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長嶺 真輝

長嶺 真輝

天皇杯で“歴史的大敗”を喫した琉球ゴールデンキングス 見つめ直すべき「原点」と進化のポイントとは

琉球ゴールデンキングス_第99回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会
千葉ジェッツのエースである富樫勇樹(左)をマークする岸本隆一=16日、さいたまスーパーアリーナ©琉球ゴールデンキングス

2年連続で同じ顔合わせとなった第99回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会の決勝が16日、さいたまスーパーアリーナで行われ、琉球ゴールデンキングスは千葉ジェッツ(千葉J)に69ー117で大敗を喫した。この失点数は、チームにとって公式戦における過去最多の数字。昨年の雪辱を果たせず、沖縄に初めて天皇杯を持ち帰るという目標は達成できなかった。

目次

桶谷HC「めちゃくちゃ恥ずかしいです」

1月末にアレックス・カークが帰化選手となって連係が劇的に改善して以降、Bリーグでは目下7連勝中と絶好調だったキングス。会場には15,385人もの観客が詰め掛け、天皇杯初優勝を期待するキングスファンも多く来場していたため、桶谷大HCは「沖縄から応援しに来てくれた人たちがいて、これだけ期待してくれている中での大敗なので、めちゃくちゃ恥ずかしいです」と厳しい表情で振り返った。

田代直希主将は、危機感を含んだ表情でこう言った。「終始解決策を見付けられずに、少し糸が切れてしまった状態で試合が進んでしまった。結果以上に、僕たちがどういうスタイルで、どういうチーム、組織としてシーズンを歩むのか、また見つめ直さなくちゃいけない試合になったと思います」

田代の言葉にあるように、点差などの「結果以上」にキングスが貫いてきた勝利への貪欲さや、劣勢の時でもエナジーを出して戦い続けるという精神が欠けるような場面もあった。

ただ、20日にはBリーグの試合が再開し、最終目標であるBリーグ連覇への険しい道のりが待っているため、下を向いている暇はない。見つめ直すべきチームの「原点」とは何か。そして、屈辱的な惨敗から目を逸らさず、何が課題だったのかを明確にし、そこから何を学び、どう進化していくのかが問われている。

“悪夢”の第3Q 3P攻勢で突き放される

琉球ゴールデンキングス_第99回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会
チームトップタイの13得点を挙げたアレン・ダーラム©琉球ゴールデンキングス

試合は開始直後、警戒していた千葉Jのクリストファー・スミスに難しい体勢のスリーポイントシュート(3P)とフリースローを決められ、5点を先制される。それでも岸本隆一の3Pとヴィック・ローのミドルシュートですぐに追い付き、さらに岸本がもう一本3Pを沈めてリード。もう一人の警戒選手だった富樫勇樹や原修太にも3Pを許したが、我慢して21ー25で第1クオーター(Q)を終えた。

大きく試合が動いたのは第2Qだ。

千葉Jにカークとジャック・クーリーの“足”を狙われ、徐々に相手のオフェンスの勢いが増していく。センターの二人は高さや重量がある一方、動きが素早いわけではないため、意図的に外側に誘い出され、スピードのミスマッチを突かれて度々ドライブからシュートを打たれる。この状況だと二人はリバウンドにも入りにくいため、シュートが落ちてもオフェンスリバウンドからのセカンドチャンスポイントを許す場面も散見。富樫にも連続3Pを許して波に乗せてしまった。

キングスはオフェンスでも苦しんだ。第1Qからボールをコントロールするハンドラーに対してダブルチームを仕掛けられていたが、それによってじわじわとリズムを崩され始める。仕掛けられる前に素早くボールを離し、ボールムーブからフリーを作ったり、速攻からリズム良く3Pを打ったりしたが、ことごとくリングに嫌われた。第2Qで奪った点数は、クオーターごとではこの試合最小のわずか11点にとどまった。

そして32ー48と16点ビハインドで迎えた第3Qに、“悪夢”が待っていた。

スピードとサイズのある今村佳太を富樫につけたり、オフェンスでも引き続きダブルチームが来る前にボール離れを良くしたりして攻守に修正を図ろうとしたが、ディフェンスで簡単なミスが続く。再開直後に今村が富樫に裏を取られてイージーなレイアップを許し、ローとダーラムのコミュニケーションミスでアイラ・ブラウンにフリーで3Pを沈められた。

相手は波に乗って内外から得点を重ねる一方、キングスは点差が広いた焦りからかオフェンスのリズムも狂い始め、さらに差が拡大。このクオーターで6本の3Pを含む大量37得点を許し、リードを30点超に広げられて一気に勝負を決められた。

敗因は警戒した選手を「叩けなかったこと」

琉球ゴールデンキングス_第99回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会
コート上の選手に指示を出す桶谷大HC©琉球ゴールデンキングス

試合後、原が「前評判で『琉球有利なんじゃないか』と言う人たちが多かったので、それを覆して勝てたのはすごく嬉しいです」と言ったように、最近100点ゲームで勝つことも多く、上り調子だったキングスの優勢との見方もあった。どこで歯車が狂ってしまったのか。

敗因を問われた桶谷HCは、試合の出だしを挙げた。

「警戒していた富樫選手とスミス選手にファーストショットで決められてしまい、自分たちが叩けなかったことです。(マークマンを)振られたり、スペースを詰められなかったりして3Pを決められ、個人的にも波に乗ったと思う。千葉はEASL(東アジアスーパーリーグ)で優勝した流れのまま、『あ、これいけるな』というメンタルにさせてしまいました」

8〜10日にフィリピンであったEASLの決勝トーナメントを制した勢いのまま、天皇杯決勝に乗り込んだ千葉Jに対し、キングスは6日にあったBリーグホーム戦から中9日での試合。勢いの差を埋めるためにも、キングスにとっては試合の入りで相手の出鼻をくじくことは勝利に向けた命題の一つだった。

