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平良 いずみ

平良 いずみ

「友達が居る場所」で起きた事。1本のドキュメンタリーに出来る事。【平良いずみのよんな~よんな~通信】

平良いずみアナウンサー(OTV 沖縄テレビ)よんな~よんな~通信

2024年幕開けの日。ニュース当番だった私は報道フロアに居た。
特番編成のため午後2時にはニュースの放送を終え、静まり返ったフロアでひとりパソコンに向かって作業をしている、その時だった。けたたましいサイレンの音に続いて、「石川県に、緊急地震速報。緊急地震速報」というアナウンスが響き渡った。体が動かなくなる…。テレビからは「能登半島で強い揺れを観測」「珠洲市などに大津波警報発令!逃げて!今すぐ逃げて!」アナウンサーの切迫した声が響く…。

大地震が起きた石川県珠洲市、そこには大切な人たちが暮らしている。
大切な人とは、映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』の主人公、坂本菜の花さんとそのご家族。
無事で居て、どうかご無事で…。ただただ祈った。

 「友達が居る場所」で起きた事。1本のドキュメンタリーに出来る事。【平良いずみのよんな~よんな~通信】
【映画 ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記より 沖縄の浜辺にて】 
 「友達が居る場所」で起きた事。1本のドキュメンタリーに出来る事。【平良いずみのよんな~よんな~通信】
【2018年 石川県珠洲市】

深夜、菜の花さんからショートメールが届く。
「身体は皆無事です」
短い文章から想像を絶する事態となっていることが滲み、胸が押し潰されそうになる。

翌日、電話をいただいた。受話器の向こうから聴こえる菜の花さんの声はいつにも増して芯の強さを感じさせる凛とした声で、家族が無事だったこと、今の状況などを端的に話してくれた。
電話を切った後、凍てつく寒さの中で駆け回る菜の花さんの姿が浮かび、どうかどうか穏やかな日常が一日でも早く戻ってきますようにと祈った。

でも、祈ることしか出来ないことが辛い…、そう思った時に菜の花さんのある言葉を思い出した。

「人ごとという理由でいろんな出来事を片付けてしまわないために、いろんな場所、県、国で友達をつくること。これは私が中二のときに、世界で起きている戦争を調べてたどり着いた答えの一つでした」(『菜の花の沖縄日記』出版元;ヘウレーカ)

「友達がいる場所」に想いを寄せること…。そうすることで、今自分が生きている場所で、出来ることを見つけられる!というメッセージ。本当にささやかかもしれないが出来ることを探そう、そう思えた。

 「友達が居る場所」で起きた事。1本のドキュメンタリーに出来る事。【平良いずみのよんな~よんな~通信】
【珠洲市で撮影した菜の花と桜 映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』より】

地震発生から2週間が経った。
画面越しに被災地の惨状を目の当たりにして、思うことがある。

それは、珠洲市に原子力発電所が出来なくて本当に良かったということ。
7年前、私にとって珠洲市が「友達がいる場所」になって初めて知ったことだが、1970年代、珠洲市には原発建設計画があった。
菜の花さんのお父さんである坂本新一郎さんをはじめ、地元の人々が市役所での座り込みなど息の長い反対運動を続けたおかげで、計画は「凍結」(事実上の断念)に追い込まれたのだった。

賛成か反対か、20年以上にわたり原発計画に二分された町の人々の声を全国に伝えたドキュメンタリーがある。
『能登の海 風だより』(1993年 石川テレビ制作 赤井朱美ディレクター)。自然と寄り添うように生きる珠洲の人々の暮らしを丹念に追い、そこにひそやかに入り込む原発計画の影を描き出す傑作。(いつかこんな作品を作りたい、でも追いつけっこない…。そんな憧れの作品です)

「ドキュメンタリーを作る唯一の羅針盤は、見知らぬ人たちの、無数の命を救うこと」
(元フジテレビのプロデューサー・横山隆晴さんの私の記憶の中の言葉・注1)

30年ほど前の地元の人々の地道な運動、そして、その姿を伝え大きなうねりをつくった一本のドキュメンタリー番組が原発計画を断念させる一助となり、時を超えて無数の命を救ったといっても過言ではないと、私は思う。

 「友達が居る場所」で起きた事。1本のドキュメンタリーに出来る事。【平良いずみのよんな~よんな~通信】
【珠洲市で撮影した菜の花 映画「ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記」より】

私は今、沖縄・宮古島で生きる15歳の少女・上原美春さんを追ったドキュメンタリーを作っている。
美春さんが書いた2編の詩を読んだ時、彼女の言葉が「無数の命を救うことになるのではないか」と感じた私は、電話で取材を申し込んだ。
電話口で美春さんのお母さんが戸惑っていることが伝わってきた。美春さんは3年前の慰霊の日に「平和の詩」を朗読し、目立ったことでいわれのない誹謗中傷を受け傷ついた経験があるから。

 「友達が居る場所」で起きた事。1本のドキュメンタリーに出来る事。【平良いずみのよんな~よんな~通信】
【「平和の詩」を朗読した上原美春さん 2021年】

テレビに取り上げられることで、また傷つけられるのではないか…、お母さんが不安になるのは当然のこと…。少し考えてほしいと伝え、受話器を置いた。

数日後、取材の許可がおりた。
美春さんのお姉さんが映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』を観てくださっていたそうで、「あの映画を撮った取材班なら大丈夫」と言ってくれたとのことだった。菜の花さんがつないでくれたご縁、小さな奇跡のように思えた。

「友達が居る場所」で起きた事。1本のドキュメンタリーに出来る事。【平良いずみのよんな~よんな~通信】
【上原美春さんが描いた絵 番組のタイトルに使用させていただきました】
 「友達が居る場所」で起きた事。1本のドキュメンタリーに出来る事。【平良いずみのよんな~よんな~通信】
【15歳になった美春さん】

今を懸命に生きる15歳の少女、美春さんの言葉に触れてほしいと願っています。
『ドキュメント九州 Unarmed~武器を置く〜』
沖縄県内では1月20日(土)午後1時〜放送。

ドキュメント九州 https://www.tnc.co.jp/dq/

 「友達が居る場所」で起きた事。1本のドキュメンタリーに出来る事。【平良いずみのよんな~よんな~通信】
【珠洲市で撮影した菜の花 映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』より】

厳冬の被災地の一日も早い回復を祈っています。

注1)「ドキュメンタリーを作る唯一の羅針盤は、見知らぬ人たちの、無数の命を救うこと」という横山隆晴さんの言葉は、正確には私の記憶の中の言葉です。メモを取り忘れた不肖な私が再度伺ったところ、「私たち(マスメディア)の役割は、多くの「見知らぬ人たち」のために、です」という言葉をいただきました。胸に刻みます)

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