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長嶺 真輝

長嶺 真輝

琉球ゴールデンキングスのPGに課された“贅沢な悩み” 史上初の「2冠達成」へ、個のチカラをチーム力に昇華できるか

琉球ゴールデンキングスのPGに課された“贅沢な悩み” 
ポイントガードの一人としてオフェンスをコントロールする牧隼利=14日、沖縄アリーナ©琉球ゴールデンキングス

球技の団体スポーツではどの競技にも言えることだが、いくら個の能力が高い選手が多くても、それがチーム力の向上に直結するとは限らない。互いのプレーに対する理解を深め、連係を向上させない限り、それぞれの個性を引き出すことは難しい。

正にその成熟過程にあるのが、プロバスケットボールBリーグの琉球ゴールデンキングスである。

現在27勝12敗で西地区首位。今月14日に沖縄アリーナで行った天皇杯全日本選手権の準決勝では、川崎ブレイブサンダースに98ー70で大勝して2年連続で決勝に駒を進めた。未だどのクラブも達成したことがないBリーグと天皇杯での「2冠」獲得に向け、着実に歩みを進めている。

現状の結果だけを見ると順風満帆に見えるが、実はそうでもない。Bリーグで最も苦しい時期となった1月は4勝5敗と負け越し。2月は4勝1敗で白星が先行しているものの、ボール回しが停滞するなど決して内容が良いとは言えない試合もあった。

PG牧「アドバンテージがある所があり過ぎる」

琉球ゴールデンキングスのPGに課された“贅沢な悩み” 
自らシュートに行く牧隼利=14日、沖縄アリーナ©琉球ゴールデンキングス

なぜこのような状況が生まれたのか。オフェンスの司令塔であるポイントガード(PG)を務める牧隼利から見えている景色が、その要因を理解する上で分かりやすい。以下は天皇杯準決勝後の会見で言ったコメントである。
 
「ちょっと言い方が傲慢かもしれませんが、アドバンテージがある所があり過ぎるんです。ヴィック選手が3番(スモールフォワード)で、インサイドにダーラム選手とかクーリー選手がいて高さの利がある。隆一さんとか今村選手みたいに外から切り込んで点を取れる選手もいる。結局、どこにボールを集めて、どこに回すのかという共通認識がチームとしてできていないと、ボールが止まってしまうんです」

今シーズンのキングスは、昨シーズン千葉ジェッツでエースを務めたヴィック・ローを補強。ただジャック・クーリーやローなどチームの柱となる外国籍選手の相次ぐ負傷や、東アジアスーパーリーグ(EASL)への参戦に伴う過密スケジュールで満足な練習ができず、前半戦は連係を深めるのに苦心していた。

しかし、1月下旬に身長211cmのセンターで、過去にはアルバルク東京で2連覇の経験もあるアレックス・カークが帰化。外国籍選手2人とカークが同時にコートに立つ「3BIG」の選択肢が加わり、各選手のコンディションが徐々に整ってきたことも相まって攻守に厚みが増した。牧の言葉にあったように、日本人も今村佳太や岸本隆一、松脇圭志など得点力が高い選手が揃っているため、オフェンスにおいて「アドバンテージがある所があり過ぎる」という“贅沢”な悩みが生まれた。
 
その上で、牧と同じくPGとして試合をコントロールする岸本は表現したいオフェンスをこう説明する。

「一番は相手のウイークポイントを見極めて、的を絞らさせずにどうアタックできるかをずっと考えています。シュートに至るまでにみんながボールに関わった上で攻めたい。僕の勝手な理想は1回のポゼッションでみんながボールを触って、最終的に誰かがシュートを打つということです。だからこの選手ちょっとボール触ってないなとか、この選手に回したいな、とかも考えます」

そう話した後、最後にもう一度「ずっと考えてます」と付け加えた。

一部の選手にボールが集中すれば、相手からすると守りやすく、他の選手のシュートタッチの精度を低下させる可能性もある。コート上の選手たちがボールをシェアしながら、いかにお互いの強みを引き出すか。どうあがいても、ボールは一つしかない。ゲームメイクをするPGはもちろんのこと、チーム全員で共通認識を持つべき課題なのだ。

