肌立つくらい嬉しくて。
こんな形で、少しでも「残す」ことが私に出来ているということが凄く嬉しいんです。私みたいに興味を持っている人たちが楽しんで何かをして、それを見てまたさらに興味持った人たちが繋いでいって、という感じでどんどん先は続いていくのかなと思います。

rain@沖縄方言で歌ってみた 関連情報

沖縄県内のイベント出演

アニソンライブ・アニベンチャー vol.40
『沖縄方言すぎる白雪姫』rain_出演オベント

日程:2024年1月6日 
時間:15時スタートと19時スタートの昼夜二公演。
場所:那覇市 Output(〒900-0013 沖縄県那覇市牧志2丁目3−22 髙良産業ビル)
料金:チケット¥2400(+1D) 
チケット予約:0120-55-7815

沖縄県内のTV出演

ゴリん家かたやびら

2024年1月3日(水)ひる12時00分〜 放送 

『ゴリん家で語やびら』 沖縄テレビ放送 ※沖縄県内の8チャンネル

ゴリん家で語やびらは、ガレッジセール ゴリさんのお家に豪華ゲストをお迎えするトークバラエティ番組です。
さまざまなジャンルでご活躍されている沖縄県民をお招きして、新年にふさわしい楽しい会話を繰り広げます。

>詳しくはコチラ

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