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琉球ゴールデンキングス

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自分を「整える」。僕がBリーグで戦うために #88 牧隼利

 僕は“こだわり”が強い方だと思う。

 それはバスケットボールに対しても、日々の生活の色々な事に対しても。何かを考え始めたら、とことん突き詰めたい。客観的に自分を見ると、我ながら「面倒くさい奴だなあ」と思うこともあるけど、これが僕のスタイルだ。

 特に身体には気を遣っている。無論「アスリートは身体が資本だから」というのも一つの理由だが、それだけではない。

 トップレベルのプレーヤーの中には信じられないような身体能力やスキルを持つ選手がたくさんいるけど、僕はそうじゃない。すごく高く飛べるわけではないし、すごく素早い動きができるわけでもない。細かく自分の身体について探究し、理解し、突き詰めていかないと、このレベルで長く戦い続けることは難しいと感じているからだ。

 将来プロバスケットボール選手になることを目指しているプレーヤーの中にも、僕と同じように特段身体能力が優れているわけではない人も多いと思う。だから、1人のアスリートとしての僕なりのアプローチの仕方を解説してみたい。

 もちろん、僕は自分の価値観を他人に押し付けたいわけではない。自分の思考が正しいとも全く思っていない。僕自身、色々な情報を基に試行錯誤を繰り返して今の形に至っているし、今もなお日々勉強中だ。一つの「参考資料」というくらいの感覚で読んでもらえると、ちょうどいいかもしれない。

高校生の頃から始まった記録の習慣

 自分の幼少期を振り返ると、当時からこだわりの強い子どもだったように思う。

 物心ついた頃から炊き立てのホカホカのご飯しか食べたくなかった。炊いてから時間が経ったご飯を電子レンジで温めても、匂いで分かるからダメ。だからおにぎりも苦手だった。母が僕の好きだった唐揚げをおにぎりの具にしたりして、いろいろ工夫してくれたけど、中身だけ食べて、やっぱりご飯は食べられないという始末。

 それは今も変わらない。家で食事をする時は、丁寧に食事の時間に炊き上がるように設定する。試合後のケータリングでも、お米を最高の状態で食べたくて、自前のミニ炊飯器を持参したりもする。

 ラーメンも苦手だ。とんこつラーメンで有名な福岡県の福岡大学附属大濠高校に通っていたから、友人とみんなでラーメン屋に行くというシチュエーションが多かったけど、僕だけいつもチャーハンを食べたりしていた。偏食というわけではないけど、好き嫌いがはっきりしていた。

 そんな影響もあってか、自然と自分の身体に入れる物には意識が向いていたのかもしれない。高校生の頃に毎日何を食べたかを記録し始めた。
「食べ物が自分の身体やバスケのプレーにどう影響するかを調べてみたくなった」と言えばカッコイイが、当時はそこまで明確な理由はなかったように思う。実は高校時代の寮生活で毎日1時間の自習時間が設けられていた。そこで「ぼーっ」としているのももったいないから、「記録でも付けてみるか」くらいの軽い気持ちで始めた。

 ただ先述したように、やり始めたらとことん突き詰めたい性格だから、それは食べ物のみにとどまらなかった。毎日の起床時間から就寝時間、朝の脈拍、体重。朝起きた時の身体の感覚や寝付きの良し悪し、睡眠の質といった感覚の部分も含めて、自分の生活に関することをほぼ全て記録した。もちろん、バスケのパフォーマンスも。

 やり方は至ってシンプル。ノートを買ってきて、定規で線を引いて項目を作り、そこにマルバツや数字を記入したり、コメントを書いたりする。このことが今でも習慣として続いている。

こういうパフォーマンスの時にどのくらい寝ているか、どのくらいの体重があるのか。傾向が分かってきた

 この記録を毎日ずっと続けていたから、自分に関する膨大なデータがある。そうなると、やっぱり「データがあるだけじゃ意味がない」「もったいない」と感じるようになった。プロになってからは、日々の生活や食べたものが自分の身体にどう影響しているかをもっと可視化したいと思い、パソコンのエクセル機能を使って記録するようにした。そうすると、さらに色々な事が分かるようになった。

 例えば「睡眠の質」「体重」の項目とバスケのパフォーマンスの相関関係を見ると、こういうパフォーマンスの時にどのくらい寝ているか、どのくらいの体重があるのか、などの傾向が分かってくる。パソコンで管理をしていると、すぐに編集してグラフ化ができるので、関連性が見て取れる。