天皇杯準決勝で見えた“理想のカタチ”

琉球ゴールデンキングスのPGに課された“贅沢な悩み” 
ベンチで指示を出す桶谷大HC=14日、沖縄アリーナ©琉球ゴールデンキングス

そんな中で迎えた天皇杯準決勝は、キングスにとって“理想のカタチ”とも言える内容だった。

岸本、今村、ロー、アレン・ダーラム、カークという、いずれも得点力の高い先発メンバーで試合に入ったが、序盤から内外でパスを回しながらバランス良く得点を重ねた。交代で入る選手もボールシェアを貫き、ダブルチームを仕掛けられたビッグマンも球離れが良く、強引なタフショットはほぼ無し。今季のBリーグにおけるチーム全体の平均アシスト数は24チーム中23番目の16.4本だったが、この試合は26本に達した。

試合後、桶谷大HCと牧が手応えを語った。

桶谷HC「オフェンスでボールが回り、シュートも入った。これをやっていたら、どこにも負けないというような会心のゲームができたと思います。メンタル的にもしっかりセットできていて、誰かがダラけるとか、ケアレスミスをするということも少なかったです」

牧「今日の試合はカーク選手が(帰化選手として)加わってから、チームとしてすごくボールが回っていた印象があります。すごく良かった。僕はPGなので、その辺のコントロールは意識していかないといけないと思っています」

「しんどい」前半戦を“糧”にさらなる進化を

琉球ゴールデンキングスのPGに課された“贅沢な悩み” 
ゲームコントロールや勝負強い3Pでチームを引っ張る岸本隆一=14日、沖縄アリーナ©琉球ゴールデンキングス

一方、岸本は「普通に力を出すことの難しさ」に言及した上で、危機感も口にした。

「相手が工夫して守ってきた時にどう打開するか。今日は試合を通してキックアウトしたり、ドライブしたりして、『その先』があった。これをいかに続けられるかという部分では、こういうゲームができるのも自分たちの実力だし、20点差開いても、そこから詰められてしまうのも自分たちの実力。これが当たり前とは思っていないです。常に危機感を持ち、バイウイーク(リーグの休止期間)でいい準備をしていきたいです」

キングスは天皇杯準決勝を終え、半月ほどのバイウイークに入った。次戦は3月2、3の両日、現在32勝5敗で中地区首位かつリーグ全体1位の三遠ネオフェニックスとアウェーで対戦する。さらに6日に西地区最下位の京都ハンナリーズをホームに迎えた後、16日にさいたまスーパーアリーナで天皇杯決勝という大一番を迎え、昨年敗れた千葉ジェッツに対してリベンジに挑む。

Bリーグは全60試合を行うレギュラーシーズンの約3分の2を消化したが、前述のようにキングスは海外での試合もあるEASLの日程も並行してこなしてきたことで、これまで厳しい戦いを強いられてきた。土日の連戦の間に水曜ゲームを組まれる週が多く、相手チームに対するスカウティングの難しさや疲労の蓄積、BリーグとEASLの使用球の違いによるシュートタッチの狂いなど、様々な難題と対峙しながら西地区1位をキープしてきた。

それを念頭に、桶谷HCが言う。

「連覇を期待されているとは思いますが、もちろん簡単なことではありません。その中で選手たちは仲間と一緒にああでもない、こうでもないと言い合いながら頑張っています。前半戦はしんどいシチュエーションがいっぱいありましたが、これが糧になり、後半戦で自分たちが目指しているバスケットにより近付いていけるんじゃないかと期待しています」

EASLはグループステージでの敗退が決定して今シーズンの日程が終わり、主力選手も揃ってきたことで、ここにきてようやくスケジュールも含めてチーム作りに注力する環境が整いつつあるキングス。天皇杯とBリーグの2冠が懸かるシーズン最終盤、さらに進化した姿を見せてくれそうだ。

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