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長嶺 真輝

長嶺 真輝

「強力」セカンドユニットの再来か?!琉球ゴールデンキングスの“アンセルフィッシュ”さが生むベンチメンバーの活気

琉球ゴールデンキングスの“アンセルフィッシュ”さが生むベンチメンバーの活気
ドリブルで相手ディフェンダーをかわす荒川颯=6日、沖縄アリーナ©琉球ゴールデンキングス

プロバスケットボールBリーグの琉球ゴールデンキングスが好調だ。1月末に身長211cmのアレックス・カークの帰化申請が許可されたことでメンバーの厚みが増し、目下7連勝中。現時点で30勝12敗と西地区首位を走り、クラブ初の2連覇を狙える体制が整ってきた。今月16日には天皇杯全日本選手権の決勝も控え、史上初の2冠達成を見据える。

そんな中、最近の試合で目立つのが、これまで出番の少なかったベンチメンバーの活躍だ。

その筆頭が、昨年7月に練習生としてキングスに加入し、開幕直前に選手契約を勝ち取ったガードの荒川颯である。攻守で存在感を増し、桶谷大HCも「切り札が増えた」と信頼を寄せる。

荒川と同じく練習生出身の植松義也や、左足首のコンディション不良で欠場する時期もあったキャプテンの田代直希もパフォーマンスが向上しており、ベンチが活気付いている。

昨シーズン、キングスが初優勝を達成できた要因の一つは、シーズン終盤にかけて完成度を高めたセカンドユニットの強さだった。千葉ジェッツと対戦したファイナルの2試合はいずれもベンチポイントが45点に上り、ベンチメンバーの頼もしい活躍を覚えているファンも多いだろう。今季もレギュラーシーズンの約3分の2を終え、終盤戦に向かう中、強力なセカンドユニットが完成しつつある。

「切り札」として攻守に活躍する荒川颯

荒川は今シーズン、開幕直後こそ若干のプレータイムを得ていたが、昨年11月から今年1月まではほぼ無し。出場しても2〜3分程度で、既に勝敗が決まった最終盤の時間帯がほとんどだった。しかし1月31日にあった佐賀バルーバーズ戦からほぼ毎試合プレータイムを獲得し、直近の試合で、106ー80で快勝した今月6日の京都ハンナリーズ戦では今季最長の16分16秒コートに立った。

特に印象的なのはディフェンス面の貢献だ。相手のハンドラー(オフェンスをつくる司令塔)に対して前線から激しいプレッシャーを仕掛け、時にはスティールを奪う。キングスは小野寺祥太や松脇圭志、今村佳太、ヴィック・ローなど、スキルやスピードのある選手を1対1でマークできるディフェンスの良い選手が揃っているが、さらに厚みが加わった形だ。

桶谷HCも京都戦後の会見で、ハンドリングの優れたプレーヤーに対する守備が改善してきている要因を問われ、こう答えた。

「一番の理由はディフェンダーが増えたことです。アレックスが(帰化選手として)いてくれることでヴィックがペリメーター(ペイントエリアとスリーポイントラインの間のエリア)の選手にマークにつけられる。あとは荒川がここにきて成長していて、小野寺も怪我から戻ってきた。いいディフェンダーがスタートでいるし、バックアップのセカンドユニットでもいる状態なので、キングスの強みになっていると思います」

ポイントガードの牧隼利が腰のコンディション不良で欠場が続く中、荒川はハンドラーの役割を任せられる時間帯も増えてきた。指揮官は「ハンドラーはコートに2人残したいという部分があります。牧が怪我をしていますが、荒川が良くなってきてる。僕にとっては切り札が増えたなと感じます」とオフェンス面も評価している。

荒川は2月11日にホームであった古巣のレバンガ北海道戦後、ファンを前に「目指すべきものはもっと先にあると思っているので、これから成長できるようにしっかり準備してまいります。応援よろしくお願いします」と語っており、まだまだ上を見据えている。

主将の田代「怪我前の感覚に近付いている」

琉球ゴールデンキングスの“アンセルフィッシュ”さが生むベンチメンバーの活気
ボールをコントロールする田代直希©琉球ゴールデンキングス

田代の復調も明るいニュースだ。2021-22シーズンに負った左膝前十字靭帯断裂などの大怪我の影響で22-23シーズンもなかなかコンディションが上がらなかったが、今季は開幕からロスター入り。2月は左足首のコンディション不良で欠場したが、バイウイーク(リーグの中断期間)明けから復帰し、3月の3試合のうち2試合は出場時間が10分を超えている。京都戦では3P2本を含む8得点、3リバウンド、3アシストを記録した。

