公開日
長嶺 真輝

長嶺 真輝

“試練のシーズン”を戦い抜いた琉球コラソン 東江監督&主将が振り返った「難しさ」と来季への決意

“試練のシーズン”を戦い抜いた琉球コラソン
2023-24シーズンの最終戦後、ファンの前で挨拶する琉球コラソンの東江太輝主将=5月18日、沖縄市体育館(長嶺真輝撮影)

「コラソンに帰ってきて一番苦しいシーズンでした」

5月中旬、沖縄市体育館。

日本ハンドボールリーグ(JHL)2023-24シーズンの最終戦を終えた琉球コラソン所属5年目の東江太輝主将が、眉間にしわを寄せた。通算成績は4勝19敗1分の勝ち点9で13チーム中11位。開幕から引き分けを挟んで6連敗を喫し、連勝はなし。チーム完成度が上がりそうで上がらないモヤモヤした状態が続き、ホームのファンに白星を届けたのは一度のみだった。

前シーズンは8勝13敗1分の勝ち点17で12チーム中7位となり、歴代最多タイの白星数を記録した。1〜2勝のみというシーズンもあったここ5年ほどの長いトンネルを抜けたかに見えたが、再び暗中に。新シーズン開幕前、テーマに「Evolution(進化)」を掲げて勝ち星数2倍を目指した東江正作監督は、自嘲気味に「進化どころか退化してしまった」と悔やんだ。

なぜ、不本意な結果を招いてしまったのか。苦難のシーズンをどう来季につなげるのか。再浮上への道筋とは…。

外国籍選手とのフィットに苦心 スタートでつまづく

“試練のシーズン”を戦い抜いた琉球コラソン
相手ゴールキーパーの足元にシュートを放つ台湾出身のパン・エンジャー

2023-24シーズンの開幕前、コラソンのさらなる飛躍を信じたファンは多かったはずだ。
 
前のシーズンは身長190cm以上のコートプレーヤーが一人もいない小柄なチームながら、前から掛ける激しいプレッシャーや素早い攻守の切り替え、積極的な縦への1対1で上位陣からも勝利を奪取。さらなる戦力の向上を狙い、オフにいずれも192cmのパン・エンジャー、イェスペル・ブルーノ・ブラマニス、182cmのウー・ユクシーというサイズのある3人の外国籍選手を獲得し、戦術に「高さ」を加えようとした。

しかし、この選択が思わぬ誤算を招く。

コラソンの持ち味である「人とボールが動くハンドボール」を体現するためには、より細かい意思の疎通が必要となるが、言語の違いで外国籍選手との連係が深まらず。練習中はスマートフォンの翻訳アプリなどを使ってプレーを一つ一つ確認できても、試合中はそうはいかない。瞬間でのあうんの呼吸が必要になる。

チームプレーにズレが生まれた結果、高さを生かした戦術が増えるどころか本来の持ち味であるスピード感や体を張った強いプレーも影を潜め、昨年7月上旬の開幕から1カ月半の間に行われた8試合は1勝6敗1分とスタートダッシュに失敗した。

東江監督は「国が違うと(ハンドボールに対する)考え方や捉え方の違いが大きい。新しいプレーヤーがどれだけいい選手でも、言葉が通じないことで、コンマ何秒のやり取りが必要になる試合ではうまくいかないということをまざまざと見せ付けられました」と振り返る。

主力の途中退団も、最終盤で「地固まる」

“試練のシーズン”を戦い抜いた琉球コラソン
シーズンを通してチームの得点源を担った髙橋友朗

その後、長期のリーグ中断期間に練習を重ねたり、試合の中で少しずつ連係は改善していったものの、思うように白星が増えない。すると、別の難題も発生する。

ポストのディフェンスの要だった峰岸勁志郎と、新加入のイェスペルが今年2月で現役を引退。選手層が薄くなった。2月終了時点での成績は2勝12敗1分で、残り9試合。さらに勝利を上積みすることは困難に見えた。

しかし、コラソンは最後の最後で意地を見せる。

このタイミングで、峰岸と同じポストのディフェンスの要だった髙橋翼がシーズン途中の退団から復帰し、さらに反応速度の速いGK島袋翔、現役大学生で世代別日本代表の伊禮颯雅らが加入。いずれも20代前半の3人が躍動するなどし、3月以降は攻守でプレーの強度が増し、速攻も出せるようになって上位陣相手でも競り合う試合が増えた。