しかし、指揮官が「今日は全然フィジカルにプレーできなかった」と口にした通り、富樫とスミスに対するプレッシャー自体が不足し、二人とも20点超え。いいリズムが他の選手にも波及し、千葉Jの3P成功率は56.8%(21本成功)に達した。

もう一つ、大きな敗因となったのが、本来は自分たちの強みであるはずのリバウンドだ。特にオフェンスリバウンドは自分たちを8本上回る19本を奪われ、セカンドチャンスポイントで6対26と圧倒された。

「取られたのは、富樫君の3Pを消すためにドライブをさせたり、ビッグマンにパスを落とされてヘルプに行った後のリバウンドがほとんどでした。そこで自分たちがファイトしきれず、前に入られてリバウンドを取られてしまいました。そこは自分たちが超えないといけないところだと思います」(桶谷HC)

オフェンスにおいても、相手のダブルチームに最後まで苦しめられた。「自分たちのスカウティングとは少し違うディフェンスだった」と明かした今村は「打開策はあったのですが、少し無理にハンドラーが引っ張ってしまったり、ビッグマンがキックアウトできなかったりして、細かいところの状況判断が足りなかったと思います。ハードなディフェンスに受け身になってしまいました」と分析した。

劣勢の時の「結束力」が進化の鍵に

琉球ゴールデンキングス_第99回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会
積極的にゴールを狙う今村佳太©琉球ゴールデンキングス

敗因をいくつか挙げたが、岸本が「一つ一つの些細なことをちゃんとケアできず、一つの問題が二つの問題になってしまうという感覚が試合を通してありました。偶然ではなく、負けるべくして負けました」と言った通り、これらの要因は全て繋がっている。岸本は自戒を込め、「現段階で自分たちは強い時は強いチーム、劣勢に立たされたら巻き返せないチーム」と評した。

では、修正するためには何が必要だったのか。以下は岸本と牧隼利のコメントである。

「どれだけ試合に向けて準備ができていても、こういう事が起きるということを学びに変えないといけない。コーチのゲームプランを遂行する部分と、自分たちがアジャストする部分を、もう一度高い意識でやるしかないと思います」(岸本)

「流れが向こうにいっている時に慌てないで、冷静さを保つことが必要です。僕が貢献できるのはそういうところかなと思っています」(牧)

二人の言葉から見えてくるのは、コート上の選手たちがいかに自分たちで結束力を保ち、同じ方向を向いて修正を図っていくか、ということであろう。この試合では頻繁に苛立ちを露わにしたり、積極的にハドル(円陣)に参加していない選手がいたりする場面もあり、我慢ができずに自ら崩れていく悪循環に陥ってしまった。

岸本は「点差が離れた時こそ、いかにチームとしてまとまれるかが大事」と言い、田代も「良くない時にどうやって自分たちで立て直すが重要。残念な結果ですが、自分たちの成長に役立つ材料だと思ってポジティブに進んでいくないしかないと思います」と言葉を絞り出した。

ビッグマンが外に引きづり出された時のリバウンドや、3Pが上手いハンドラーのピックプレーをどう守るかなど、もちろん戦略的な課題もあるが、劣勢の時の「結束力」こそが、今後のキングスにとっての最大の進化のポイントとなりそうだ。

原点の「沖縄をもっと元気に!」を見つめ直す契機に

琉球ゴールデンキングス_第99回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会
今後に向けて「気持ちのこもったプレーをするしかない」と覚悟を語った岸本隆一©琉球ゴールデンキングス

キングスというチームの原点は「沖縄をもっと元気に!」という活動理念にある。

チームとしてまとまり、どれだけ劣勢でも常にエナジーを持って戦い、沖縄の地域社会に夢や希望、感動を与えるということだ。それが、結果として勝っても負けても、応援されるチームであり続けるための根底にある。今村が「今の時点で、みなさんに応援してもらえるようなチームではない」と言った通り、タイトルの懸かった大一番でその“キングスらしさ”を発揮することができなかった。

決勝の翌日、キングスを運営する沖縄バスケットボール株式会社の白木享代表取締役社長は、敗退についてのコメントを発表。その中には、こんな文言があった。

「再開するリーグ戦だけでなく、これからの球団の未来に繋がる契機となるよう、もう一度自分たちを一つ一つ見つめ直し、心から勝利を追い求め、最後まで戦い抜くキングスの姿をお届けすると誓います」

20日にはホームの沖縄アリーナに大阪エヴェッサを迎え、残り18試合となったBリーグのレギュラーシーズンが再開する。キングスは現在、30勝12敗で西地区首位につけるが、同地区2位の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(名古屋D)が2ゲーム差で迫る中、今後千葉Jや名古屋D、同地区3位の島根スサノオマジックなど強豪との対戦もあり、チャンピオンシップ(CS)進出に向けて予断を許さない。

改めてファンに対して自分たちの存在意義を示し、ここからさらに強さを増してBリーグ2連覇を果たすため、やるべきことは一つしかない。岸本の言葉だ。

「ここからまた自分たちが一つ一つ、毎試合毎試合、気持ちのこもった試合をするしかない。その上で結果が伴って、またもう一度、皆さんに期待してもらえるよう、日頃から取り組んでいきたいです」

昨年も天皇杯決勝で千葉Jに敗れたが、悔しさを糧にチームの完成度を磨き、Bリーグで初優勝を飾ったキングス。高い壁が立ちはだかったり、試練が訪れたりした時こそ、大きな飛躍を遂げるチームだということを、多くのファンが信じているはずだ。

KINGS_PLAYERS_STORY

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