 食べ物についても、小麦を食べたらむくみやすいとか、お米を食べた時は身体のパフォーマンスが良いとか。肉と魚にしても、肉は刺激が強くてお腹に残りやすい。その傾向は豚、牛、鶏でそれぞれ変わる。メンタル的にイライラしやすい時は、前日に肉を食べた日が多いということも分かってきた。僕の場合は魚の方がメンタルは安定する。一方で、疲れている時は肉が食べたくなる。人工甘味料についても、極力避けるように心掛けている。

 インターネットが発達したありがたい時代だから、情報は取ろうと思えばいくらでも自分で集めることができる。糖質制限、脂質制限、ヴィーガン、グルテンフリー…。トレーニング法なんてのは無限にある。情報に敏感な方ではあるから、僕も様々な取り組みを試してきた。結局正解なんていうのは無くて、トライ&エラーの繰り返しなのだが、そうやって日々自分の身体と向き合っていると、「この情報おもしろいな」「もっと細かく記録を取ろう」という思考が生まれて、どんどん詳しく管理するようになっていった。

 あと、スポーツ選手の本やドキュメンタリー映像も好きだから、そこから情報を得ることも多い。野球の大谷翔平選手とか、筑波大学時代の同級生であるサッカーの三苫薫くんとかの本も読んだり、高校生の頃はサッカーの本田圭佑選手のドキュメンタリーが好きでその映像を繰り返し観ていた。

 彼らは食を含めて自己管理を徹底している。あのレベルの人たちが、あれ程の自己管理をしている。それを目の当たりにすると、僕くらいの能力のアスリートは余計ちゃんと管理しないとダメだよね、と思わされる。

 ただ言わずもがな、もちろん僕も完璧じゃない。常に弱い自分と戦っている。今はグルテンフリーを取り入れているけど、どうしてもパンが食べたくて、食べる時もある。「みんなで焼肉に行こう」という話になれば、そういう時間は絶対に大事にしたいから、制限しないでしっかり楽しくいただく。長く続ける上では、そういう時があっていい。

気を付けていたのに怪我をしたことがショックだった。でも必要な時間だった。

 学生の頃から記録は取っていたが、今みたいにここまで細かく管理するようになったのは、あるきっかけがあった。2021-22シーズンの途中で右足首に負った怪我である。
 ずっと身体のことを気にしていただけに、悔しかった。ショックが大きかった。

 当時はコロナ禍で家にいる時間も長かったから、色々と勉強して、やり方を深く見つめ直してみようと思った。
徹底的に自分の身体と向き合った結果、今重きを置いていることは身体を整える、自分を整えるということである。それは日々の姿勢、立ち方から食事まで、ましては自分が使う言葉まで。
その結果、今のやり方は自分的に1番しっくりきている気がする。そう考えると、あの怪我やリハビリの期間は必要な時間であったと思える。

バスケットボール選手は身体が資本の仕事。小心者なだけかもしれないし、自分の性格的な部分も大きく作用しているけど、バスケに繋がることは日々改善していきたい。

 先にも書いたが、やっぱり僕程度の身体能力で、このレベルで戦い続けるためには、よほど自分の事を突き詰めていかないと厳しいと感じている。特別な劇薬なんてものはなくて、毎日トライ&エラーを繰り返しながら、自分の身体と向き合い続けるしかないのである。

 バスケでも「考える力」が自分の持ち味だと思っている。自分にできることを日々考え、地道に続けていく。それが、僕のやり方だ。

日々の生活が整えば、バスケにも良い影響が出る

 他にも、ミニマリストになったり、家計管理を徹底したりと、色々とこだわりはある。

 上記のことは、バスケットボール選手としてのプレーとかけ離れている話に聞こえるかもしれないが、実はそうでもないのかもしれない。日々の生活から自分が整った状態じゃないと、それこそ正しい判断や良好な精神状態は保てない。日々の生活が充実した上でのバスケットボールだ。
使命感でやっているわけではないが、長いキャリアを築いていくためには、こういった事も大切だと僕は考える。
ここに関しては、昔から親、高校・大学で常に言われてきた、「バスケだけやっていてもダメだよ」という教えが活きているのだと思う。

今日もまた自分と向き合いながら、成長できるチャンスを常に探し求めながら生きていくのである。

 実は、このPlayers Storyも何度も何度も読み返し、試行錯誤してなんとか書き終えた。僕はそれほど”こだわり”が強いのかもしれない。いや、面倒くさい奴なだけなのかもしれない。これ以上書くと終わりが見えなさそうなので、今回はここでペンを置くとします。

#88 牧隼利

1997年12月14日生まれ。埼玉県出身。
2019-20シーズンに特別指定選手としてキングスに加入し、在籍5年目。高いバスケIQを持ち、ハンドラーとしても成長を続ける。バスケットボールをはじめたきっかけは父がやっていたから。

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