意思の疎通が取りやすい日本人選手のみで戦う時間帯が増え、「強さ」と「速さ」に重きを置いたコラソンのハンドボールに原点回帰した印象だった。
 
3〜5月に行われた9試合の結果は2勝7敗。さらに借金は増えたが、リーグ4連覇を達成した豊田合成ブルーファルコンにホームで7点差の好勝負を演じたり、最終順位が3位だったジークスター東京に対して勝利まであと一歩という試合をしたりと、20点差近い大敗を喫することもあった中盤戦までとは「負け」の内容が改善した。

ホームで行った最終戦も6位のトヨタ自動車東日本レガロッソに対して25対31で敗れたが、ディフェンスで体を張って相手のミスを誘ったり、得点源の佐藤草太や髙橋友朗らが強い縦の1対1や速攻から何度もネットを揺らした。

試合後、東江監督は少しだけ表情を緩め、こう言った。

「私はハンドボール人生がもう50年を越しますが、今シーズンは初めての事だらけで、いろんな事が起きました。その中でチームがガタガタになりかけた時もありましたが、それを乗り越え、いい状態で選手たちが今日を迎え、試合に集中してくれました。『雨降って地固まる』ではないですが、最後は一致団結して戦おうという雰囲気がつくれました」

東江主将「同じ方向を向いて戦いたい」

“試練のシーズン”を戦い抜いた琉球コラソン
最終戦後の引退セレモニーで涙を流す佐藤草太

日本代表男子が36年ぶりに自力で出場権を獲得した今夏のパリ五輪を経て、来シーズンは新リーグが開幕し、ハンドボールへの注目度が増すことが予想される。だからこそ、コラソンも試練のシーズンを糧により強くならなければ、再び順位を上げることは難しい。

「進化じゃなくて退化してしまったので、それをもう1回巻き直して、再チャレンジしたい。来シーズンは『本当にコラソン変わったね』と言われるようなチームにしたいです」と意気込む東江監督。「何を変えたいか?」と問われると、こう続けた。

「来シーズンはもっとアグレッシブに、もっと激しい攻防をやっていかないと、我々はこのリーグで生きていけない。そのためには、本当に選手が『もう嫌だ』って言うくらいトレーニングをしないといけない。試合後にはコートに立ってられないというくらい、目先の1試合1試合は死に物狂いで戦っていきたいです」

“試練のシーズン”を戦い抜いた琉球コラソン
最終戦後の記者対応でシーズンを振り返る東江正作監督

一方、34歳でベテランの一人である東江主将は、チームを構築する過程における反省点に目を向ける。シーズンを「コラソンに帰ってきて一番苦しいシーズンだったし、チーム作りの難しさを痛感させられたシーズンでした」と振り返り、その「難しさ」が生まれた根源の部分に言及した。

「チームの年齢層が幅広い中、若い選手に対して上の年代が一方通行になってしまったり、中堅の選手が自分の考えを強く出してしまったりということがありました。外国籍選手にも気を配る必要があり、全体を見過ぎてコアの部分を作れませんでした」

その上で、キャプテンとしての責任も口にした。

「これをどうまとめていくかという部分で、キャプテンとしてもまだまだ足りないところがあると感じました。毎年毎年違うチームではありますが、今シーズンに限っては、チームのまとめ役としてうまい立ち振る舞いができませんでした」

シーズン最終戦を最後に佐藤が現役を引退し、今オフには同じく得点源だった髙橋やサイドプレーヤーの仲程海渡、6シーズン所属したゴールキーパーの衣笠友貴も退団するなど、多くの主力が抜けたコラソン。一方、大学を卒業したばかりの若手の入団がシーズン終了後に発表され、チームを一から作り直すという意思も垣間見える。

最終戦後、東江主将は自身の役割を自らに言い聞かせるように、意気込みを語った。

「高い代償を払ったので、この結果を糧に成長できるようなオフの過ごし方をしないといけない。来シーズンに向けておもしろい選手も入ってきます。同じ方向を向いて戦うということを、シーズンの最初のうちに固めたいと思います」

勝利に向けて全員が同じ方向を向き、魂(スペイン語でコラソン)のこもった激しいプレーで観るものすべての魂を熱くする。基本理念でも謳っているチームのあるべき姿に立ち返り、来シーズンこそ、さらなる進化を遂げたコラソンの姿をファミリアに届けたい。

“試練のシーズン”を戦い抜いた琉球コラソン
試合をコントロールする東江太輝主将

あわせて読みたい記事

HY 366日が月9ドラマに…

あなたへおすすめ!