試合後の会見に姿を見せ、自身もコンディションの良さを実感しているようだった。

「調子が上がってきている時に足首を捻挫してしまい、勢いに乗りたいところで乗りきれなかった部分はあります。ただ体の状態はかなり上がってきていて、怪我前の感覚に近づいてきています。復帰してから、どうしても頭に対して体の感覚が遅れてしまっていましたが、ほぼ感覚通りに動けています」

自身にとって最大の武器であるディフェンスのフットワークも目に見えてキレが戻ってきている。「全力でやりきって15分」と体力面での課題は感じているが、生え抜き8年目でベテランの域に入ってきた田代がベンチに控え、短い時間で安定して結果を出せるようになれば、一戦一戦の重要度が増す終盤戦に向けて心強い手札になるだろう。

チームに勢いをもたらすベンチの“起爆剤”

琉球ゴールデンキングスの“アンセルフィッシュ”さが生むベンチメンバーの活気
コート上の選手たちを鼓舞する桶谷大HC©琉球ゴールデンキングス

京都戦で2本の3Pを沈めた植松も含め、これまでベンチを温める時間が長かった選手たちが躍動し始めた理由は何なのか。田代のコメントにその一端が垣間見える。

「チーム状態は順風満帆ではなく、怪我をして離脱する選手もいました。その選手の穴をどう補っていくかというところで、チームが良くなっていった印象があります。プレータイムの獲得競争が激しく、抜けた選手がいることでチャンスが巡ってくる選手もいる。そういった選手たちが着実にチャンスを掴んでいるような印象があります」

確かに田代自身も含め、日本人選手の中では小野寺や牧、渡邉飛勇など負傷する選手が相次いでいる。その間に荒川や植松といった若手の出場時間が増え、実戦の中で成長をしている印象だ。

もう一つの理由は、チームに浸透してきている“アンセルフィッシュ(自己中心的ではない)”なマインドだろう。

キングスは前半戦、オフェンスの連係を深めるのに苦労したが、カークが帰化してからそれまでビッグマンの役割も求められていたローが自身のプレースタイルに最も適したスモールフォワードのポジションに入れるようになり、パズルがきれいにはまったように全体の連係が改善。さらに最近ではジャック・クーリー、今村、小野寺という主力格がベンチスタートに回って選手が交代してもチームレベルが落ちることがない。互いへの信頼感が増してパスがよく回るようになり、各選手が個性を発揮しやすくなった。

オフェンス力の向上は数字にも顕著に表れ、3月の3試合の平均得点はシーズン平均(82.2点)を大きく上回る103.6点。京都戦ではベンチに入った12人が全員得点を決めた。スムーズなボール回しからフリーのシュートシチュエーションを多く作り、3Pの成功数はチーム新記録の20本に達し、ベンチポイントは48点を記録した。

ベンチメンバーの活気がチームに勢いをもたらしていることは、選手や指揮官のコメントからも見て取れる。

田代「セカンドラインナップでかなりの点が取れたことは、相手からするとすごく嫌なことだと思う。きょうは荒川選手も植松選手も良かった。選手ごとの個性が光ると、オフェンスでもディフェンスでも相手は的を絞りにくくなると思います」

桶谷HC「大体のコーチが8〜10人でローテーションしたいと思っていると思いますけど、このチームは12人が出てもみんながしっかりと仕事ができる。11人目、12人目の選手が出ても、インテンシティ(強度)やチームバスケットの深みが落ちないのであれば、みんな出したいし、それぞれが活躍してくれるとチームは自ずと盛り上がる。スタートの選手が得点するよりも、ベンチにいる選手が得点した方が起爆剤になるところもあります。そういった意味では、今は『起爆剤』がベンチにいっぱい並んでいるなと感じます」

一発勝負である天皇杯決勝、2戦先勝方式のトーナメント戦で争うBリーグのチャンピオンシップ(CS)を勝ち切る上で、極めて重要な要素となるベンチメンバーの厚み。タイトル奪取に向けて視界は良好だ。

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